「再来! クカタバーウ砦」(前)
「彼ら幻魔はもう、大魔王が死んで呪縛が解けたのだから、好きに生き、好きに悪戯をして回れば良いのだ」
と、バンガウア。
「おう、大魔王大戦の生き残りだと言うのか? あのディンディンとやらは」
と、フーコツ。
「ディンディンは、千年に一本生えるという足を四本生やしている。あの大戦の、ずっと前から生きている大長寿生命体だ」
「ほう。そんな爺いだったのか」
「違う、婆だ」と否定されなかったので、唇の端をゆがめて笑うフーコツ。
「それで、『大魔王の呪縛』ってなに?」
とミトラ。
「『魅了』という呪いだ。魅了の能力を持つ者が、魔王の称号を得るのだ。故に、武力でロピュコロス様に勝っても、我は魔王になれんのだ。『魅了』を持たんからな」
「基本、一匹狼だって言うものね、魔族は。そんな連中をまとめ上げるなんて、大変だと思う」
ミトラは先ほどから感心の態だ。
「うむ。魔族を束ねる尊い能力だ」
「人間どもにはまだ推測の域を出ない事を、お主は言ってしまうのか」
と笑うフーコツ。
「ふん。我はもはや半分は人間だからな。呪われた身を内心、疎ましく思っているのかも知れんな」
「その呪い、あんまり効いてないのね、あなたには」
と、ジュテリアンが不思議そうに言った。
「さあ、どうだろうか? 我は元もと連むのは大の苦手であったから、性格的なものかも知れん」
上半身を鎖でぐるぐる巻きにされた状態で、首をひねるバンガウア。
「うん。魅了耐性はあるかも知れん。だが、ロピュコロス様は尊敬しておるぞ」
「何処がどう良いわけ? その魔王様は?」
ミトラが興味津々の態で言った。
「何処がどうって……、まあ、そのう……、魔王様だからな!!」
キッパリと言い切るバンガウア。
「ふーーん。前言撤回。あなた、ガッツリ魅了されてるわ!」
ミトラが断言した。
「バンガウアさんは魔王の虜で良いとして」
と、ジュテリアン。
「私は幻魔と妖魔の違いがイマイチ分からないんだけど」
「姿を消す妖は、全て幻魔で良いであろう。ワシも幻魔になってしまうが」
と、フーコツ。
「姿を消せないアヤカシが、妖魔と言われている訳ね」
と、ミトラ。
「ジャンジャ・ンビとか、イッタン・モメンとか」
うお。完全に日本の妖怪!
しかし発音が微妙だ。
一旦、木綿?
「ロクロククビも、人間そっくりだけど、妖魔で良いのよね? 変態とか変人じゃないよね?」
と、ジュテリアン。
「も、勿論ですとも。絵でしか知らないけど、首がニョロニョロ伸びたり、首が取れて空を飛んだり、そりゃあもう、妖魔ですとも」
と、ミトラ。
(うん? 「ロクロ」ではない「ロクロクな首? しかしその実態は、日本の妖怪「ロクロクビ」と同じようだ)
「外道魔で良いのではないか? 外道魔は、人間そっくりなのであろう?」
フーコツが言った。
「ああ、そうです」
ノッポさんが口をはさんだ。
「守銭奴とか、金の亡者とか、売国奴とか。一見、人間そっくりな連中です」
(うお。ロクロククビ、守銭奴と一緒にされちゃった?!)
クカタバーウへの道中、雑談は尽きなかった。
ノッポさんも積極的に会話に加わりながら、笑ったり怒ったりしている内に、砦に到着した。
砦は幻魔に支配されていなかった。
当然かもしれないが。
バンガウアを捕らえた後、
「テント村では手に余るので、そちらに連行する」
と、砦に伝達蜥蜴を飛ばしていたので、大門の前には出迎えが待っていた。
テント村のリーダーは、幌馬車からぼくらと「戦利品」を降ろすと帰って行った。
少し寂しそうだった。
出迎えは、「伝説の棍棒」の、元・見届け人、ノッポさんの相方であった太っちょ隊員。
オーガの大剣使い、ゴルポンドさん。
コラーニュ僧侶。
屈強そうな金属鎧の隊員六名。
計、九人だ。
無論、バンガウアが本気で暴れ始めたら、太刀打ち出来るメンバーには見えなかった。
(これ、バンガウアが捕虜の魔族を助けて砦を脱出しようとしたら、「蛮行の雨」がまた相手をするわけですか?)
(『御意!』)
サブブレインが勢い良く返答した。
やっぱりか……。
今度は勝てるのか?
次回「再来! クカタバーウ砦」(後)に続く
お読みくださった方、ありがとうございました。
次回、第三十話「再来! クカタバーウ砦」後編は、
明日の日曜日(七月の満月) に投稿します。
「続・のほほん」も、午後に投稿予定です。
アイデア、大丈夫でしょうか?
アイデアが大丈夫だったか、大丈夫でなかったか?!
その目でお確かめ下さい。
ではまたお昼に、のほほん、で。




