「引っこ抜いたら斧だった件」(前)
ぼくが「伝説」をミトラに渡すと、
「でもこれ、棍棒じゃないよ」
と言って、斧刃を飛び出させた。
「あたしが持ってる仕掛け棍棒と同じで、『呪いの思念』で刃が出たり引っ込んだりする奴」
「棍棒じゃなくて斧?! 大変だ、ロウロイド隊長に知らせなくちゃ!」
太っちょさんはそう叫ぶと、走って部屋から出て行った。
「あーー。その伝説が原型になって、仕掛け棍棒が世に広まったのね?」
と、ジュテリアン。
「そうそう。『伝説の武器・防具は全て、古には使用されていた』って伝承があるもんね」
ブレードを引っ込め、クルクル回すと、そのまま、ストン! とホルスターに「伝説」を収めた。
「おう。サイズもピッタリ。次郎丸と名付けよう」
と、喜ぶミトラ。
「ミトラ。アルファンテのギルドで依頼を見た時から気がついていたのか? ひょっとして」
と、ぼく。
「知ったのは今」
と、ミトラは神岩の金属プレートを指した。
「このプレート、取り扱い説明書になってたから。
『これは斧である。棍棒使いは諦めよ』
の一文があったわ」
「よかったわね。引っこ抜いた者も、呪いを解いた者も、同じ勇者団のメンバーで」
と、ジュテリアン。
「神様の御導きにしとけば、全然オッケよ」
と言うミトラ。
「斧を扱うのは、ミトラで頼むよ」
と、ぼく。
「そうね。この斧の刃に」
と、ホルスターに収めた仕掛け棍棒を叩くミトラ。
「『魔王の身体を裂く呪い』が掛かっていたわ。呪いが操れるあたしでないと、正確には使い熟せないと思う」
「凄い。見ただけで呪いが分かるんだ」
と、ジュテリアン。
「いや、その、斧刃に呪文が刻んであったから。普通、見える所に刻み込んだりしないんだけど」
「普段は斧刃が見えないように引っ込んでるから、オッケじゃないの?」
と、ジュテリアン。
「あっそうか。あたしは勿論、鎧の内側に呪文を刻んでいるの」
と、ミトラは兜を脱ぐと、内側を見せた。
「おーーー」
思わず声をそろえるジュテリアンとぼく。
そこには複雑な文字で、幾つもの呪文? が刻み込まれていた。
ミトラはそうやって、自分の防具を呪っていたのである。
「えーー。良いなあ。ねえミトラ、私の回復短剣も呪ってくれない?」
「ふふん。自分が使用するモノ以外は呪えない、付与の呪いなのだ」
と、ミトラは威張った。
「自分の事は占えない」
とか吐かす占い師がいるが、あれのたぐいか?
それから砦の責任者、鼻髭のロウロイドさんが部下を数人引き連れてやって来て、多少の問答があった。
が、無論、特に問題はなかった。
フーコツさんが居なかったが、
「魔族の尋問で手が離せない」
との事だった。
「伝説の仕掛け棍棒の使用資格者は、二人とする」
「ただし、両者が死んでしまった場合は、クカタバーウ砦に返還する」
などと言うロウロイド隊長。
「承知。何も問題はないわ」
キッパリと言うミトラ。
ミトラが老衰で死ぬとして、それは何百年も先の話だ、と以前に聞いた。
百年もすれば、今のこの会話を知る人間はすべて死に果てている事だろう。
(「返還」は、時間でウヤムヤにしてしまう積もりだな)
と、ぼくは直感した。
その後、ぼくたちは多少の身の上話をした。
砦の隊員たちを安心させるためだ。
しばしの雑談の後、
「あたしの持ってたこの仕掛け棍棒、太郎丸が神岩を削るので刃がボロボロになっちゃったんで、引き取ってくれない?」
大型電化製品の買い替え時のような事を言い出すミトラ。
「もちろんですとも、ドワーフのお嬢さん」
鼻髭隊長ロウロイドさんは、にこやかに言い、刃がボロボロになった仕掛け棍棒をうやうやしく受け取った。
「伝説の棍棒が失くなりましたから、新しい伝説を作りませんと。売店の『伝説の棍棒焼き』の売り上げも落ちますし」
んん? 新しい名物の心配か?
次回「引っこ抜いたら斧だった件」(後)に続く
次回、第二十話「引っこ抜いたら斧だった件」後編。
は、明日の投稿予定です。
同時連載中の「続・のほほん」は、ショートショート集です。
もしよかったら、読んでみて下さい。




