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「バンガウア団VSツアツアエ」(後)

「させるか!」

バンガウアさんは叫んで構築途中のツアツアエの五体に大剣を振ったが、手応えがなかったようで、勢い余って体を泳がせ、地面に膝を着いた。


「くっ。まるで幽霊だ」と、(うめ)黒騎士(バンガウア)

  攻撃が早すぎたのだ。


この後、実体化したツアツアエが雷撃を撃とうとした時には、バンガウアさんは黒盾(エレシルト)を張っていた。


「噂以上に、小技が早いな」

  ツアツアエが顔をしかめた。

「一体、誰に教わったのだ」


「人間の仲間に色々とな。人間は(ずる)くてシブとい。

魔族は遠からず滅びようぞ」

「それが魔族の言う言葉かっ!」


ツアツアエがバンガウアさんとの会話に気を取られている隙に、ミトラが背後から斧刃(ふじん)を出した棍棒を投げた。


実体化したツアツアエの身体(からだ)を、再び破壊するミトラ。

斧はツアツアエを突き抜け、自分に迫ったので(あわ)てて避けるバンガウアさん。


  胸に大きく穴の開いたツアツアエが地面に倒れた。

そしてまたその遺体の横に、赤い煙が立ち昇り凝縮(ぎょうしゅく)して、新しいツアツアエになる。

  杖。赤い(ふんどし)

    黒マントも新しくなっている。


「小娘。貴様、棍棒使いではなく、斧使いであったか」

今度はミトラに向き直り、杖から雷撃を出すツアツアエ。


雷撃の勢いに押され、一度は下がったものの、『緊急時に疾走(しっそう)する呪い』を発動させたのだろう、ミトラは鎧で雷撃を割りながらツアツアエに迫った。


「うお。鎧が焼けておらん? どうした事だ?!」

  確かに雷撃の熱は高い。

ツアツアエは驚きながらも、ミトラの突進を(かわ)した。


  避けられはしたものの、

「戻れ!」

  と、詠唱し斧を呼び戻すミトラ。

伝説の斧は、手を離れると、呼べば戻って来るのだ。

  聞いてはいたが、見るのは初めてだった。


伝説の斧は湾曲して飛び、見事にツアツアエの背中に刺さった。

  突き抜けるような勢いがなかったのだ。


「がっ」

  と(うめ)き、仰向(あおむ)けに倒れるツアツアエ。

ミトラの手を離れた斧が重くて、立っていられなかったのだろう。


背中から倒れた拍子に深く身体にめり込んだ莫大な質量(おの)を、抜く事が出来ず、

「ば、馬鹿な。こんな重いものをどうやって(あつか)うと言うのだ」

  地面に倒れたまま、(もが)くツアツアエ。


「大剣を振り下ろし首をチョン切りたいところだか、また新しい身体が出来ちまうんだろうなあ」

  と、バンガウアさん。


するとツアツアエは持っていた杖の先を口に差し、雷撃を放った。

  爆発するツアツアエの頭部。

頭を失った遺体の(かたわ)らに構築される新しい身体。


「あれ? 蘇生が早くないか?」

  と、崖の上のぼく。

「死ぬのに慣れてきたみたいね」

  と、隣のジュテリアン。

「でも、カラクリがだいたい分かった気がする」

  とも言った。


  戦場では、

「どうだ! 吾輩の鍛錬の成果、恐れ入ったか!」

  と、勝ち誇る五神将ツアツアエ。


「燃やしてしまえば、蘇生に時間がかかると見た」

  言うが早いか、猛烈な炎を撃つフーコツ。

ツアツアエは、盛大に燃え上がった後、赤煙と化し、位置を変えてまたも実体化した。


「我慢比べかな? バンガウア。しかし、お前たちのエナジーが尽きる方が早かろうな」

「まずい。このままじゃ、黒騎士の正体を魔族仲間にバラされるじゃん」

「人間たちに黒騎士の中身が魔族と知られたら、大いに反発を喰らうかも知れんぞ」


「ああもう、聖女と言い、黒騎士と言い、なんで魔族が人間を助けるのよ」

  するりとバラすミトラ。

「んん? 聖女?! 人界で噂の聖女が魔族だと?!」

  色めき立つツアツアエ。


「し、しまった。ついこの口が」

  (ヘルメット)の猫型仮面をつねるミトラ。

「ええい、何が何でもここでツアツアエを倒すのじゃ」

  杖を構えるが、攻めるのは躊躇(ちゅうちょ)しているフーコツ。


「馬鹿め。死ぬのは貴様らだ」

雷撃を放つが、ことごとくフーコツ、ミトラを守る黒盾(エレシルト)(はじ)かれ、自分が黒焦げになって倒れ伏すツアツアエ。


「チカラを使い果たして死ぬのはお主だ、ツアツアエ」

  啖呵(たんか)は切るが、やはり攻撃はしない黒騎士(バンガウア)


窪地(くぼち)で盛り上がる会話をよそに、ジュテリアンは立ち上がり、伝説の杖をライフルのように構え、崖下に撃った。

大浄化(ヌイライニグング)!」

  と、詠唱していた。


大浄化光を発射後、ガックリと(ひざ)をつき、前のめりに倒れ、崖の(ふち)ギリギリで(とど)まるジュテリアン。

  慌てて引き戻すぼく。

ついにエナジー切れか。


放たれた浄化光は例によって八方に散ったが、前方にやや集中していた。

そのうちの何本かが、五体の構築が成ったツアツアエに当たった。


光を受け、リアクションもなく、無言で粒子と化し消滅してゆくツアツアエ。

  マントも褌も、そして杖も残らなかった。


「消えた?!」

  ただ驚くミトラ。

「再構築が起こらんぞ。 どういう事だ、フンドシも残らんとは」

  と、バンガウアさん。


「今のは確かに浄化光……」

  そう言って崖の上、つまりこちらを見るフーコツ。

「ジュテリアンがやりおったのか?!」


また再構築するのではないかと、警戒している様子のバンガウアさんたちの所へぼくたちは降りて行った。

ジュテリアンは意識はあったが、歩く元気はなかったので、ぼくが抱きかかえた。


  近づくぼくたちに、

「どうしたのかしらアイツ。まだ再構築しないんだけど」

  と、ミトラが言った。

「まさか逃げられたのか?」

  と、フーコツ。


「成仏したのよ」

ぼくにお姫様抱っこをされたまま、ジュテリアンが言った。

「私の大浄化でね」


「うむ。確かに浄化光であった」

  つぶやくフーコツ。

「浄化されたと? いや、ツアツアエは悪霊のたぐいではないぞ。実体を持った強力な魔法使いだ」

  バンガウアさんが反論した。


「ほら、前にバンガウアさんがスハイガーン軍の四天王を倒して、命は取らない代わりに、自分を死んだ事にしろと頼んだ。って、言ってたじゃない」

「ああ、その通りだ。命を()けた約束事であった」


「その時の戦いで、ツアツアエは本当に死んじゃったのよ。そして自分が死んだ事に気が付かず、再構築したんだわ」

「そう言えば、沼に落ちたはずのツアツアエは濡れていなかった。さすがは魔法使い、器用な奴と思ったが。あそこで一度死んでいたのか」


「悪霊?! それがあの超再構築のカラクリか?」

「えええええ? あれが悪霊? ()()きしてたよ?」

「死ぬほどの鍛練を積んだと言っておったが、自分が死んだ事に気が付いておらなんだとは」

「実体ソックリの悪霊だった!」

  フーコツとミトラが代わる代わる感心の言葉を吐いた。


「おそらく、仲間と一緒に食べたり飲んだり、寝たりもしていたと思うわ」

  ジュテリアンが言った。

それは彼女の推測に過ぎなかったが、ツアツアエが浄化光で消滅した理由の説明にはなった。


「悪霊の思い込みって、凄いねえ」

  しきりに感心するミトラ。


こうして、魔族の敵討(かたきう)ちは、返り討ちに出来たのだった。

       ……たぶん……。


                

                次回「真打ち登場」に続く



次回、第百七十八話「真打ち登場」前編は、明日の土曜日に投稿予定です。

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