「魔法使いフーコツの目的」(後)
このまま、こっそりと砦を出たかったのだが、討伐ギルドを出ると、外には鼻髭隊長ロウロイドさんと、数名の隊員が待っていた。
「そんな事だと思ったよ」
と言うロウロイドさん。
どうやらぼくたちは見張られていたらしい。
「水臭いじゃないか、蛮行の皆さん。砦を救い逃げですか?!」
などと憎まれ口を叩きながら、北の大門までぼくたちを見送るクカタバーウ砦の一行。
隊長ロウロイドさんと、その他数名の、朝も早いお忍び見送り隊だった。
「また来て下さいよ」
「黒騎士の伝搬、よろしくお願いします」
にこやかに手を振って言う隊員たちに、
「また会いに来るからな」
と、フーコツは卒なく言った。
ちなみに彼女は、砦に来た時は大きなリュックを背負っていたが、中身をぼくの収納庫に入れたので、今は手ぶらだ。
こうして、もと来た道を引き返してゆく「蛮行の雨」。
北に戻ってゆくのは、伝説の棍棒が引っこ抜けたら、アルファンテ討伐ギルドの受け付け嬢、メリオーレスさんに見せる約束をしていたからだ。
伝説の棍棒は、すでにミトラが呪いによって、色を茶色から灰色に変えていた。
「茶色のままでも平凡で目立たないと思うけど、念のために(ミトラ談)」
変装させたのだが、棍棒としては珍しい色になってしまったとぼくは思う。
とりあえずの目的地は、街道にある公益の旅人用テント村だ。
スブック商隊でクカタバーウ砦をめざした時は素通りをした所である。
馬車にも馬にも荷車にも乗らない旅人、つまり宿代を節約したい人が立ち寄る宿泊施設だ。
フーコツは、そこで一泊して、クカタバーウ砦を抜けた先の、同じような宿泊所へ行く予定だったと言う。
「特段行くアテはないので、北に戻って何も問題はない」
フーコツはそう言って笑った。
道中、また雑談に花が咲いた。
「ジュテリアン。宮廷を捨てて、よく討伐旅をする気になったのう」
と、フーコツ。
フーコツももはや、荒くれ仲間。
「蛮行の雨」の一員なので呼び捨てだ。
「まあ、地位と名誉と安定した生活のために、王族や貴族にヨイショして暮らすのが性に合わないと、三百年勤めて、ようやく分かったのよ」
「何も命にかかわる討伐旅を選ばすとも、街の回復院で良かろうに。宮廷僧侶の肩書があるのだからな」
「当時はそこまで回復が得意ではなかったから」
「それでよく宮廷僧侶になれたわね」
と、ミトラ。
「親戚のコネでね。縁故は大切よ、役所や宮廷に就職する時は特にね!」
「退屈で腐ってたのね、ジュテリアン」
ミトラが言い、
「たぶんそうね」
とジュテリアンは肯定した。
「しかし、野に下った宮廷僧侶が、勇者団やら討伐団を転々としておる話は聞いた事があるぞ。もう百年にはなろう?」
「それは別人じゃないかしら?」
と片眉を上げるジュテリアン。
「私は巷を旅し始めてまだ七十年よ。それに、野に下った宮廷護衛兵や魔法使いの話は沢山あるわ」
「うんうん。そういう物好きどもが、世の平穏に役立っておるのであろうよ」
「フーコツこそ……、あーー、やらかして失職したんだっけ?」
「左様。タダで魔法実験を、しかも合法的に出来る良い職場だったのだが……。手伝ってくれた生徒も学校を辞めてしまった。悪い事をしたよ」
頭を掻くフーコツ。
「まあ、学校を出ても、魔法実験はやっておるがのう」
「あーー、討伐でやってるわけね」
ポン! と手を打つミトラ。
「護符だの魔力アクセサリーだの、自腹が痛いがのう」
「魔法実験をしてると、仙人になれるの?」
フーコツが仙人になりたがっているのを聞いているので、ミトラがたずねた。
「技術を極めれば、達人も、賢者も、超人も越えられよう? 魔法と共に呪術にも励んでいるのは、最終的に仙術を修得するためだ。そのためには、妖術にも、幻術にも、忍術にも精通せねばならん」
そして、吐くため息は深かった。
「もっとも、ワシが仙人となって長生きしたいのは、今の王族だの貴族院だのが滅んだ後の世界が見たいからだがな」
そう言って、またため息を吐くフーコツ。
「しかし先は長そうだ。百年や二百年では、どうともなるまい。誰か今の独裁的王制に反旗を翻して、革命を起こしてくれんかのう」
「その内、誰かがね」
と笑うジュテリアン。
「それでそのう、立ち入った話かも知れないけど、フーコツ。色眼鏡は見えにくくないの?」
「これは見ての通り、爆発や閃光から目を守っているのであろうよ」
と、額のゴーグルを叩くフーコツ。
「攻撃魔法を外さぬよう、敵を狙撃固定する機能を付与しておる」
「あーー、光精霊の呪いかしら?」
と、ミトラ。
「うむ。お主の闇精霊の呪いには遠く及ばぬがな。ムン帝国超呪術の賜物であるな、その鎧の防御は」
フーコツさんは、ミトラの古代紫のアーマーを見た。
「ところで、お主の」
と、今度はぼくに視線を移すフーコツ。
「たまに聞こえる腹話術はどうなっておるのじゃ?」
「腹話術?」
『御意?』
「そう、その声じゃ」
と、人差し指を立てるフーコツ。
簡単にサブブレインの説明をすると、
「なんと、第二の魂とな? 主も存外、出鱈目じゃのう」
と、フーコツは声を上げて笑った。
次回「魔族そっくり」(前)に続く
次回、第二十四話「魔族そっくり」前編は、明日の土曜日に投稿します。
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