「ロゼアルナの街を発つ」(前)
「ベルベリイ様は、ずっと一匹ポンポコ(一匹狼。みたいなものだと思われる)で生きて来られて、あまり人を信じておられないのです」
と言ってうつむく青年、オークスさん。
そもそも、ベルベリイさんの氏素性が、悪に邁進したい魔王ロピュコロスから排除された善の心なのだから、孤独ではあったろう。
「おう。お主らも大変じゃのう」
と、フーコツ。
「今のところ、俺らは使い勝手の良いふたつの駒に過ぎませんが」
とベホラフさん。
「いつか、ベルベリイ様の心を抉じ開けるような活躍が出来ればと、鍛練に励んでおるところです」
「今回は、全くお役に立てませんでしたが」
さらにうつむきを深くするオークスさん。
手出し無用、と宿にわざわざ言いに来たのは、自分たちの活躍をベルベリイさんに見て欲しかったからだろう。
そして先ほど、仲間に加わって欲しい、などと言ったのは、ベルベリイさんを手伝っていて自分らの力不足をヒシヒシと感じ、弱気になっているのかも知れない。
人間らしい、矛盾する心の、葛藤の現れだ。
ぼくも戦いになると、ミトラたちを守りたい心と、逃げ出したい思いがいつも交差している。
「ところで、ベルベリイ様とミトラさんは兎も角、ガチで拐われた女の子がいたそうですが、大丈夫なんですか?」
心配顔で骨付き肉を食い千切るオークスさん。
「ああ。人拐いの馬車から、ずっとあたしらが一緒だったから、寂しくはなかったと思うけど」
と、同じくガチで拐われた自分の事は隠すミトラ。
「その女の子、ギフィアちゃんはこの宿の娘さんで、お母さんにコテコテに叱られて、今は泣き疲れて眠っているそうよ」
「そうですか、それは良かった。我々は心療的なサポートは苦手なので」
オークスさんはそう言って頭を掻いた。
「して、ベルベリイ殿は、次は何処を狙っておるのじゃ?」
「い、いやそれは」
フーコツに突っ込まれ、のけ反るオークスさん。
「トボけている訳ではなく、我らは何も知らされておりません」
「本当です」
と、ベホラフさん。
「しかし、宿に戻って待っておれば、次に行くべき街くらいは、教えに来てくるかも知れませんが」
「お主ら、ベルベリイ殿と、一体どうやって連絡を取り合っておるのじゃ」
「そのう、ベルベリイ様は神出鬼没でして」
と、オークスさん。
「本当です」
と、ベホラフさん。
「今回は、我らは無念にも『市内パトロール』とのみ命じられ、仕方なく昼日中から街をウロウロしてゴロツキのたぐいを締め上げておりましたのです」
「ゴロツキに八つ当たりをしておりましたら、ベルベリイ様がフラリと現れ、『たぶんだが、プラウン邸に侵入出来そうだから、そのままパトロールを続けよ』と申されまして……」
「いやはや、どこをパトロールしているかなど、連絡しておりませんのに」
などと、オークス&ベホラフさんが言った。
「そうしたら、夜半になり、また背後に突如出現されまして、今度は『プラウン退治は済んだ。蛮行の雨に助けられたから、礼を言いに行ってくれ』と」
と、これはオークスさん。
「ど、どうしてあなたたちの場所が、分かるの?」
と、驚いた様子のミトラ。
「さ、さあ。分かりません。しかし、いつもの事ですので」
と、ベホラフさん。
「何日も姿をお見せにならない事もあります」
「ギルドで討伐依頼を見繕って、生活費を稼いでいます」
ため息混じりにオークスさん。
「ペット探しから庭掃除まで」
(それ、討伐じゃない)
と、言う目で、オークスさんたちを見る蛮行の三人娘。
さすがに口には出さないが。
「押し掛け子分だものねえ、あなたたち。多少の不便は仕方ないよね」
と、ミトラ。
「はい、おっしゃる通りです。ユームアマングの人身売買組織の壊滅を謎の私刑人にお願いして、ツナギが出来たのです。手離す訳にはいきません」
オークスさんは、なんだか嬉しそうにそう言った。
「お嬢さん方の部屋に、あまり長居をしても失礼だ。そろそろ御暇しよう」
ベホラフさんは、テーブルの上の食べ物をほぼ平らげた後、そう言った。
「それもそうだな」
と、オークスさん。
「蛮行の皆さん、我らに代わってベルベリイ様を手伝って下さり、誠に有り難う御座いました」
深々と頭を下げる二人に、
「ベルベリイさんにお土産を持って帰ったら?」
と、ワゴンの下段を指すジュテリアン。
左様、まだ料理はあったのである。
「おお。しかし、そこまでして頂いては……」
「何を言うか、オークス。ベルベリイ様は大食漢モニョモニョ……お食事好き。願ってもない手土産!」
ぼくたちと握手を交わし、ぼくが保管していた大型弁当箱に、これでもかと具を詰めて、ニコニコ顔で二人は帰って行った。
二人が帰った後、
「あの二人、嘘吐いてない?」
と言い出したのはミトラだ。
「何処にいるのか分からない二人を、ベルベリイさんがどうやって見つけるって言うのよ。まだまだ沢山の隠し事をしてるんじゃないかなあ」
「いや、伝達蜥蜴が行方不明になっても、伝達局は手紙やサウラーを見つけ出すと言うではないか」
と、擁護に回るフーコツ。
「ああ。手紙や蜥蜴から、特別な信号が出てるから、突き止められるという噂だったわね」
と、ジュテリアン。
「たぶん、あの二人からも、同じような特別な信号が出ておるのだと思う」
と、フーコツ。
「そして、その事をたぶん、二人は知らされておらんのじゃろう」
「あーー。特別な信号を出すアクセサリーとかをプレゼントされたのかも知れないわね」
と、ジュテリアン。
「ならば嬉しくて、肌身離さず持っておるじゃろうて」
そう言って、顎を撫でるフーコツ。
「男子の崇拝心を弄んだ見事な作戦じゃ」
次回「ロゼアルナの街を発つ」(後)に続く
次回、第百七十一話「ロゼアルナの街を発つ」後編は、明日の土曜日に投稿予定です。




