「魔族そっくり」(前)
「でも、王制の転覆を望んでいるなんて、フーコツこそ『存外』な謀反人ね」
と、ジュテリアンが話を蒸し返して笑った。
「お主に言われたくはない! 宮廷を見限り野に下った蛮人めが」
と言って、フーコツも笑った。
「つまり今の、王族や貴族院と言った一部の独裁主義者、選民主義者が、市井の人々の財産と権利を無法に吸い上げ、災害にも無関心でノウノウと私利私欲に走っているのが嫌なんだ。あなたも」
ジュテリアンが一気に謀反人的発言をした。
「ドワーフには、災害救助隊があるし、議会制だよ。王様とか貴族とか居ないし。部族長は威張ってるけど」
「そうだ。ドワーフの議会民主主義とやらは、人間の王族にとって目の上の御団子、大いなる脅威であろうよ」
「大勇者サブローが『世界を救った暁には』と確約させた『奴隷制度の廃止』の廃止を望む高級選民どももいるそうだしねえ」
と、眉をひそめるミトラ。
「ふん。自分たちの生活が楽になるのだ。支配欲も虐待欲も満たされるのだ。当然、復活させたいだろうよ」
鼻を鳴らしてフーコツが言った。
(奴隷制度の復活かあ。案外、そこら辺が切っ掛けで、一気に市民革命とかになっちゃうんじゃないかなあ)
と、ぼくは妄想した。
「復活させやがったら、叩き潰してやろうね。高級選民のヤカラ」
「うわ。内緒にしときなよ、ジュテリアン。そういう話は」
ミトラは辺りを見回しながら言った。
「ワシは、そういう革命は、いつかは必要な人間の同士討ちなのだと思っておる」
「魔族に付け入る隙を与えるだけだと思うけどなあ」
と、ミトラ。
「パレルレの居た世界はどうだったの?」
とも言った。
「言って良いのかなあ。異世界の情報 漏洩はいけないらしいけど」
「記憶にあるのならば、吐いてしまえ。人生が楽になるぞ」
と、フーコツ。
「えーーと、奴隷制度は、表向きなくなったよ」
「あったんだ!」
「しかもまだあるんだ!」
ミトラとジュテリアンが矢継ぎ早に言った。
「えっと、国それぞれかな。王制はある。人身売買は非合法に闊歩してるし、重差別、貧富の差もぬけぬけとしたもんだね。魔族とかは、いなかったけど」
「では、人間が魔族の役割も果たして来たのであろうよ」
フーコツは、見透かしたような目をして言った。
(うわ、魔女狩りとかの事かな?)
(強制収容所の、人の所業とは思えぬ惨劇のことかな?)
(新大陸発見とか称して、奴隷制度を加速させ、略奪を常道化させ……)
歴史上の、民族間紛争における大虐殺や大略奪など、言い出したらキリがない。
………黙っとこう………
「国ごとに制度が違ってて、なかなか解決出来ないムズカシイ問題が、今も山積みなんです」
と、ぼく。
「ふん。異世界もまだまだよのう」
「おっしゃる通りです」
「こっちだって、国民の平穏を考える賢王もいれば、搾取に血道を上げる愚王もいる。一概には言えないものね」
と、ジュテリアンはため息を吐いた。
それからも、お国の兵隊さんに聞かれたら、
「即。投獄!!」
みたいな事をワチャワチャ話し合いながら、お昼前には鉄柵に囲まれた広いテント村に着いた。
柵の外から、ワンポールタイプの、小型から大型まで様々なテントが見えた。
受け付けで、
「国の警備隊員も常在しているが、盗難は自己責任で」
とか、
「花火、ボール遊び、私闘は厳禁」
とか、
「大声で騒いだりしたら、即刻退場」
などの注意を受けた。
また、検問表なるものを渡され、
個人名(パレルレ。ゴーレムの三原則契約済み)、
団体名(蛮行の雨)、
出身地、(異世界。転生の三原則契約済み)、
性別、(元は男性)、
年齢(生まれたばかり)、
などをミトラが書いてくれた。
「何処から来て何処へ行くのか?」に、
「クカタバーウ砦から来た。アルファンテの街に行く」
と書いたもんだから、
「砦が百人の魔族に襲われたって本当?」
「魔族は、全長十五ペート(十五メートル)の火吹き大大大蜥蜴を三匹も連れてたって本当?」
そして、
「謎の黒騎士が魔族を全て蹴散らしたって本当?」
などを問われた。
「黒騎士は強かったが、ヌイサウラーは、オーガの大剣使いが一匹倒した」
とか、
「魔族は二十人くらいだったと聞いた」
とか、
「ヌイサウラーは成獣が確かに三匹いたが、全長は八ペートくらいだった」
事などを話すと、
「あなたたちの話が、砦から来た情報に一番近いわね」
と言う受け付け嬢。
反射的に、
「知ってんなら試すな!」
と怒りの声を上げるミトラ。
若い。若いね。百歳のドワーフ娘。
次回「魔族そっくり」(後)に続く
次回「魔族そっくり」後編は、明日の日曜日に投稿します。
同時連載中の「続・のほほん」は、午後に投稿します。
よかったら、読んでみて下さい。




