「立て! メタルオーパーツ」(後)
「パレルレ、どう? 身体の調子は?」
不安そうに、ぼくを見上げるドワーフの娘。
「身体のあちこちに沢山の収納庫がある」
と、四つの手で身体のあちこちを触るぼく。
「皆んな空だけど」
放置される時に、中の物は抜き取られたのかも知れない。
「じゃあ、あたしのヘルメット、入らないかなあ」
少女が兜を脱いだ。
「全然、入るぞ」
と、下腹中央の大きな箱を、身体の外に出した。
「魔法だな。勝手に出て来たぞ」
ドワーフの娘はそこにヘルメットとガントレットを仕舞った。まだまだ空間に余裕がある。
ぼくは内部の小型アームで動かないように押さえた。
背荷物の下着類も一緒に入れようとしたので、別の小さな引き出しを出した。
食器。調味料。調理器具もそれぞれ別にした。
あと、回復薬や強化剤とやらもだ。
「荷物袋はもう要らないかな」
と言って、少女は古戦場のゴミ箱に捨てた。
見切りの早い娘だ。
あたしの村にもメタルゴーレムが居てね、色んな武器を内蔵してたんだけど、パレルレはどう?」
「武器じゃないと思うけど、頭の中に日時計みたいなモノがあるよ」
「それ、人工太陽を使った古代ムン帝国の日時計だよ。あたしの村のゴーレムも装備してる」
人工太陽で日時計?
科学が発展してるんだか後退してるんだか。
「あたしもヘルメットの中にゼンマイ式の懐中時計を入れてるよ。時間は大切だもんね」
「武器と言えば、胸に鞭が、左右に一本ずつ」
と胸を撫でるぼく。
「あ、でも両方とも途中で千切れてる」
「ああ、雷撃鞭か高熱鞭ね。それは残念」
「身体の中央に砲身が。でも弾倉が空だ」
「そう。でもパレルレ、あなたが動けて嬉しいわ」
少女は、ぼくの身体を、ぽん! と叩いた。
「あたしの名はミトラ。オララ村のミトラ。これからは仲間で友だちだよ」
ドワーフの娘ミトラは、そう言って片手を高く掲げた。
ぼくはぼくの手をひとつ、そこに添えた。
ぼくの手はミトラの手より、かなり大きく、指も太かった。
「あっ、このゴーレム、電子頭脳が壊れてる」
つまり、スクラップだ。だから放置されたのだろう。
「デンシズノ?」
「ゴーレムの魂だよ。死んでるのを今、確認してしまった」
「魂が二つもあったら、混乱しない? パレルレの魂だけで良いじゃん」
「あっ、大変だ。補助電子頭脳らしいのが、目覚めた!」
「補助する魂? 『サブ』って奴?」
(この娘、補助電子頭脳を知っているのか? それは説明が省けて有り難い)
「別に何も主張してこないから、臨時の魂なのかも知れない」
と、ぼくは自分でも意味不明に思える説明をした。
「サブは頼りになる奴らしいよ。村のメタルゴーレムがよく言ってた。問題ない」
と、笑顔でミトラが言った。
ドワーフの娘ミトラは、百歳になったので、村の掟に従い大勇者の子孫として、「勇者の旅」をしている最中なのだそうだ。
ぼくはぼくで、
(観光客の言ってた『大勇者』が出た!)
と興奮した。
「大勇者の行きずりの妻が、あたしの御先祖様だよ」
と言う言葉で、
(酒池肉林の落とし胤、来た!)
とさらに興奮するぼく。
「勇者の旅」と言っても、大勇者の足跡を辿るような大層なものではなく、
「それは便宜上の名称」で、
「テキトーに見聞を広めて、無事に村に帰るのが目的」
なのだそうだ。
「それであのう、ミトラさん。パレルレって、どう言う意味?」
この世界の英雄の名前だったりしたら恥ずかしいから、変更してもらおうと思ったのだ。
「あたしが飼ってた一角犬の名前よ。去年、死んじゃったけど」
ペットの名前だったのか。
いや、それだけ愛情が注がれた名前だと言える。
ぼくは良いように解釈した。自分のために。
「あたしの事はミトラでいいからね、パレルレ」
と笑うドワーフの娘。
「うん。ありがとう、ミトラ。よろしくね」
ぼくは電子眼を、への字にして笑顔を返した。
こうして凡人、帝辺進は死んだ。
そして金属場違い工芸品パレルレとして生まれ変わり、生きてゆく事にしたのだった。
(思い出せない家族よ、友よ、サラバだ)
科学知識の代わりに消された記憶がなんだったのか、ようやく思い当たったぼくだった。
次回「呪われた鎧」に続く
読んで下さった方、ありがとうございました。
次回「呪われた鎧」の前編、後編は、明日に投稿予定です。(前)を、午前中に。(後)は、夕方に。
第一部が完結した、
回文妖術師と古書の物語「魔人ビキラ」と、
回文ショートショート童話「のほほん」も、
よかったら、のぞいてみて下さい。
そして「のほほん」の第二部「続・のほほん」は、心理的に絶賛連載中です。
こちらも、よろしくお願いいたします。