「卍手裏剣!」(後)
三つの卍手裏剣は、魔族の前方と背後と頭上を襲ったが、すべてを黒の盾で防がれた。
魔族も咄嗟に、盾の数を増やしたのだ。
前後左右、そして頭上にも黒盾を発現させていた。
しかも部分的に交差させ、盾と盾の隙間がなくなっている。
盾は地面にもめり込み、六面体、いや、足元には盾がないので、五面体か? の中に閉じこもった形だ。
この防御特化は、空気の入れ替えができないので窒息死につながると、前にミトラに聞いた事がある。
長くは続かないだろう。
「攻撃は止せ!」
「黒盾だ、反射するぞ!」
「自分から防御を捨てやがった!」
などの声が上がるが、黒の盾に高速回転で衝突する卍手裏剣は、反射しなかった。
「敵の攻撃を反射する」
それが黒の盾が最強と言われる所以なのだろう。
しかし「卍」には、「反射を殺す」性質があったに違いない。
だからミトラたちは使ったのだ。
敵の盾を削る作戦かと思ったが、削られて小さくなってゆくのは、卍手裏剣の方だった。
ミトラたちは、第二、第三の光の盾を出現させた。
そして卍に変形させ、攻撃した。
計、九枚でのアタックだ。
「黒盾が攻撃を反射しない?!」
という声を上げる者が数名いた。
「防御相殺ってヤツか?」
「いやしかし、黒盾を相手にそんな事が?!」
「あいつら一体、何者だ?!」
それは、ぼくも知りたい所であった。
集まって来た者たちが、口々に騒いでいる。
騒いでいるが、ミトラたちに加勢はしない。
「黒盾の反射」が怖いのだろう。
すでに最初の卍手裏剣は小さくなり消滅していた。
が、ミトラも、ジュテリアンも、フーコツも巨大卍を追加で出してゆく。
しかし、同時に具現化できるのは三つまでのようだった。
盾が三つまでしか出せないからだろう。
魔族の立つ足元の地面には盾がないのだから、卍を大地に潜らせて、下から攻撃すれば良さそうなものだが、たぶんそれは出来ないのだろう。
便利なようで、不便な卍だ。
「敵は防戦一方です。皆さんで攻撃を」
ノッポさんが叫ぶ。
「馬鹿野郎、黒の盾は攻撃を反射するんだ!」
「しかも倍返しだ!」
「反射させねえアイツらの攻撃がイカレてるんだよっ!」
実体験か見聞か、叫ぶ者はそれなりの猛者なのかも知れない。
ともかくも、「蛮行の雨」の三人娘以外は、ただ見ているだけだった。
「そこの弓使い、止めろ!」
フーコツが叫んだ。
「黒の反射は生きているのだ!」
だが、矢は放たれ、黒の盾に当たって倍以上のスピードで射手に戻った。
何やら叫んで倒れる弓使い。
弓使いに駆け寄る杖持ちは、僧侶だろう。
「迂闊に攻撃しないで!」
今度は、ジュテリアンが叫んだ。
「いずれ魔族は魔力切れになる。三対一だ。我々が勝つ!」
「黒の盾は必ず消す! その時は皆んなで総攻撃だっ」
そう叫んだのはミトラだ。
「おおーーーっ!!」
勇ましい声が上がる。
その数は、四、五十人はいるだろうか?
非戦闘員らしき老若男女はすでに出入り口へ逃げている。
街道に出て助けを呼んでいるようだが、テント村に入って来る物好きはいなかった。
「蛮行の雨」の執拗な連続卍攻撃が、ついにエレの盾に裂け目を作った。
「影多身!」
とミトラが叫ぶと、紫色の、光る巨大卍手裏剣のひとつが、幾つにも別れて小型化すると裂け目に突進した。
おお!
忍者ドラマで見る「影分身の術」手裏剣版?
矢継ぎ早に集中した小型卍手裏剣は裂け目を拡げ、到頭エレの盾を突き破った。
数枚の小型卍が、魔族の喉に当たった?!
「!!!」
声にならぬ声を上げ、前のめりに蹌踉めく魔族。
伝説の棍棒で殴られても平気? だった魔族も、やはり喉は弱点か?
なぜ眼を潰さない?!
グロいのは苦手か、ミトラ。
「隙あり!」
と見てぼくは、ブースターを噴かせ、スーパーダッシュした。
右脇を攻撃していた銀色の大型卍が、ぼくのために背中の盾へと攻撃先を変える。
魔族ダイラの脇腹に掴み掛かろうとしたが、エレの盾に弾かれ、ぼくはダッシュの倍以上の速度で真後ろに飛ばされた。
地面に落ち、転がりながら、
(黒盾の反射、凄え!)
と実感した。
間抜けな話だ。
転がるぼくの接近を見て、逃げる見物人たち。
黒の盾の内部に入って、暴れ回る小型卍は集中的に魔族の顔を狙っているが、ゴツい手で覆い隠されて、ダメージが与えられていないようだった。
鋼以上の皮膚か?
そんな事があるのか?
うーーん、魔族は何でもアリか?!
しかし、欠損した前面の盾は補強されない。
他の面の盾を、三人娘が絶え間なく攻撃しているので、エナジーに余裕がないに違いない。
「パレルレ、もう一度、ブースターアタック!」
と、ミトラ。
「急いで。私はもう……余力が」
とジュテリアン。
「エレが揺いだ。弱まっているぞ!」
と、フーコツ。
ミトラたちの声で立ち上がり、ぼくは今一度ブースターを噴かし、魔族の脇腹に突進した。
次回「シュタールのバンガウア」(前)に続く
お読みくださって、ありがとうございます。
次回、第二十七話「鋼のバンガウア」前編は、
来週の木曜日に投稿します。
後編は、金曜日に投稿予定です。
回文ショートショート童話「続・のほほん」は、
午後に投稿します。
面白いと良いですね。




