「我、改造人間第一号なり!」(後)
「あーー、あーー。その肌の色は、どうした事か?」
腰に両手を当て、縛られたバンガウアの身体の上に片足を乗せて、ノッポさんの出すカンペを見ながらジュテリアンが宣う。
「我は改造人間第一号であります、女王様」
「うむ。人間の街に入り込み、情報収集を行なうのが目的だな?」
「その通りで御座います、女王様」
「何故、四天王みずからが? 貴方の部隊は全員が人間化したスパイか?」
「皆が改造を嫌がるので、我が見本を見せました、女王様。人間化は、まだ、我ひとりに御座います」
「おお、皆の手本となって?! 理想の上司、上位者の鑑ではないか!」
「恐れ入ります女王様」
ガチで照れている様子のバンガウア。
「して、『血の検診』はどのようにして掻い潜った?」
「両手の人差し指、親指に、『赤い血袋を仕込んでございます、女王様」
「うむ。場所が分かっておれば、対処は容易よな」
「その通りで御座います。お恐れながら、採血箇所をランダムにすべきかと愚考いたします、女王様」
「どっちの味方なの、バンガウア」
「改造が上手くゆきすぎて、人間化が今も進んでおるのではあるまいか?」
こそこそと話し合うミトラとフーコツ。
ぼくも同感だ。
(『御意』)
おう、サブブレイン、お前もか?!
「もっと強く踏まんのか? 女王様よ」
「えっ? そ、そう? こ、こうかしら?」
ぐりぐりぐり!
「あっ、あっ。女王様、恐れ入ります」
そんな感じで尋問は速やかに進み、ひと通り終わった頃には、
「我の完敗だ。こんな爽やかな気持ちと体感は生まれて初めてだ」
と、大いに「人間式尋問」に満足した様子のバンガウアだった。
「親友だ」と言うムンヌルの居るクカタバーウ砦に、バンガウアを運ぶ事になった。
ぼくたちも同行するよう頼まれた。
「えーー、ここまで戻って来たのに?!」
とミトラは不満を口にするが、
「砦までの馬車と焼き菓子、さらに蜂蜜を用意します」
とのモミアゲさんの言葉に懐柔されるドワーフの娘。
ジュテリアン、フーコツもそれで納得したようだった。
テントに入れておいた衣服類は、温風の魔法で乾いていた。
それらをぼくの収納庫に入れ、出発の準備はととのった。
一角馬二頭立ての幌馬車を用意してもらい、「蛮行の雨」全員。
つまりぼくも乗った。
もちろん、戦利品? の、バンガウアが持っていた回復薬と武器の四本爪の鉤爪は、箱詰めにして乗せてある。
「暴れない。逃げない。殺さずに捕えてくれたからな」
と彼は言うのだが、信用されていないのだ。
他には、元・砦隊員のノッポさん。
そしてテント村の頼りない責任者、モミアゲ隊長。
御者はそのモミアゲさんだ。
バンガウアは裸足に短パン姿で、上半身だけ鎖で巻かれて、胡座を掻いている。
隣に座るノッポさんは、居心地が悪そうだった。
軽やかに馬車は進み、テント村が見えなくなった頃、馬が足踏みしている事に気がつくぼくたち。
「どうした、モミアゲ隊長?」
ぼくたちの直ぐ前で、手綱を引いている御者に声を掛けるフーコツ。
「どうって、順調に進んでいるが」
「いや、進んでないよ、おっちゃん」
モミアゲ隊長の返事に驚き、ミトラも前に出て言った。
「ほら、一角馬の足が空回りしてるじゃん」
「何を言っている、小娘」
モミアゲさんが振り返って、怒った顔を見せた。
が、目の焦点が合っていなかった。
「儂の手綱さばきを愚弄するか」
「見えてないの? ひょっとして幻術に掛かってる?」
ジュテリアンは御者席に座るモミアゲさんの頭を叩いた。
「いたたたた。何をするかっ」
「何をするかじゃない! 馬車が進んでいないっ。見えてる?!」
ジュテリアンが馬の足元を指さした。
「うお。二頭とも足が空転しておる。どういう魔法だ?!」
「馬車を停止させよ」
と、フーコツ。
「原因を探る」
「パレルレ!」
と言うミトラの声で、勝手に熱感知視覚を起動させるぼくの電子眼。
サブの仕業だ。
「あっ、熱放射してる大きな四角い壁みたいなのが、馬の前にあるよ。進めないのはアレのせいじゃないかなあ」
まるで、目に見えないヌリカベじゃないか。
この世界にも居るのか?
ヌリカベは、えーーっと、
「ヌリカベ見越した!」
で、道を開けるんじゃなかったっけ?
うーーん、記憶がアイマイだ……。
(妖怪学コースを選んどけば良かった)
ぼくは高校の特別学科を悔やんだ。
当たり障りのない、ロールプレイングゲームコースを選んだのだ。
ゲームをして、人生をシュミレーションした気になるのは楽しかったけど。
次回、「道を塞ぐ幻魔」(前)に続く
お読みくださった方、ありがとうございました。
次回、第二十九話「道を塞ぐ幻魔」前編は、
来週の木曜日に投稿します。
後編は、金曜日に投稿予定です。
「続・のほほん」は、午後に投稿します。
よかったら、読んでみて下さい。




