「真打ち登場」(前)
それから皆んなで、テントまで戻った。
ぼくはジュテリアンを胸に抱き、ミトラをおんぶして移動した。
ミトラも歩けないと言ったからだ。
フーコツはテント前で、
「ひと汗掻いたので、早く街にたどり着いてお風呂に入ろう」
と、仕事終わりの労働者のような事を言った。
ぼくは前世界で、仕事が終わったら会社の風呂に入っていたので、その気持ちはとてもよく分かった。
ジュテリアンとミトラは、このままぼくが街まで運ぶしかなさそうだった。
「そんな時は、プピペテラの回復薬」
と言い出したのは、バンガウアさんだ。
そうだ、この人は薬売りの行商人に化けて移動しているのだった。
「ディンディン、回復薬。売れ残りの高いヤツで良いぞ」
言われて口から四角い大きな袋を、ニユッ! と出す幻魔ディンディン。
「副作用の強いのは要らないわよ」
と、ジュテリアンは飲む気を見せた。
「助っ人のお礼だ。半額で良いぞ」
バンガウアさんは商売人の顔を見せて言った。
「お主だけでは、倒せたとしてもかなり苦労したはず。知り合いの好じゃ、ロハにしてやろう」
突っ込むフーコツ。
「そんな。タダはよくないわよ。十分の一、いえ、百分の一の値で買わせて頂くわよ」
とは、ジュテリアン。
「特に、どうやってあの大悪霊を倒すつもりだったのか、興味深いですわね」
「い、いや、いっそ贈り物にさせてくれ。好きな物を飲んでくれ」
バンガウアさんは観念したらしく、括っていた紐を解き、袋を下げて薬箱を剥き出しにした。
ひと時が過ぎ、
「飲んだ、飲んだ」
と満足気に鎧の腹部を撫でるミトラ。
「晩ご飯は要らないかも知れない」
などと言っていた。
その横で、ゲップを連発しているジュテリアンとフーコツ。
「ううむ。副作用の強い薬と、擦り傷用の軽い回復薬しか残らなかったか……」
うなだれるバンガウアさん。
「遠慮のないその飲みっぷりが、お主ら蛮行の強みかも知れんなあ」
ぼくが三つのワンホールテントを畳み、収納庫に納めるのを待って、
「では、そろそろ行きましょうか」
「あたしは満足じゃ」
「ご馳走になった。バンガウア殿」
と、三人娘は言い、元気な足取りで歩き始めた。
バンガウアさんは、
「そこまで見送るが、拙者はもう少し此処に残る」
と言った。
「『引き潮の海』や、メリオーレスさんがやって来る」からだ。
が、一件が落着したので、ぼくたちは先に発つ事にさせてもらった。
そしてこの一件に関しては、バンガウアさんとぼくらしか知らない事なので、五神将の事は「口外無用」になった。
さいわい、ツアツアエの遺体はない。
ただの、魔族との戦闘にしてしまえば良いのだ。
また魔族に狙われる火種を作りたくなかったのだった。
荒れ地を突っ切る、のではなく近くの街道まで戻る三人娘。
見送る行商人プピペテラ姿のバンガウアさんと、姿を消したディンディン。
「じゃあ、また」
手を振る三人娘とぼく。
姿を消しているディンディンも、手を振っているのが熱感知眼で分かった。
「達者でな、蛮行の雨。また会おう」
バンガウアさんの「また」は実現しそうだ。
色々な意味で、その言葉は怖かった。
U字にに湾曲した街道を、素直に進む三人娘。
「ああもう、厄介事には首を突っ込まないはずだったのに」
ボヤくジュテリアン。
「バンガウアさんの頼みじゃ、断れないわよね」
なんだか嬉しそうに言うミトラ。
「でもこれで、五神将を二人、倒したじゃん」
「望んだ戦いではなかったがな」
フーコツは、すこしウンザリしている様子だった。
やがてU字型街道の途中の街に辿り着き、宿でゆっくり休む事にする蛮行の三人娘。
「体力はバンガウアさんの薬のお陰で回復したけど、魔力がダメなままで、心細いわ。(ジュテリアン談)」
だったのだ。
「街の探索はナシじゃぞ、ミトラ。魔力不足で不覚を取るかも知れんからな」
「ふ。呪力も不足気味になっちゃったわよ。もはや元気だけが取り柄のただの小娘よ、あたしゃ」
そんな訳で蛮行の三人娘は、街や村に泊まりながら、何日かはのんびりとした旅を楽しんだ。
「今日も戦う相手がチンピラ野盗で助かったわねえ」
ジュテリアンは、爽やかに笑った。
「物足りないと言えばモノ足りない。悪党が弱くて助かったと言えばタスカッタ」
ミトラもその点は認めた。
次回「真打ち登場」(前)に続く
次回、第百七十八話「真打ち登場」後編は、あしたの日曜日に投稿予定です。




