「シュタールのバンガウア」(前)
今度は、黒の盾の手前でジャンプして、四本の足でキックする体勢になった。
しかし、キックが目的ではない。
足の裏のブースターを四つ同時に、最大出力で噴出させた。
ブーストアタックである。
いきなりの白色炎である。
効果はあったと思ったが、エレの反射と言うよりは、円盤状の黒盾を踏み台にして、ブーストジャンプした形になった。
ぼくは勢いよく、地面と水平に飛んだ。
やがて地上に落下して、再び何度も地面を転がるぼく。
戦いを見ていた戦士や野次馬が、慌ててぼくを避けた。
そして転がりながら、黒の盾の消滅を見た。
弱っていたエレの盾と、ブースターの四本噴射が相打ちになったのだ。たぶん。
ジュテリアンの金色の大型卍がひとつ、エレを失った魔族に衝突して爆発した。
衝撃で倒れる魔族。
ジュテリアンは、残り二つの卍手裏剣と共に圧力波に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
何度も回転して、やがて止まるジュテリアン。
が、動かない。
失神かエナジー切れかは分からなかった。
ジュテリアンの残りの二つの卍は、円盤状の盾に戻って消えた。
紫色の小型卍も、次々と円盤形の盾に戻って消滅した。
ミトラは、仰向けに地面に倒れ、動かなくなってしまった。
こちらは、エナジー切れ、スタミナ切れだろう。
フーコツの卍も、円盤形の盾に戻って消滅した。
フーコツはまだ立っていたが、追撃の卍を具現化出来ずに、
「くそっ!」と呻いていた。
現れたと思ったら消えてしまう銀色の卍手裏剣。
こちらもエナジー切れだ。
起き上がり手を泳がせ、ふらつきながらも、投げ捨てた荷物を拾って、その場から逃れようとする魔族に、周囲の戦士たちが挑み始めた。
長杖の女性に「アダン」と呼ばれていた槍使いが突進した。
魔族の背中に見事な一撃を喰らわすが、刺さったと思った瞬間、火花を散らして槍が折れた。
折れた途端に槍と槍使いは赤く光り、アダンさんは、
「がはっ!」
と叫んでその場に倒れた。
槍に付与されていた何らかの魔力効果が、折れた事によって失われ、その反作用が戦士を襲ったのだろう。
魔力は万能ではない。
「無理な強化は、諸刃の剣」なのだ。
失敗した時の反動は大きい。
蹌踉めき歩む魔族に、大剣戦士、斧戦士、長剣戦士などが斬りかかるが、武器が折れては発光し、斬りかかった者たちが呻いて倒れてゆく。
「今日は調査だけと決めていたので、反撃は止めておくが、次はないぞ。人型ども」
と、忠告する魔族、ダイラ。
ダイラがその手で武器をへし折るのではない。
ダイラの身体に当たると、武器が折れるのだ。
そして、襲った者が倒れてゆく。
そして魔族は、倒れずに歩いてゆく。
「攻撃を止めろ! 怪我人が増えるだけだ」
ノッポさんは、蛮行の三人娘が力尽きたのを見たからだろう、他の戦士に呼びかけた。
「我が名はバンガウア」
周囲の人間たちを睨め回して、魔族が言った。
「今日は勉強になった。さらばだ」
そう言って、大荷物を引きずりながら、出入り口をめざし、のろのろと歩み続ける。
(ああ、バンガウア。思い出した)
アルファンテの討伐ギルドで見た、ローカル魔王ロピュコロス配下の、四天王のひとりだ。確か。
ノッポさんの停止命令を無視して、
「逃すな!」
「相手は弱っている!」
などと叫び、襲いかかっては倒れてゆく戦士たち。
一方、
「バンガウア? 鋼のバンガウアか?!」
「ロピュコロス軍大幹部の?」
「四天王の一人だ!」
と慄く声を出す者もいた。
四天王みずからの偵察か?
ロピュコロス軍は、案外、小集団なのかも知れない。
あるいはバンガウアの単独行動か?
水球を射って、窒息を狙う魔法使いも複数いたが、頭部に当たった刹那、弾けて四散する水球たち。
火球も同じだ。
魔族に当たって爆散し、辺りに火の雨となって降りそそぐ。
バンガウア自身は火に包まれない。
バンガウアの身体は、ミトラの鎧と同じような機能があるのかも知れない。
「消火! 消火!」
ノッポさんが叫んでいる。
「くそっ、このままみすみす逃すのか?!」
「相手が悪い。シュタールのバンガウアよ」
「超大物だ、倒したら大手柄だぞ!」
「相手はヨレヨレだ、やっちまえ!」
様々な声が交差していた。
「パレルレ、強化剤をくれ。それと、ワシを背負え。もう走れん」
と、フーコツが言った。
彼女はまだ倒れずに立っていた。
ぼくはフーコツに走り寄った。
収納庫から危険薬瓶を取り出して渡し、背中におんぶした。
「この危険薬物で、一、二発カマす。しかしその後は、ワシもミトラたちと同じになる」
『任せよ』
と、サブブレイン。
「パレルレ、奴の首を絞めろ。息を止めるのだ。奴は弱っている。今なら物理攻撃でお主が勝てよう」
それから、薬を飲む音が聞こえ、
「奴を追え」
とフーコツが言った。
ブースターを噴かし、ぼくはダッシュして魔族を追った。
が、距離を置いて止まる。
フーコツの、そういう指示だったからだ。
次回「鋼のバンガウア」(後)に続く
次回、第二十七話「鋼のバンガウア」後編は、
明日、金曜日に投稿します。
お楽しみな方、お楽しみに。
なんだか面白いですね、という自画自賛。
ではまた、明日。




