「ワウフダンの援軍VS蛮行の雨」(後)
ワウフダンの援軍代表たちとは、砦の中央広場で試合をする事になった。
光の盾は使用しないルールになった。
遠巻きにしているワウフダン援軍と、クカタバーウ砦の隊員たち、多数。
そして、野次馬たち。
第一試合は、援軍の男性魔法使いVSミトラ。
魔法使いはローブ姿の、優男風の人物だった。
杖は大振りで、術者の身長よりも丈があった。
「ドシーシス、そいつはヤバそうだぞ。一気に持ってけ!」
「小さくても大勇者サブローの子孫だ。曲者に違いねえ!」
なかなか的確な声援だった。
魔法使いは窒息を狙って、フルアーマーのミトラの兜に水球を飛ばした。
スッポリとミトラのヘルメットを覆う水球。
ミトラは、頭部に水球を付けたまま突進した。
慌てて空へ逃げた魔法使いに、伝説の棍棒を投げて打ち落とすミトラ。
大丈夫か? 伝説の棍棒をモロに受けて。
いや、手加減して投げたようには見えたが。
地面に落ちて、打ち所が悪かったのか棍棒の衝撃が大きかったのか、そのまま起き上がってこない魔法使い。
勝負あった、のだった。
回復は、援軍の僧侶が行った。
ミトラには、
「三十 分は息を止められる呪い」があった。
「窒息は魔法使いの作戦負けであった。
第二試合は、援軍の男性格闘家VSジュテリアン。
「レザーン、油断をするな! 宮廷を捨てて野に下ったイカれた僧侶だぞ!」
「短剣が怪しい! 僧侶の持ち物じゃねえ!」
などの声援に、大いに警戒している様子の大男レザーン。
素肌の上に革鎧を着ているようだ。
両腕は剥き出しだが、手には反則気味のゴツい小手をしている。
見たまんま、そのゴツいガントレットで殴るのが得意戦法なのだろう。
しかし、敵でもない女性が殴れるのか?
レザーンさんは苦笑いをしながらジュテリアンに近寄った。
腕力で抑えつけて、お茶を濁そうとしたのだろう。
そうして、相手が接近して来た所を、過大回復魔法で昏倒させるメイド風戦士僧侶ジュテリアン。
眼前暗黒感だ。
相手が二ペート(二メートル)以内に近づいたら使えると言っていた。
倒れた大男レザーンの首に短剣を寸止めして、試合は終わった。
僧侶と聞いて、やんわり倒そうとした格闘家の、情けの敗戦であった。
第三試合は、援軍の男性大剣使いVSフーコツ。
「バルウェル、油断するなよ! レザーンは油断に負けたっ!」
「なあに、魔法学校の教師だ! 実戦剣法なんて知らねえさ!」
金属鎧を着たバルウェルさんは大剣を振り回し、間合いを詰めてゆく。
杖を叩き落とすつもりか?
しかしすでにフーコツさんの間合いだ。
剣士バルウェルの振り回す大剣を、フーコツさんは何と短杖で叩き落とし、自らの杖も投げ捨て、素手の格闘に持ち込んだ。
フーコツさんは、ハイキック、回し蹴りを放つが、それはフェイントだった。
背後から剣士に飛びつき、首に腕を回して絞めた。
剣士がフルアーマーではなかったので出来た作戦だ。
剣士はフーコツさんをおんぶしたまま、首を絞められギブアップした。
魔法使いの戦い方ではなかった。
もう、勝ち越したが、第四試合も行われる事になった。
援軍のリーダーVSぼく。
巨漢のリーダーは、長剣の二刀流だった。
「悪く思うな」
と言い、舞うが如き双剣の演戯を見せて威嚇して来た。
「ジュラン隊長! 頑張って下さいっ!」
「ワウフダンのド根性、見せつけてやって下さいっ!」
すでに負け越しが決まっているワウフダンの援軍である。
一応、リーダー対決なので、一勝三敗でも、勝った気分にはなれるだろう。
負けてやる気は全くなかったが。
サブブレインが、である。
ぼくは四つの足の裏に車輪を出し、背中とふくらはぎのブースターを噴かして急接近した。
慌てて振った左手の剣、右の剣をそれぞれ真剣白刃取りの要領で受け止めるぼく(サブブレイン)。
腕が四本あったので、出来た芸当だった。
剣を掴んだので突進を止め、そのまま上半身だけを回転させた。
高速回転させたので、剣士の身体は宙に浮いた。
手を離すのが怖かったのだろう、振り回されたままの状態でジュラン隊長は、
「参りましたあ!」と叫んだ。
そしてこれにて、試し合いは終了となった。
援軍のジュラン隊長は、
「確かにこれなら黒騎士とやらがおらずとも、魔族を倒せたかも知れん」
と言う言葉を発した。
こちらが全く本気でなかった事を見て取ったのだろう。
ジュラン隊長は、
「爆炎のギューフの亡き骸を見たい」
と言った。
そしてまた、
「今回の戦いで殉職した職員たちがらいるなら、花を手向け」たい。
「負傷者がいるなら、見舞ってから」帰る、とも言った。
ロウロイド隊長は、その言葉に、
「砦の皆も喜びます」と頭を下げた。
ワウフダンの援軍が引き返して行った後、
「それでは口裏合わせの会議を」
と、砦のリーダー、ロウロイドさんが言った。
面倒そうな点は、架空の黒騎士に持って行ってもらう計画だ。
「魔族の武具や護符、強化アクセサリーが多く手に入った。これだけでも大収穫だよ」
砦の隊長、ロウロイドさんは満足そうに鼻髭をひねった。
「伝説の棍棒を引っこ抜いたら見せに行く約束を、アルファンテの討伐ギルドで働く人としたんだけど」
と、メリオーレスさんの名を伏せて言うミトラ。
「見せるの止めといた方が良いよね?」
その言葉を受けて、ロウロイド隊長は、
「討伐ギルドには、謎の黒騎士の流布に協力してもらわねばならん。真実を伝えて良い。砦からも話しておくよ」
と返事した。
大らかと言うか、アバウトな人だ、ロウロイドさん。
助かる。
伝説を見せる相手がメリオーレスさんだと知ると、
「なんだ、メリオーレスか。相変わらずの好奇心だな」
と、ロウロイド隊長は笑った。
そして隊長は、中央広場でそのまま立ち話を始めた。
「巷には、フルアーマーの黒騎士なんて、ちらほら居るから、彼らには災難かも」
ミトラがそう言うと、
「咄嗟の事とは言え、申し訳ないことを申しました」
と、ロウロイドさんは世の黒騎士に謝った。
黒騎士の打ち合わせも終わり、ぼくたちは砦を出ようとしたのだが、ロウロイドさんに、
「主賓に欠席されては意味がなくなる」
と引き留められた。
夜には祝勝会をやると言うのだ。
食事も宿も、無料で用意すると言うので、ぼくたちは砦に一泊する事にした。
取り敢えず、
「伝説の引っこ抜きには成功したので、見せに行く。ただし他言無用」
と言う一報を、アルファンテ討伐ギルドの受け付け嬢、メリオーレスさん宛に飛ばした。
伝達蜥蜴は、一、二日で届くと言う話だった。
夜にはまだ間があったので、ぼくたちは砦の回復院へ、ゴルポンドさんの見舞いに行った。
病室(個室だった)に入ると、
「おう、皆さんお揃いで」
と、ベッドに横になったまま、むくつけき大男、ゴルポンドさんは照れた。
「先ほどは、ワウフダンからの援軍とやらがドヤドヤとやって来て、労ってくれたよ」
と、ゴルポンドさん。
「黒騎士がどうとか言っていましたが、適当に話を合わせておきました。何か策略でも練ったのですか?」
と、コラーニュさん。
「はい。その件はまた後ほど詳しく」
と、ジュテリアンが応じた。
「かなりの深傷に見えたのですが、回復が早くてなによりですわ」
「大事を取って、もう二、三日は砦の回復院に留まる事にしました」
と、コラーニュさん。
「あたしたち、明日には立つから、お別れね」
と、ミトラが少し寂しそうな顔をした。
まあ、一緒に砦にトンパチな突入をした仲だからなあ。
ミトラの気持ちは良く分かった。
「オレたちは、討伐団を作る事にしたぜ」
と、コラーニュさんを指すオーガの大剣使い。
「そちらとは、また出会う事もあるだろうさ」
そうなのだ。
この二人は、たまたま荒地大蜥蜴退治に手を貸してくれた、単独の旅人だったのだ。
「団名は、『引き潮の海』です」
と、コラーニュさん。
「どこかでお互いの名前を聞く時があると良いですね、『蛮行の雨』の皆さん」
「いや、フーコツさんはフリーだろ? ウチに入らないか? 大歓迎だぜ」
「むさ苦しいのは苦手だ。おおよそだが、『蛮行の雨』に入るかも知れん」
と、フーコツさん。
「ひゃう!」
と、奇声を発して喜ぶミトラ。
「そんな気がしていました」
と笑うジュテリアン。
「オレもだ。そんな気がしてた」
ゴルポンドさんも笑った。
「それはそうと、歌の文句のようなその団名はナニゴトだ?」
と、眉を寄せるフーコツさん。
「ああ。『引き潮の海』か? お互いの生まれ故郷に海が無い事が分かったんでな」
「潮が引くと、潮溜りと言うものが出来て、逃げ場のないその場所で、色々な生き物が獲れるんだろう?」
と、コラーニュさん。
「そういう、『労せずして獲物が捕れる生活がしたいなあ』という希望を名前にした」
「あなたたち、絶対、真逆の人生を送るから」
ミトラがキッパリと言い、笑った。
それから、ロウロイドさん発案の、『謎の黒騎士』の話をした。
口裏合わせだ。
また、砦からも言われるだろうが。
「お嬢ちゃん。爆炎のギューフをブッ倒したんだぜ」
ミトラに首を向けるオーガ。
「そんなウソ野郎に手柄を取られて平気なのか?!」
ゴルポンドさんは、ロウロイドさんのヨタ話に怒った。
「何も問題ないよ」
ミトラは力強くうなずいた。
「今後の事を考えると、都合の良い話よ」
ジュテリアンが唇の端を歪めて笑った。
「お主らの反応に」
と、ミトラ、ジュテリアンに向かって手を広げるフーコツさん。
「ワシの心は共鳴しておる」
フーコツさんは、無表情に言った。
「今夜は、主ら二人の女性と同じ部屋で寝てやろう」
(このフーコツと言う人、屈折しているが、悪い人ではなさそうだ)
と、ぼくは思った。
サブブレインも、
(『御意!』)と、声を弾ませた。
次回「フーコツと蛮行の雨の洗礼」(前)に続く
次回、第二十二話「フーコツと蛮行の雨の洗礼」前編。
は、明日、土曜日に投稿します。
後編は、明後日の日曜日に投稿します。
同時連載中の、「続・のほほん」は、午後の投稿になります。
一話読み切り形式です。
よかったら、読んでみて下さい。




