「引っこ抜いたら斧だった件」(後)
「研磨しても使い物にならないっぽいわよ、その斧は」
と、ミトラ。
「いやいや。神岩を砕いたその斧刃は、刃こぼれしているからこそ、尊いのです」
と、鼻髭隊長ロウロイド。
「えーーっと、神岩なのかなあ? プレートの埋まってた部分だけ、少し柔らかかったけど」
「神岩で良いんですよ。そしてこれは神岩を砕いた達人の斧」
と、受け取った仕掛け斧を振るロウロイドさん。
「これからそういう伝説が生まれ、流布されるので、ご協力下さい」
「おお!」
ポン! と手を打つジュテリアン。
「その謎の勇者は、神岩を砕いた斧を捨て、伝説の棍棒を携えて何処へともなく去って行ったのだった。みたいな?」
「その通りです。何卒ご協力を」
と、頭を下げるロウロイドさん。
「売店の『伝説焼き』は、刃こぼれした斧刃を付け足せば良いから、金型は使い回せますな」
と、ノッポの見届け隊員。
「うむ。新しい伝説だ、現代風に色々と盛るのも良かろう」
「じゃあ、今回の魔族襲来も、絡めたら良いんじゃないの」
と、ミトラ。
「おお、そうだ。魔族に襲われ、クカタバーウ砦が危機一髪と言う所に、謎の勇者が颯爽と現われ……」
「伝説の棍棒を抜いて、魔族を駆逐するんですね? ロウロイド隊長!」
と、ノッポさん。
「いや、棍棒を引っこ抜くのは魔族を駆逐してからにしよう。魔族を倒しつつ伝説を抜くのは無理がある。良いな、皆んな!」
背後の部下を振り返り、両手を広げて叫ぶロウロイドさん。
「で、でも、本当に引っこ抜いたメタルゴーレムさんと、ドワーフのお嬢さんは?!」
そう言ったのは、ぼくが伝説の棍棒を岩から抜くのを見た、太っちょ隊員だった。
「私も隊長さんの案に賛成だ」
と、ジュテリアン。
「派手な行動は敵を生むだけだから。魔王ロピュコロスには、正体不明の勇者を追いかけてもらいましょう」
「そうね、あたしたちも、その新しい伝説に協力するわ」
と、ミトラ。
「人間社会では、声の大きな者が勝つ。その程度のヨタ話は、三十年もすれば真実になると思う」
クカタバーウ砦と「蛮行の雨」の利害が一致した所へ、ワウフダンからの援軍が到着した。
「俊速の伝達蜥蜴を飛ばした」
とは聞いていたが、早い到着に思えた。
そうとう頑張って駆け付けてくれたのではないだろうか?
ワウフダンは遠かったからだ(地図で見ただけだが)。
その援軍と、砦の責任者ロウロイドさんは、少しやりやった。
「援軍の到着を待たずに何故、突入したのか?!」
と言われたのだ。
援軍のリーダーはこうも言った。
「我々を待てば、もっと楽に鎮圧出来たはずだ」と。
対して、
「魔族は二十人ほど。リーダーは、かの爆炎のギューフ。二足歩行の火吹き大蜥蜴が三匹。凶暴な黒種で、体高四ペート(四メートル)、全長八ペート。尻尾攻撃の強烈な魔獣であった」
と説明するロウロイド隊長。
(そうか、魔族が奇襲して来た時に隊員がやられたんだ、尻尾で)
(太くて長い尻尾だ。一撃必殺だったかも知れない)
「砦の支配が目的でない事はすぐに分かった」
(お。ロウロイドさん得意? の後出し)
「一刻も早い奪還が急務であった」
(ぼくたちの突入を止めた人が堂々と逆を言うのは、なぜか清清しささえ感じた)
「砦をよく知る我々と、その場に居合わせた勇者団、討伐団、旅の武人たちで奪還は成し得ると判断し、決行した!」
「では何故、援軍を頼んだのだ?!」
「砦が強襲された事を知らせない訳にはいかなかった。黙っておれば、『何故、援軍を頼まなかった?!』と我々は後で糾弾されたのではないか?」
後出しロウロイドさんは吠え続けた。
「二十人程度の魔族に援軍は無用! と連絡しても、お主らは従ったかな?」
からの、
「我々は必要な連絡をして、必要な援軍要請をして、必要な反撃をしただけだっ!」
からの、
「我々には古代ムン帝国の戦士、金属場違い工芸品殿がおられた!」
ああ。恥ずかしながら、ぼくだ。
「しかも、このゴーレム殿は、異世界よりの転生者の魂を宿しておられたのだっ!」
その時、援軍は響動めいた。
「ををっ、勇者のタマゴ殿!」
とか。
「不老長寿の生命体!」
とか。
「見た目が案外ショボい……」
とか。
次回「ワウフダンの援軍VS蛮行の雨」(前)に続く
次回「ワウフダンの援軍VS蛮行の雨」前編は、
明日、木曜日に投稿します。
後編は、金曜日の投稿予定です。
同時連載中の「続・のほほん」は一話完結形式です。
よかったら、読んでみて下さい。
面白さは、えーーっと、人それぞれでありましょう。




