「呪われた鎧」(前)
ミトラは生まれ育った村で、大勇者の末裔と言う事で、守備隊長をしていた。
大昔、大勇者が、
「子孫が危険な目に合わないように」
と、メタルゴーレムを「妻」に守護者として授けた。
そして大勇者の子孫を、そのメタルゴーレムが、ずっと守っているのだそうだ。
「お陰で危険な戦い、たとえば魔族や強魔獣とかは、その守護者が倒してくれた」
のだそうだ。
しかも大勇者の子孫として、村ではチヤホヤされて育ったので、
「人間関係の圧倒的な経験不足から、今は大変苦労しているのだ」
と言った。自分で笑っていたが。
さいわい、討伐ギルドのランク試験では、個人の「超特級」に合格していたので、
「商隊の護衛や旅人の用心棒などに雇ってもらえた」
そうだ。
超特級。
そのランクが、どの位のものか分からなかったが、助けてもらったお礼も込めて、
「凄いじゃないか」
と、ヨイショしたら、
「所詮は試験だから、『命懸け』のもんじゃないの。試験に受かるには、要領があるのよ」
と、ミトラは自嘲気味に笑った。
「それは、オララ村の武術大会で五十年も六十年も優勝し続けて来たから分かるの」と。
今は用心棒などしながら、実戦で「命懸け」を勉強中なのだそうだ。
ぼくの方からは、特に話せる事はなかった。
製造工場に勤めていた関係か、仕事上の失敗は幾つも思い出したが、私生活となるとサッパリだ。
親と、友人と、そして私生活の記憶のアレコレを、転生官はバッサリと消してくれたのではあるまいか?
間違い電話も掛かってこない独り暮らしだった、とおぼろげに記憶するばかりだ。
死に関しても転生官から、
「突然死でした。ご愁傷様です」
としか知らされなかったように思う。
「まあ、良いじゃないの。これから新しい人生が始まるんだから」
と、ミトラ。
それはそうかも。
ゼロからのやり直しにしては恵まれている。
悲観するところではない。
この世界には、本、剣、盾、木彫りなど、無機物に魂を定着させた転生者がチラホラ居るそうだ。
そういう無機物者の人権も認められていると言うから、金属体のぼくでも生きやすいかも知れない。
「あたしの村の守護者より、ひと回り小さいけど、あなたは充分強いと思うわ」
と、ミトラは励ましてくれた。
(そ、そうとも。まずは思い込みだ)
(ぼくは強い! 金属体で丈夫なはずだ)
(『御意』)
と、サブブレインが、心の内に言葉を伝えて来た。
(ギョンてなんだ? 君の名か?)
(『ギ・ョ・イ。御意!』)
(あーー)
エコー掛かってるから、サブの声……。
ぼくは頑丈な金属体を持っていたが、装備品がなかったので、まずは街へ行って防具屋を当たることになった。
ナーファ古戦場に盾の類いは落ちていなかったのだ。
使えそうな物は、とっくに回収されたのだろう。
この世界の風習も常識も分からないので、
「民間のゴーレムは、武器を手に持たない方が良い」
「市民には怖がられ、街の警備隊には睨まれるから」
と言うミトラの言葉に従う事にした。
「丸盾で我慢してね。お金の余裕があんまりなくて」
との事だったが、異論など勿論ない。
古戦場を無事に出て、巨大な岩がそこここに転がる荒れ地を歩くミトラとぼく。
ここから一番近い街、アルファンテをめざしていた。
「ありがとう、ミトラ。助かったよ」
つらつら思い返し、ぼくは改めて礼を言った。
「どんまい。大勇者サブロー語録にも、『旅は道連れ、世は情け』ってあるでしょ?」
と、ミトラは笑った。
大勇者サブロー。
随分、昔の人らしいのに、コトワザの知識が新しくないか?
ひょっとしたら、時空を超えて過去に行っちゃった現代人?
なのかも知れない。
近代科学や文化、文明の知識を持って過去に行ったなら、結構、無双できたんじゃないだろうか?
だから、大勇者なのだろう。
黒松のような針葉樹と赤い下草、そして様々なキノコが散見できる大地だった。
これでも街道なのだそうだ。
しかし街道、つまり轍のある所は通らず、ミトラは脇に逸れ続けた。
キノコを探しながら歩いたからだ。
「これ、食べられるヤツ」
と言っては、土の付いた黒キノコを、ぼくの収納庫に入れた。
その道中、ミトラは古代紫の鎧の秘密を教えてくれた。
闇精霊の呪いを、様々に掛けてあるのだそうだ。
「ほら、あたしって、ブーヨニンフ系の呪術師だから」
と言う。
人間の邪術とは違うらしい。
「炎を弾く呪い」
炎に取り憑かれると厄介なので、弾く事にしたのだそうだ。
「自動修復の呪い」
生身の身体、ではなく鎧への呪いだそうだ。
さすがに穴が空くと、鍛冶屋で直してもらうと言う。
ぼくにも欲しい呪いだ……。
「赤色と、黄色と、白色の熱は通さない呪い」
未熟なので、
「青色の熱を通さない呪い」
は、まだ出来ないそうだ。
炎を弾いても、炎に囲まれて熱を通してしまうと、結局、焼けて死ぬのでこうしたと言う。
(こう言うの、不正能力って言うのでは……)
ぼくが心の内につぶやくと、サブが即座に、
(『御意!』)と応じた。
次回「呪われた鎧」(後)に続く
一番、投稿してはいけない時間、お昼の12時になってしまったっ!
予約投稿が多くて、埋もれてしまう(つまり、読まれない)のだそうです。
ふっ、やっちまったよ……。
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