「バンガウア団VSツアツアエ」(前)
バンガウアさんは走りながら背後に黒盾を張り、自分を狙って飛んで来る火球、雷球、岩球などを正確に反射していた。
反射された火球などの攻撃弾は、倍以上のスピードで魔軍に返ってゆき、魔族たちが叫び声を散らしていた。
断末魔の悲鳴であろう。
魔軍の背後に陣取っていた飛行竜は翼を広げ、魔族を乗せたままフワリと宙に浮いた。
が、そこに大きく膨らんだジュテリアンの卍手裏剣が真上から飛翔して来て首を裂かれ、あえなく落下する三頭の竜。
「まだ近くだから、正確に首を狙えたわ。ラッキー」
地上に落ちる竜の頭部を見て、嬉しそうに言う崖の上のジュテリアン。
竜の首を裂いた卍も、そうでない卍も大地に刺さって爆発した。
その爆発に巻き込まれて飛び散る魔族たち。
かくて飛行竜の部隊は、あっと言う間に全滅した。
ユームダイムでは、はるかに数が多い飛行竜部隊を全滅させたが、あの時よりはずっと近く、敵の姿がよく見えていた。
ジュテリアンの言う通り、竜の数が少なくかつ近く、ラッキーだったようだ。
飛行竜は、飛行以外にはコレと言った取り柄がないと聞いていたが、噂通り、見せ場もなく退場したのだった。
いや、爆発で派手に翼を四散し魔族を慌てさせたのは、唯一のハイライトであったかも知れない。
ぼくたちの立つ崖に対しても、火球、雷球、岩球、それから綺麗な虹球などが飛んで来たが、届かなかった。
虹球の爆発は大きかったが、届かなければ意味はない。
遠距離攻撃部隊を連れて来なかったのかも知れない。
その間にも、フーコツの猛烈三連火球は盾を破壊し魔族を次々と襲い、あちこちで魔軍を巻き込んだ火災を発生させていた。
ミトラの卍も、盾を、敵を切り裂きつつ陣深く突入し、爆発するという蛮行を繰り返していた。
卍がひとつ消えれば、ミトラもジュテリアンも容赦なく二の卍、三の卍を発射し、魔族を蹂躙し続けた。
バンガウアさんは自陣に戻ると、敵に向き直って黒盾を七つも展開、膨張させ、攻撃を弾いている。
「オイラ、壁として体力に自信があったけど、あんなに魔弾が飛び交う戦場じゃ、邪魔なだけだ……」
ディンディンがつぶやいていた。
肝心の五神将ツアツアエは、ミトラの卍に身体を真っ二つに裂かれ、地面に転がっていた。
前に出ていた分、真っ先に倒されたのだった。
そこをフーコツのバイオレントな火球が襲い、今はボウボウと燃えているところである。
「ツアツアエの弱点は炎。ってバンガウアさんに教えてもらってたけど、卍でとっととふたつに裂かれてたわね」
と、ジュテリアン。
「そのあと燃やしたけど、体がふたつになったトコですでに死んでるよね」
と、ディンディン。
ともあれ、
「おそらく多勢に無勢。長引けば不利となろう。一気にカマして畳み掛けるぞ」
というバンガウアさんの作戦通りになったのだった。
そしてもはや魔軍の攻撃はなく、窪地に動く魔族の姿もなかった。
燃え上がる大地と大地に伏す魔族しか見えない。
「も、もう大丈夫よね」
崖の上に座り込むジュテリアン。
卍を猛烈に撃ち続けたので、スタミナが切れかかっているのだろう。
眼下の戦場、窪地でもミトラとフーコツが地面に胡座を掻いている。
「『帰りは、パレルレにおんぶしてもらおう』と言ってるよ、ミトラが」
と、伝えると、
「あら。私だってマトモに歩ける自信はないのに」
などと言い苦笑するジュテリアン。
「奴らが固まっていて助かったな」
黒騎士バンガウアさんが、嬉しそうに言った。
「五神将ツアツアエだけでなく、部下も皆んな、火炎に弱くて助かった」
と、フーコツ。
「いや、アレは火炎と言うには猛烈すぎたと思う」
と、高く笑うバンガウアさん。
「爆発にも斬伐にも弱かったのう」
と、ニヤつくフーコツ。
「弱点だらけだったのね」
と、くすくす笑うミトラ。
魔族を一掃できたのだ。
ミトラたちは和やかな雰囲気になっていた。
そんなところへ、
「うぬらの攻撃は見せてもらった」
と言う重々しい声が窪地に響いた。
二つに分断され、燃え上がるツアツアエの骸から、濃い赤煙が立ち昇り、たちまち実体化した。
自分の遺体の隣に。
黒マントに赤褌。
長い杖。
憎々しい笑顔。
「ツアツアエ?! 一体どうした事だ」
背中の大剣を抜く黒騎士バンガウア。
「お前に負けてから、鍛練に鍛練を重ねたのさ、バンガウア」
あっ。黒騎士の正体がバレてる?!
「それほどの黒盾。バンガウアであろうが」
あっ、まだ推測中だ。
「ここは、誤魔化さないと」
と、気を揉むジュテリアン。
「いかにも。拙者はロピュコロス軍四天王がひとり、バンガウアである」
とのバンガウアさんの言葉を伝えると、
「ああっ。白状しちゃった!」
と、頭を抱えるジュテリアン。
フーコツが黙ってツアツアエに卍を飛ばした。
やはり詠唱がない分、速い。
「ぬ!」
と言って杖を振り、卍を払おうとするツアツアエ。
だが、卍は払えず、杖ごと身体をふたつに裂かれた。
「がは」
呻いて白目を剥き、地面に倒れるツアツアエ。
しかしまた赤煙が立ち昇り体を離れ、真っ二つの遺体の隣に実体化する五神将ツアツアエ。
「死ぬほどの鍛練の果て、不死身の身体を手に入れたのさ」
ツアツアエは再生した杖を振り、得意げに笑った。
「いや、体は別物じゃん。どうなってるの?」
呻くミトラ。
「不死身とはめでたい」
叫んで剣を振り立て迫る黒騎士。
杖から雷撃を放つツアツアエ。
しかし瞬時に張られた黒盾に弾かれ、雷撃はツアツアエに反射して襲い、これを粉砕した。
「剣を振るまでもなかったか」
つぶやいて立ち止まるバンガウアさん。
その目前で、四散した遺体から赤煙が巻き上がり、たちまちツアツアエの新しい五体を構築してゆく。
「ぬははははははははははははは!」
ツアツアエの忌忌しい笑い声が、窪地に高く低く轟いた。
次回「バンガウア団VSツアツアエ」(後)に続く
次回、第百七十七話「バンガウア団VSツアツアエ」後編は、明日の金曜日に投稿予定です。
十一月初旬まで夏、とかテレビの天気予報で聞いた覚えがあるが、そんな事はない。寒い。寒いよ。




