「ウンオーラの撤退」(後)
「蛮行の皆さんとは心強い」
道を急ぎながら、大柄なハンゾーさんは笑みを浮かべた。
「でかしたぞ、コタロー」
ハンゾーさんは、コタローさんの細い体をヒシと抱きしめた。
回復院に着き、さっそくランランカさんの入院している部屋に突入した。
彼女は、カーテンを引いた窓辺のベッドに横たわっていた。
「おう。蛮行ではないか。ご無沙汰様だ」
ランランカさんは顔を傾け、入室したぼくたちを見た。
「受けた刀傷が治らぬとか」
進み出るフーコツ。
「あ。刀傷じゃないのよ、槍で斬られたのよ」
と、ランランカさん。
「槍で刀のように斬られたの?」
と、ミトラ。
「うん。槍だから突いてくると思ってたら、斬りやがんの」
ランランカさんは苦笑した。
「フーコツ、笑って頂戴。譲ってもらった伝説の杖の超回復光が効かないのよ」
顔を天井に向け治して、
「あの杖で傷が治らないなんて、初めてよ」
と、つぶやいた。
白い髪と白い肌が、今日はなんだか儚げに見えた。
「全く治っておらぬ訳ではありません。非常に遅遅としてしておりますが、傷は塞がりつつあります」
と、コタローさん。
「が、うっかり動くと患部が割れ、血が出て参ります」
「御不浄や食事のたびに、出血大サービスなのよ」
自嘲気味に笑うランランカさん。
「傷を受けてどれくらい?」
と、ジュテリアン。背中の杖を抜いた。
「三日が過ぎました」
と、ハンゾーさん。
(えっ? 三日も出血大サービス?!)
ぼくは驚いた。
(『ギョギョッ?!』)
と、ぼくの心の中で叫ぶサブブレイン。
「私のユームダイムの杖が効いてくれると良いんだけど」
ジュテリアンはそう言って、水晶体の付いた杖のヘッドをランランカさんに向けた。
そして八方にほとばしる伝説の回復光。
ある程度は、前方に集中していた。
何条もの光の帯を受けて、カッ! と目と口を開くランランカさん。
気持ちが良いのか苦しいのか?!
部下のハンゾーさんとコタローさんは流れ弾を受け、素直に、「がっ!」と叫んで目をへの字にした。
こっちは、気持ちが良いんだ。
しかし回復光を受けても、傷口に薄い被膜が出来ただけだった。
動いたら、すぐに破れそうな被膜だ。
「ジュテリアンの伝説杖でも、歯が立たないなんて……」
驚き、言葉を失うミトラ。
ランランカさんの病室の床に座り込み、落ち込んでいるジュテリアン。
やがて病室に集まって来て、歩き回る六人の機動忍者部隊。
さすがにジュテリアンは避けて歩いている。
じっとしていられない気持ちは分かる。
しかし、むさ苦しい。慌ただしい。目まぐるしい。
「わたし、そして蛮行の伝説も役に立たぬ呪いか? 素晴らしい」
ランランカさんが言った。
「特段、問題はない。徐々にだが、傷は治っておる。回復院の補血の術も効いておる。ただ、しばらくは、無理が出来ぬだけだ」
フーコツが慰めた。たぶん。
「上司に命じられた世直し旅が、開店休業とは……、無念だわ」
「この手の呪いは、術者を倒せば消える。が、武器が呪われている場合もある。まあ、武器も砕いてしまえば問題はない」
フーコツが顎をしごきながら言った。
「魔族の一団が近くの村を襲った時、わたしたちはたまたま通り掛かったのよね」
ランランカさんが経緯を話した。
「そして戦いになったの。村の食料を盗みに来たチンケな魔族であったけど、手強かった」
「村人たちも強く、協力して首領以外は倒しました。しかしランランカ様は首領の槍が掠ってしまい……」
と、無念そうにコタローさんが言った。
「このザマだ」
と、ランランカさん。
「村というのは擬態で、魔獣、魔族を撃退するための出城だと、後で村人に教えてもらいました」
と、ハンゾーさん。
「街の外側を守り、平穏を保つのが仕事なのだそうです」
その首領とは、黒マント。
銀色のフンドシ。
青色の肌。
槍の二本流。
腰まで伸ばした漆黒の髪。
そして身の丈は、三ペートほどあったそうだ。
「名乗らなかった? そいつ」
と、ミトラ。
「名乗らなかったわね」
首を横に振るランランカさん。
「村を襲って食料を盗もうとしたのじゃ。セコくて名乗れまいて」
と、フーコツ。
「あなたたち、何か知ってるの?」
ランランカさんは、怪訝な表情をこちらに向けた。
「その風貌と武器からして、其奴はスハイガーン軍五神将のひとり、ウンオーラで間違いあるまい」
フーコツは、あっさりと教えた。
「ご、五神将?」
「どうりで強かったですじゃ」
「というか、ランランカ様を傷つけはしたが、逃げて行ったぞ」
「あれは、食料を運ぶ者がいなくなったからだよ」
「五神将って、大幹部だろうが」
「そんな大幹部が、名もなき村の食べ物を盗もうとしたと言うのですか?」
忍者部隊たちは騒いだ。
「スハイガーン軍も、色々あるのかも知れん」
「どんな?」と、ミトラ。
「うむむ。小、中幹部がロピュコロス軍との戦闘で全滅してしまい、些細な作戦にも大幹部が出撃せざるを得なくなった、とかじゃ」
フーコツは目を泳がせながら答えた。
「脱走が相次いでて、人手不足になってるとか」
ミトラもテキトーな事を言った。
「魔王には『魅了』があるじゃろうが。あれは逃れがたいようじゃそ」
「あっそうか。じゃあ、フーコツの話で」
「いや、ワシもテキトーに言った。推されても困る」
『否。ありそう!』
会話に参加するサブブレイン。
「あっ、サブちゃんもそう思うよね!」
味方を得て喜ぶミトラ。
「傷の治りの遅いのは、特殊な呪いだと思うわ」
と、ジュテリアン。
「では、ウンオーラを倒せば、ランランカ様の傷は治るのですね?!」
巨体を揺すって言うハンゾーさん。
「念の為、二本槍もヘシ折ろう。伝説の回復杖が治せぬ傷じゃ。伝説の呪い付きの槍かも知れん」
フーコツが妖しげな事を言った。
「よし。二本槍はブッ壊す。ついでにウンオーラもブッ壊す!」
と、リキむミトラ。
「ランランカさん、ひとつ貸しよ」
ジュテリアンが笑った。
「うう。前にも一度、貸しを言われたような気がする」
ちゃっかり忘れているランランカさんだった。
次回「魔族の来る道」(前)に続く
次回、第百八十一話「魔族の来る道」前編は、明日の土曜日に投稿予定です。
また、三連休が来ましたね。
頼まれてもいないのに、月曜日まで投稿します。たぶん。




