「ワウフダンの援軍VS蛮行の雨」(前)
「我が国の宮廷魔法使いを多く輩出している、コプス魔法学校の元・教師殿もおられた!」
フーコツさんの事だ。
「攻撃魔法の専門家だ! そこらの体育館級建物など、軽く吹き飛ばしてしまうのだっ!」
そうそう、吹っ飛ばして学校を辞めたのだ。
「大魔王を倒した、かの大勇者サブロー様の子孫殿もおられた!」
ミトラの事だ。
変に騒めく援軍兵たち。
「呪いの鎧を身に纏った不死身の戦士だっ!」
ぼくたちとの雑談で得たばかりの情報を、惜し気もなく吐き出すロウロイド隊長。
しかも適当に盛ってある。
「さらに、宮廷僧侶でありながら、野に下り、世直し旅をしておられる女傑もここに在りっ!」
安定した権力を捨てた変人、ジュテリアンの事だ。
「野に身を投じられた宮廷僧侶の話は、吾輩、耳にした事がある」
「某もだ。慈善活動もなさっておられるとか?!」
「ユーム大僧侶の再来だ!」
などの声が援軍から聞こえてきた。
(ユーム大僧侶。そう言えば、前に名前を聞いたような)
と曖昧に思ったのは、内緒だ。
そしてまた、
(うわっ、ジュテリアン、聖人っ?!)
とも、驚いた。
ミトラがロウロイドさんの背後に回り、
「謎の勇者、謎の勇者」
と、つぶやいた。
「そっ、そしてさらに!」
と声のトーンを上げるロウロイドさん。
「突如として謎の勇者が出現し、砦奪還に加勢したのだっ!」
「謎の勇者?!」
「顔はどんな? 服装はっ!!」
「もっと具体的に!」
と、喰いついてくる援軍。
「えーー、フルアーマーの黒騎士で、顔は分からなかったなあ。声もフルアーマーのせいで、くぐもっていたなあ」
さらに、
「伝説、伝説」
と、ささやくミトラ。
「あーー、我が砦の名物、伝説の棍棒を引っこ抜きおったなあ」
「でっ、伝説を抜いただとう?!」
「未だかつて、神岩から抜かれた伝説はないぞっ!!」
「抜いた黒騎士は何処へ?!」
「名はなんと申される?!」
伝説の引っこ抜きで、一気に盛り上がる援軍兵たち。
「あーー、我々を助け、砦を解放した後、彼は、
『当然の事をしたまで』と言って、名も告げずに去って行ったなあ」
重ねて、
「何処へ?!」と、問われ、
「北。北へ」
と、北を指して言うロウロイドさん。
南にしてしまうと、援軍とすれ違ってないのが、
「変だ」と言われるのを避けたのだろう。
「黒騎士殿の詮索は止めておこう。名声に興味のない、孤高の戦士なのであろう」
感じ入った様子で、援軍のリーダーが言った。
「大剣を持たせれば天下無双の豪傑もおられたが、爆炎のギューフに肩を砕かれ、ただいま治療中である」
とは、オーガのゴルポンドさんを言ったものだ。
大変だ。彼とも早く口裏を合わせなければ。
砦は、そこら中が焼けていたが、
「爆炎のギューフに襲われたのだから」
と、援軍も納得したようだった。
火炎を拡大させたのは、フーコツさんとミトラだったのだが。
その後の援軍とのやり取りもなんとか凌ぎ切り、ロウロイドさんは調子に乗って、
「黒騎士殿は去られが、残りし戦力も援軍無用の千人力! 嘘だと思うなら、戦ってみるか?!」
とまで吐いてしまったので、血の気の多い援軍兵が名乗りを上げ、
「一手、御教授願いたい!」
などという展開になってしまった。
ぼくは慌てて、フーコツさんを呼びに行った。
次回「ワウフダンの援軍VS蛮行の雨」(後)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
次回、「ワウフダンの援軍VS蛮行の雨」後編は、
明日に投稿します。
同時連載中の「続・のほほん」も、よかったら読んでみて下さい。
読み切りショートショート形式で書いています。




