「フーコツと蛮行の雨の洗礼」(前)
それから病室で、フーコツさんの尋問報告を、突入隊が揃ったので、皆んなで聞いた。
魔族たちが人質を取らなかった件、
戦いを中断して砦側の怪我人や遺体を引き上げさせた件、
は、ムンヌルひとりの考えによるものだった。
他の魔族に従わせるために、彼は、魔王ロピュコロスの名を使ったのだ。
何故そんな事をしたかと言うと、
「万が一、作戦が失敗に終わって捕虜になった時、人間に無茶な尋問、拷問をさせないための予防だ」
と答えたそうだ。
そしてその、砦を襲った魔族の内、ただひとり無傷で捕えられた青肌のムンヌルは、二重スパイになったと言う。
「大丈夫なのか? 二重スパイって。相手は魔族だぞ」
と心配するゴルポンドさん。
ぼくも同感だった。
「光精霊の、『否応なく親友になる呪い』を掛けたから、裏切られる心配はない」
と、笑って言うフーコツさん。
「ワシと親友になる呪いだ。呪いは基本、自分にしか掛けられぬが、親友を増やしたいための呪いだからな、問題はないぞ。たぶん」
「ひゃーー。なにそれ、無敵の呪いじゃないの」
ジュテリアンが驚き呆れた。
「魔王だって味方に出来るんじゃないの、それなら」
「かも知れんが、二百年に一度しか使えぬ呪いなので、当分は不可だ」
「えっ?! そんな大切なものを、今日、使っちゃったの?」
再び呆れるジュテリアン。
「つ、使ってしまったのはハズミだ。ハズミは仕方なかろう。それに、呪術にしては短期間な方だ。五百年や千年に一度しか使えぬ呪いは多い」
「そうそう。闇精霊の呪術も、そんなスパンよ」
と、ミトラが擁護した。
「短い。二百年なんて。またすぐ使える感じ」
「ドワーフのミトラさんはとも角、フーコツさんは人間だから、二百年だろうが二千年だろうが、一生に一度の大呪術じゃないですか」
コラーニュさんも呆れている様子だった。
「大丈夫。ワシは今はただの魔法使いだが、ゆくゆくは仙人になって、数万年は生きるつもりであるから」
と、言い切るフーコツさん。
ああ、そうだった。
この人は、達人も超人も越えるんだった。
そして、他人の目標に異論をはさまない皆んな。
「ムンヌルの二重スパイ化は、魔王ロピュコロス軍を内側から崩す作戦なのだ。うまくゆく保証はないがな」
「『蛮行の雨』は、もはや本格的に動いているのだなあ」
と、感心するゴルポンドさん。
「『引き潮の海』も負けてられねえぞ、コラーニュ」
「大勇者の末裔や、異世界からの転生者がいるチームと一緒にしてはいけない、ゴルポンド」
コラーニュさんは苦笑いしながら、キッパリと言った。
それから夜の祝勝会まで、自由時間と言う事になった。
ゴルポンド、コラーニュの両名も、祝勝会には参加するそうだ。
女性陣は、
「男どもが多いだろうから、お風呂に入っておこう(ジュテリアン談)」
と言う話になった。
そして、
「砦を立つ前に、お土産を買っておきたい」
とミトラが言い出したので、お風呂の前に売店に向かう「蛮行の雨」。
さして広くもない売店を、我がもの顔で歩き回る蛮行の三人娘。
「この、『伝説の棍棒型貯金箱』や、『伝説の棍棒プレートホルダー』なんかの棍棒シリーズ、もう在庫限りになるんじゃないかしら」
と、ジュテリアン。
「あっ、そうか!」
と、手を打つミトラ。
「無くなったんだもんね、伝説の棍棒。今のうちに買っとこう!」
そうして、ぼくの収納庫に、ざらざらと土産物を入れる蛮行の三人衆。
ぼくの収納庫は、彼女たち三人の衣類(特に下着)、寝袋などの野宿用具、雑貨などで埋まりつつあった。
次回「フーコツと蛮行の雨の洗礼」(後)に続く
前回「ワウフダンの援軍VS蛮行の雨」後編は、投稿前に加筆したので長くなりましたが、今回は削ったので、短くなってしまいました。
だいたい、四百字詰め原稿用紙四〜五枚が、一話分になるようにしています。
それ以上長いと、体力的にかなりクタビレるので、そうしています。あしからずご容赦ください。
ではまた明日、第二十二話、
「フーコツと蛮行の雨の洗礼」後編を投稿します。




