「訪問者の名はダイラ」(前)
「おお。笑い真似がお上手ですな」
こちらに「感情がない」と踏んだ上で、ダイラさんは丁寧な言葉遣いをした。
さすが商売人と言うべきか。
そんな所へ、ミトラたちがお風呂から帰って来た。
彼女たちの身体が、ホコホコしているのが熱感知眼を起動させて分かった。
なぜそんな真似をしているかと言うと、ぼくの趣向なのである。
ほこほこした女体を見るのが趣味なのである。
彼女たちには、内緒だが。
ダイラさんの熱放射も、人間として普通だ。
魔族は人間より体温が高い。
クカタバーウ砦の魔族たちがそうだった。
魔族ではない証拠と言えた。
「あら、お客さん?」
ジュテリアンがダイラさんを見て、少し驚いた顔になっている。
砦で見た魔族と、外見が似ていたからだろう。
「お邪魔しております、お嬢さん方。放浪の薬売りで、ダイラと申します」
深く頭を下げるダイラさん。
「興味本位で、クカタバーウ砦の魔族騒ぎを聞いて回っております」
「そう。ごゆっくり」
笑顔のミトラ。
「洗濯物を干してこよう」
ミトラはそう言ってテントを指し、ぼくには「チョーカク」と囁いた。
(チョーカク? 聴覚か?)
テントに入って行くミトラたち(洗濯物を干すならテントじゃなくて、横の乾燥室だろうに)を、見送りつつ心で呟くぼく。
(『御意』)
と、心の内で応えるサブブレイン。
「綺麗なお嬢さん方ですねえ」
そのダイラさんの言葉はお世辞ではないと思った。
「はい。勇ましくて強くて、いつも助けられています」
当たり障りのない本当の事を言いつつ、ぼくは聴覚器を強化した。
ミトラの声が聞こえた。こんな内容だった。
「あーー。あーー。そいつ魔族だから、魔族だから、魔族だから」
と、囁いていた。
「あたしの呪術職能者としての勘が、そう言っている」
うん。
一般人も、ダイラさんを見たらそう思うはず。
「大丈夫なの? この声、届いてる?」
これはジュテリアンだ。
「大丈夫。サブが付いてるし、届いているはず」
「でも、あれだけ魔族っぽかったら、『血の検診』を受けているんじゃないの?」
「あれは針を刺す場所が決まっておる。人さし指か親指の先だ。そこに赤い血を仕込んでおけば、検診を騙せよう?」
と、これはフーコツだ。
「あーー。じゃあ、他の場所の血を見せてもらうのね?」
「そうそう。あたしらも一緒に見せるからって、足の指の血を見せてもらうの。耳たぶでも良いけど」
「で、人間だったら、何とするのだ?」
「そんときゃ、土下座して謝れば良いのよ。『申し訳ありませんでした! この通りです!』って」
「むう。間違っておった時は、平謝り。うむ、それしかあるまい」
「あっ、フーコツ。今、土下座しなくて良いから」
「この洗った衣類はどうするの? テントの中に持ってきちゃったけど」
「テキトーに紐を張って吊るそう。あたしが温風の呪いを掛けて乾かす」
「うむ。なんとしても勝って、これらを片付けねばのう。このド派手なショーツを他の者に見られるのは恥ずかしい」
「私だって、気分で勝負パンツを履いてたから」
「パレルレ、もう少し待って。猥談でもして引き留めておいて」
と言うような会話もあった。
「じゃあ皆んな、武器は持ったわね? パレルレ、そいつ魔族だから、魔族だから。いい? 出るわよ。そいつが逃げたら、ロケットダッシュで体当たりしてね」
ちょっと緊張した。
身体はぼくの方が大きいし、機械の分、質量も勝っているだろう。
体当たりや押さえ込みは、有効なはずだ。
武器を携えてテントから出てくる「蛮行の雨」の三人娘。
ミトラはフルアーマー。
フーコツは目にゴーグルを付けている。
臨戦態勢だ。
ジュテリアンもフーコツも、緊張を隠すためか、薄く口を開いて、へらへらしていた。
ミトラもヘルメットの中で薄笑いを浮かべていた。
強化した聴覚器から「へらへら」と言う声が聞こえて来るから、間違いない。
「あのう、あなた魔族よね?」
単刀直入に問うミトラ。
気がついたら、「蛮行の雨」はダイラさんを取り囲んでいた。
蹂躙か? 蹂躙するのか?
それとも三人娘が蹂躙されるのか?!
次回「訪問者の名はダイラ」(後)に続く
読んで下さった皆さん、ありがとうございます。
次回、第二十五話「訪問者の名はダイラ」後編は、
明日の金曜日に投稿します。
第二十六話「矛の盾」前編は、
明後日の土曜日に投稿します。
後編は、日曜日に投稿予定です。
ではまた、明日!




