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「妖魔グウグウ」(前)

「お嬢さんたちは、こうやって旅先で悪党狩りをなさっておいでなんですかい?」

御者(ぎょしゃ)のおじさんが、一角馬(コーンマー)(あやつ)りながら、振り返らずに言った。


「悪党や魔獣を退治する事もあるけど、今回はたまたまよ」

  と、ミトラ。

確かに、たまたま(さら)われたように思う。


「ひょっとして、クカタバーウとやらで、黒騎士様に協力して砦を奪還しなすったトンパチ突入団と言うのは、お嬢さんたちかい?」

「そそそそんな事もあったかしらね」

  とジュテリアン。


「ああ、やっぱり。トンパチ突入団は美人ぞろいで、ゴーレムが一緒だったと風の噂に聞いていたからね、そうじゃないかと思ってたんだ」

  笑うおじさん。

「宿屋の女将(おかみ)さんに、『確かめておいて』と頼まれてたもんですからね。いや、皆んなそんな噂をしておりましたよ」


「あっ、バレてたのね。遠慮して黙ってただけかあ」

  と、自分の顔を撫でるミトラ。


火吹(フー)大大大蜥蜴(ヌイヌイヌイサウラー)を一撃で倒したという大剣使いさんは、一緒じゃないのかね?」

「ああ。彼はチームが違うのじゃ」


クカタバーウ砦の魔族退治の時点では、ゴルポンドさんはまだチームを作っていなかったし、サウラーを一撃で倒した訳でもなかったが、説明が面倒だと思ったのだろう。

  フーコツは一言(ひとこと)で片付けた。


「黒騎士様が、サウラーを三匹とも倒したという話もあるが、正しくはオーガの大剣使いさんが一匹、倒したんだね?」

「そうだよ、おじさん」

  と、ゴルポンドさんを手伝ったミトラが言った。


御者のおじさんは、土産(みやげ)話を頼まれているのか、次から次へと話を振ってきた。

  ぼくたちもできる限り対応した。


(いわ)く、

「ジュテリアンのキックは、伝説級だよ(ミトラ談)」

「そっ、それは黒騎士様にキックを教わったからよ(ジュテリアン談)」


曰く、

「あたしの仕掛け棍棒も、実は伝説級なの(ミトラ談)」

「こっ、この()も黒騎士様に武術を教わったのよ(ジュテリアン談)」

  のような感じであった。


お昼頃、街道を少し(はず)れて草原に入り、ご飯を食べる事になった。

ロゼアルナの宿で作ってもらった(ヌイ)盛り弁当(バスケット)を、御者のおじさんにも渡した。

  お弁当が、ぼくの分まであったからである。

自分用の弁当は、「また、おやつで食べる」と、おじさんは言った。


  うららかな日差しを浴びて、

「ぽかぽかと良い陽気で、気分も晴れますなあ」

  と、おじさんは上機嫌で言った。

ちなみに、ぼく用の焼き肉盛り盛り弁当は、美味(おいし)そうだった。

  ぼくも、純水や潤滑油を飲んだ。


「肉も魔法で温め直して、いや、便利ですなあ」

  と言い、小さなフライパンから肉を(つま)むおじさん。

いつもの事だが、フーコツの火炎魔法(フーワーミー)の力を借りたのだ。


食事を終え、再出発して、昼下がりには約束のヤクーグの街に到着した。

「すまんね、宿はもう決まっているんだ」

と、客引きの人たちを(さば)いて(ほろ)馬車を進めるおじさん。


街を少し入った、二階建て石造りの小さな宿屋の前で馬車を止めると、ぼくたちを宿に招き入れるおじさん。

  玄関扉をくぐるなり、

「姉さん、お客様だよ」

  と、声を張った。

(そういう事か)

  と言う顔で、笑う三人娘。


厨房(ちゅうぼう)から出て来た、シックな(ボル)系のワンピースを着たおばさんに、

「ロゼアルナの街で、人身売買組織をブッ潰した勇者団の皆さんだよ。粗相(そそう)のないようにお願いしますよ、姉さん」

  と、言うおじさん。


「えっ? そんな大それた組織が、あの街にあったの?」

  と驚くお姉さんは、宿の女将(おかみ)か?

女将(仮)の後を追って来たコック帽の髭男が、

「勇者団なら、例の件を相談してみては?」

  と女将(仮!)に耳打ちをした。


「あら、どうしましょう」

  というお姉さんの様子に構わず、

「それじゃ、ぼくはこれで帰るよ。後はよろしくね」

  と手を振って、さっさと出てゆく御者のおじさん。


しかし、今からロゼアルナに帰るのだろうか? 

  夜が明けてしまうぞ。朝帰りだ。

家族が恋しいのかも知れない。

  一刻も早く奥さんに会いたいのかも知れない。

早く帰らないと奥さんがうるさいのかも知れない。

  まあ、余計なお世話であったが。


「あの、申し訳ありませんが、折り入ってお話が。勇者団様、ここではなんですので、こちらへ」

  と、出て来た厨房(おそらく)に戻ってゆく女将(おねえ)さん。

何卒(なにとぞ)お願い申し上げます」

  と、頭を何度も下げるコック帽の髭おじさん。


「厚かましくて申し訳ありません」

と言いながら、厨房の奥の隅っこに足を運ぶ女将(おかみ)さん。


忙しい音がする調理場から離れ、群れているのは怪しいが、ヒソヒソ話をするには、向いているような場所だった。



             次回「妖魔グウグウ」(後)に続く



次回、第百七十二話「妖魔グウグウ」後編は、来週の木曜日に投稿予定です。


今日はジャガイモタケをスマホで撮っていたら、お婆さんに「それはなんですか?」と聞かれた。

「ジャガイモタケというキノコです」と、スマホの検索画面も見せて説明した。


傘も開いた感じではなく、柄もなく、キノコに見えなかったらしい。

キノコって、本当に色々な形があるもんなあ。

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