「行商人プピペテラとの再会」(後)
ぼくは背後から迫ってくる怪人については、後頭部の電子眼で視認していた。
が、三人を驚ろかそうと、黙っていたのだ。
そこには、灰色の麻の服を着た大男が立っていた。
スキンヘッドだった。
少し猫背だった。
太い眉。
どんぐり眼。
大きな口。
エラの張った顎など、造形がゴツい感じだ。
大きな荷物を背負い、腰の太いベルトには短剣が差してある。
行商人、プピペテラさんだ。
またの名を、バンガウア。
死んだ事になっているロピュコロス軍四天王の一人である。
さらにまたの名を、なぞの勇者、黒騎士。
「あら、バンガ……むにやむにゃ、プピペテラさん、お久しぶり」
笑顔になるジュテリアン。
「何処におったのじゃ?」
と、驚くフーコツ。
先ほどまで、街道に人影はなかったからだ。
「あちらの森で、木の実を取っていた」
道の反対側の森を指差すバンガウアさん。
そう言えば、上着の袋袖が膨らんでいる。
「ディンディンちゃんは? アカネさんは?」
と、やはり笑顔でミトラが言った。
ディンディンとは、四角い妖魔トオセンボの事だ。
バンガウアさんの相棒である。
姿を消して、彼の後ろにいた。
姿を消せても、生体の放射熱は隠せていない。
ぼくは、
「ディンディンは、バンガウアさんの後ろに」
と、知らせた。
「あっ。いつものように姿を消しているのね」
バンガウアの後ろに走り込み、見えぬディンディンに打つかって倒れるミトラ。
「痛っ!」
と叫ぶ声と、ドスン! という音がふたつずつあった。
ミトラとディンディンだ。
二人とも倒れたのだった。
「あたたたた。ディンディンちゃん、居た!」
腰をさすりながら立ち上がるミトラ。
倒れたまま、姿を可視化するディンディン。
「大丈夫か? ディンディン」
ディンディンの小さな手を取り、引き起こすバンガウアさん。
「大丈夫だけど、角がちょっぴり凹んだよう」
頭の角を撫でるディンディン。
「そのくらい、すぐに治る」
バンガウアさんは、なんでもないように言った。
「アヤメ殿の方は、ムンヌルとの連絡を取るために、スハイガーン軍に潜入中だ」
アヤメさんは、女忍者。くノ一である。
元転生転移担当官ランランカさんの機動忍者部隊に居たが、その後、抜け忍となり、今は黒騎士さんに寄り添い、尽くしている。
「ああ。バンガウアさん、死んだ事になったから、もうムンヌルさんと連絡が取れなくなったものね」
と、ジュテリアン。
「代わりに、アヤメ殿に連絡係をしてもらっている。彼女はどんな影にも潜むからな」
と、バンガウアさん。
「そんで、『早かった』って、なに? あたしたちが来る事を知ってたの?」
「クカタバーウ砦に、ここに集合するように伝達蜥蜴を飛ばしたのでな。連絡を受けて来てくれたのではないのか?」
「あら、いつの事かしら? 私たち、クカタバーウからの連絡事項は知らないわ」
「うっ。そ、そうだったか。通り掛かったのは偶然だったか。どうりで早いと思った」
「なんかあったの?」
「うむ。スハイガーン軍五神将の一人、双鞭使いのドラグザンは、拙者が倒した事になっているだろう?」
「あーー、そうかも……?」
「なぜ疑問形なのだ。お主ら蛮行の仕業だろうが」
「そんな事があったかも知れないけど、それがどうしたのよ」
ミトラは居直った。
「スハイガーン軍五神将の一人、魔法使いのツアツアエが拙者に決闘を申し込んで来たのだ」
「えっ? どうやって?」
「『黒騎士に告ぐ』という告知が街や村の外部掲示板にあったろうが!」
「御免なさい。見ていません」
「人間はタチの悪い冗談だと思ったらしいが、ロピュコロス文字を模様のように使って、場所と時刻が書いてあったのだ」
「あっ、敵討ちとか?」
「へえ、敵討ち?」
「魔族にもそんな気概を持った者がおったのか?」
「分かってくれればそれで良い。そこで拙者は仲間に助けてもらおうと、クカタバーウに頼んだのだ」
「他に誰がくるの?」と、ジュテリアン。
「『引き潮の海』とか、メリオーレス殿とかだ」
「ふうむ。ユームダイムつながりの者たちじゃのう」
「それで、私たちも入っているのね」
「『機動忍者部隊』も呼べば良かったのに」
「そ、その名は知らんぞ」
「決闘に仲間を呼んで大丈夫なのね?」
と、ジュテリアン。
「大丈夫だ。ツアツアエも自分の精鋭部隊を連れて行く、と書いてあった」
「えっ? じゃあ、バンガウアさん、人数的には全然足りないんじゃないの?」
と、ミトラ。
「おそらく足りない」
うなずくバンガウアさん。
ぼくは「おそらく」ではないと思った。
「そうとう足りない?」
念を押すジュテリアン。
「それはまあ良い。まずは敵情視察だ。一緒に来てくれ」
バンガウアさんは、ジュテリアンの手を取り、荒れ地に足を踏み入れてゆく。
頬を染め、黙ってついて行くジュテリアン。
後を追うディンディン。
ディンディンと手をつないでいるミトラ。
ぼくとフーコツは手をつながなかったが、皆んなに従った。
「これは決闘の場が、荒れ地にあると言う事じゃな?」
と、フーコツ。
「そ、そういう事ですね。さすがミトラ、鋭く魔界に踏み込もうとしていたんだ」
と、ぼくは感嘆した。
次回「黒騎士軍VSツアツアエ軍」(前)に続く
次回、第百七十六話「黒騎士軍VSツアツアエ軍」前編は、明日の日曜日に投稿予定です。




