表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/365

「引っこ抜いたら斧だった件」(前)

ぼくが「伝説」をミトラに渡すと、

  「でもこれ、棍棒じゃないよ」

と言って、斧刃(ふじん)を飛び出させた。

「あたしが持ってる仕掛け棍棒と同じで、『呪いの思念』で(ブレード)が出たり引っ込んだりする奴」


「棍棒じゃなくて斧?! 大変だ、ロウロイド隊長に知らせなくちゃ!」

太っちょさんはそう叫ぶと、走って部屋から出て行った。


「あーー。その伝説が原型(ベース)になって、仕掛け棍棒が世に広まったのね?」

      と、ジュテリアン。


「そうそう。『伝説の武器・防具は(すべ)て、(いにしえ)には使用されていた』って伝承があるもんね」

ブレードを引っ込め、クルクル回すと、そのまま、ストン! とホルスターに「伝説」を収めた。

「おう。サイズもピッタリ。次郎丸と名付けよう」

  と、喜ぶミトラ。


「ミトラ。アルファンテのギルドで依頼を見た時から気がついていたのか? ひょっとして」

  と、ぼく。


「知ったのは今」

  と、ミトラは神岩の金属プレートを指した。

「このプレート、取り扱い説明書になってたから。

『これは斧である。棍棒使いは(あきら)めよ』

の一文があったわ」


「よかったわね。引っこ抜いた者も、呪いを解いた者も、同じ勇者団のメンバーで」

  と、ジュテリアン。

「神様の御導(おみちび)きにしとけば、全然オッケよ」

  と言うミトラ。

「斧を扱うのは、ミトラで頼むよ」

  と、ぼく。


「そうね。この斧の刃に」

  と、ホルスターに収めた仕掛け棍棒を叩くミトラ。

「『魔王の身体(からだ)を裂く呪い』が掛かっていたわ。呪いが(あやつ)れるあたしでないと、正確には使い(こな)せないと思う」


「凄い。見ただけで呪いが分かるんだ」

  と、ジュテリアン。

「いや、その、斧刃(ふじん)に呪文が(きざ)んであったから。普通、見える所に刻み込んだりしないんだけど」

「普段は斧刃が見えないように引っ込んでるから、オッケじゃないの?」

  と、ジュテリアン。


「あっそうか。あたしは勿論(もちろん)(よろい)の内側に呪文を刻んでいるの」

と、ミトラは(ヘルメット)を脱ぐと、内側を見せた。

「おーーー」

  思わず声をそろえるジュテリアンとぼく。


そこには複雑な文字で、幾つもの呪文? が刻み込まれていた。

ミトラはそうやって、自分の防具を呪っていたのである。


「えーー。良いなあ。ねえミトラ、私の回復(ヒール)短剣も呪ってくれない?」

「ふふん。自分が使用するモノ以外は呪えない、付与の呪いなのだ」

  と、ミトラは威張った。


「自分の事は占えない」

  とか()かす占い師がいるが、あれのたぐいか?


それから砦の責任者、鼻髭(はなひげ)のロウロイドさんが部下を数人引き連れてやって来て、多少の問答があった。

  が、無論、特に問題はなかった。


フーコツさんが居なかったが、

魔族(デモラ)の尋問で手が離せない」

               との事だった。


「伝説の仕掛け棍棒の使用資格者は、二人とする」

「ただし、両者が死んでしまった場合は、クカタバーウ砦に返還する」

  などと言うロウロイド隊長。


「承知。何も問題はないわ」

       キッパリと言うミトラ。


ミトラが老衰で死ぬとして、それは何百年も先の話だ、と以前に聞いた。

百年もすれば、今のこの会話を知る人間はすべて死に果てている事だろう。


(「返還」は、時間でウヤムヤにしてしまう積もりだな)

  と、ぼくは直感した。


その後、ぼくたちは多少の身の上話をした。

砦の隊員たちを安心させるためだ。


しばしの雑談の後、

「あたしの持ってたこの仕掛け棍棒、太郎丸が神岩を(けず)るので刃がボロボロになっちゃったんで、引き取ってくれない?」

大型電化製品の買い替え時のような事を言い出すミトラ。


「もちろんですとも、ドワーフのお嬢さん」

鼻髭隊長ロウロイドさんは、にこやかに言い、刃がボロボロになった仕掛け棍棒をうやうやしく受け取った。

「伝説の棍棒が失くなりましたから、新しい伝説を作りませんと。売店の『伝説の棍棒焼き』の売り上げも落ちますし」


んん? 新しい名物の心配か?



      次回「引っこ抜いたら斧だった件」(後)に続く




次回、第二十話「引っこ抜いたら斧だった件」後編。

は、明日の投稿予定です。


同時連載中の「続・のほほん」は、ショートショート集です。

もしよかったら、読んでみて下さい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ