「黒騎士軍VSツアツアエ軍」(後)
バンガウアさんが、
「道しるべを立てて来る」と言って離れたので、三人娘はその間に、巨岩の下に自分たちのテントを張った。
それぞれが一人旅をしていた時の、ワンホール型の小さなテントだ。
ぼくが収納庫に預かっていたものである。
バンガウアさんは帰って来て、
「おう。拙者のテントを囲む布陣ではないか。その形で良いのか?」
と、言った。
「黒騎士様の命が一番大切だものね。守らせてもらうわよ」
ジュテリアンが、「今、思いついた言葉だけど」と言う顔で応じた。
バンガウアさんはそのジュテリアンの言葉に絶句し、ぼくたちに背中を見せると肩を震わせた。
「えっ? 感激して泣いてる?」
ミトラがささやいた。
「彼の攻め方が分かったわね」
ジュテリアンは目をへの字にして笑った。
「愚直な男子は、操りやすい」
とは、フーコツの言葉だ。
それからぼくたちは、作戦とも言えない策略を、少しだけ練った。
夜になったが、三人娘とバンガウアさんは風呂に入れなかった。
そんなものは荒れ地にないからだ。
だから、フーコツの魔法で水を出して浴びた。
決まった場所で水浴びをしたので、二日目には早くも大地に植物が生えてきた。
「こんな何もないように見える地面なのに、命の種はあるのねえ」
感心するジュテリアン。
ぼくは前世界で、枯れた田んぼの土を持って帰って、水槽に入れた事がある。
カエルを飼うので、水槽の中に地面の部分を作りたかったのだ。
そして水槽に水を入れたら、やがてカブトエビやタニシが活動を始めたので、驚いた。
そんな事を思い出した。
命と言えば、荒れ地には夜といわず昼といわず、魔獣が徘徊していた。
だから特に食べ物には困らなかったが、気の抜けない日が続いた。
三人娘とバンガウアさんに活力を注入する施術は、当然、止めた。
彼、彼女らが失神中に魔獣が現れたら、一大事だからだ。
「この、食べ物を求めて走り回る日々は、ダイエットになっている気がする」
というのが、三人の一致した意見だった。
「宿で泊まる生活では、寝て起きて、たらふく食べてたものねえ」
と、脇腹の贅肉を摘むジュテリアンだった。
そんな緊張感のないまま、三日目の正午になろうとしていた。
味方は結局、誰も来ないまま、スハイガーン軍五神将のひとり、ツアツアエ神将との決闘の時間がやって来たのである。
そして、サブブレインに言わせると、ツアツアエは、
『きっちり百人の部下』を連れているそうだ。
ジュテリアンとディンディンとぼくは、最初に決闘場を見下ろした崖の上にいた。
ディンディンとぼくは、邪魔と言うか、戦力外通知を受けたのだ。
ジュテリアンは卍があるので、ここから狙おうという作戦である。
窪地の中央では、黒騎士さんとツアツアエが向かい合っていた。
ツアツアエは、バンガウアさんと同じくニメートルくらいの、魔族にしては小柄な体格だった。
黒マントに赤い褌をしている。
右手には大きな杖を持っていた。
攻撃杖だ。魔法使いだからな。
ツアツアエの部下と、ミトラ、フーコツはそれぞれの後方で待機している。
しかし、ミトラ、フーコツの手に武器はなかった。
一方、ツアツアエ軍の中には、翼を持った魔獣が三体いた。
飛行竜だ。
見た目は、ぼくの前世界の恐竜化石で言えば、プテラノドンか?
翼は広げれば九メートルくらい、というプテラよりは、はるかに大きく思ったが。
すでに背中には魔族が二人、乗っていた。
竜使いと、攻撃用の魔族に違いない。
「ユームダイムでは遠すぎてよくわからなかったけど、飛竜の翼、広げたら大きそうね。二十ペートくらいにはなりそう」
と、ジュテリアン。
全長は、頭部のトサカ部分や首をふくめても、せいぜい四メートルくらいだろう。
「よくぞ策略部隊の卑劣な罠を解除した。さすがは噂に高い黒騎士殿」
「かような戯言を見抜けなくてなんとする」
というような会話は、ぼくが盗聴して横にいるジュテリアンとディンディンに伝えた。
「して、あの崖の上の妖魔とゴーレムと乙女は何者だ?」
「決闘の見届け人だよ。気にするな」
「変な行動をしたら抹殺すると思え」
「無論、承知しておるとも」
そしてジュテリアンは、その変な行動をして、ぼくとディンディンが全力で守る作戦だった。
崖の上だよ? 敵が丸見えなんだよ?
この有利な立地を利用せずになんとするか。
ひょっとしてツアツアエは、落とし穴の罠を仕掛けたのでもう満足しているのだろうか?
なんで二の矢、三の矢を用意していないんだ?
あ。飛竜が二の矢かも知れない。
丸見えだけど。
「ではそろそろ、決闘の開始とゆこう」
と、黒騎士。
「うむ。先にも言ったように、お互いが陣地に戻った時を開始時刻とする」
と、ツアツアエ。
「名にし負う黒騎士殿に、これ以上の姑息な真似はせん。後は正々堂々、力の限り戦おうぞ」
正々堂々という数の差ではなかったが、集められなかった黒騎士が悪い、という事か?
そして落とし穴は部下の発案で、ツアツアエは乗り気ではなかったのかも知れない。
お互いに踵を返し、陣地に戻ってゆく黒騎士とツアツアエ。
黒騎士は途中で走り出し、ミトラはそれを見て盾を五つ発現させ卍に変化させ、すべてを射出した。
フーコツは猛烈三連火球を連射した。
崖の上からは、
「敵が丸見えて助かるわ」
とつぶやきながら、ジュテリアンが卍手裏剣を五発、撃った。
これが、作戦とも言えない作戦、
「多勢に無勢だから、約束なんか守らないよ。だって先手必勝って言うじゃん作戦」である。
次回「バンガウア団VSツアツアエ」に続く
次回、第百七十七話「バンガウア団VSツアツアエ」は、今週の木曜日に投稿予定です。
というわけで、朝夕寒くなりました。
トックリのセーターを出して着たら、暑かったのだった。




