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「書斎から離れるミトラ」(後)

  廊下を進みながら、ぼくらは雑談もした。

「さっきの武装男なんか、副市長が狙われている事を知って(やと)ったのよね?」


「人身売買組織は、青き魔狼に潰されつつあるみたいだから、そうだと思う」

  会話の合間に壁を壊すぼく。


「悪の所業(しょぎょう)、バレバレにならないのかなあ。怪しいじゃん、あんな胡乱(うろん)な用心棒」

「まあ、権力者で資産家だろうから『用心のために』とかの言い訳でイケてるのかもね」


そんな話をしながら進んでいると、廊下の先の別れ道から、光る球体が飛んできた。

  エナジー弾だ。


  咄嗟(とっさ)に盾を発現させるミトラ。

球体は(ビオレータ)の盾に当たり、まばゆい輝きを撒き散らして消えた。

「ミトラ!」

「大丈夫。ただのエナジー弾。ベルベリイに喰らった奴に比べたら、ちゃんちゃら軽い」


あるいは、コチラの視覚を奪うための閃光弾だったかも知れないが、ぼくには視覚制御のためのフィルターがあった。

ミトラのヘルメットにも、似たような効力の呪いが掛かっていたはずだ。


引き続き、角を曲がって二弾、三弾の光球が飛んできたが、問題なく(はじ)き返した。

  どさくさに(まぎ)れて、大きな(アロー)も飛んできた。


  矢はミトラの盾に刺さって(とど)まり、爆発した。

盾に沿()い内側に入ってきた爆風によろめくミトラ。

魔法矢尻(ワーミーアロー)だ。攻撃がちょっと本格的になってきたね」

  そう言って穴の空いた盾を修復した。


ミトラは前方にさらに一枚の盾を突き出し、頭上にも盾を展開させた。

  残り二枚は緊急時用か、発現させなかった。


ぼくはミトラの前に、少しずつ発現位置をずらしながら、十層の盾を出現させた。

  盾で廊下を埋めたが、丸いのでやはり四隅に隙間がある。

ワーミーアローはぼくの前方の盾に刺さって爆発してゆく。


ぼくの盾は次々と破壊されたが、なんの、ぼくも負けずに続々と盾を追加していった。

光球も飛んで来るが、もはやただの目眩(めくらま)しだった。


やがて、床すれすれを飛び、丸い盾の隙間を突き、不意に上昇してミトラやぼくに当たる矢が現れてきた。


(いて)っ!」

  と小さく(うめ)くミトラ。

「うう。壁が邪魔で盾が広げられない」

   ボヤくミトラ。


「パレルレ。盾は負けない事が分かった。突進しよう。鬱陶(うっとう)しい」

『了解!』と、サブブレイン。


ミトラが盾を出したまま走り出した。

  ぼくも十層の盾をそのままに後に続いた。

隙間を突いた矢が、ぼくらの後方に飛んでゆく。

  追尾機能はないようだった。


  四ツ角まで来て、ミトラは左に、ぼくは右に曲がった。

ミトラの盾は二枚だけだったので壁を壊さなかった。

が、ぼくの十枚の盾はミトラの前に張っていた事もあり曲がる時に壁に当たって、壁の角を破壊しつつ消滅した。

  いいんだ。残りの盾が自動強化されるから。


左には杖を持ったローブな奴がいた。

  光弾を撃っていた魔法使いだ。

ミトラの突進に、

「わっ」と叫んで赤い盾を出現させたが、ミトラの盾ごとの体当たりで砕いた。


  ミトラはそのまま、盾で光弾使いを吹き飛ばした。


「ぎゃうっ!」

一角犬(コーンバウ)のような悲鳴をあげて倒れ、そのまま廊下を転がってゆく光弾使い。


右に曲がったぼくは弓矢使いの連射が見えたので、残った盾をぐるぐる回した。

  盾に当たり、次々と爆発してゆく(アロー)

爆発の炎と圧力波は、ぼくの残りの盾に跳ね返され、弓矢使いを襲った。


「◯#*⬜︎☆^^!」

弓矢使いは意味不明の叫びを上げながら、廊下を座布団(ざぶとん)のようにふっとんでゆく。


「臭い、臭い」

  連続爆破で廊下の空気が()げ、ミトラがボヤいた。

「ミトラ、光弾使いは?」

「倒れたまま動かないから放って行こう。パレルレの弓矢使いは?」

「うーーん、どうだろう?」


  床に倒れたまま動かない弓矢使い。

衣服は焦げ、煙が出ていたが、炎は見えなかった。

「こっちも動かないから、まあいいか」

  と、ミトラ。

「どっちに行く?」

  と、ぼく。


「書斎から離れる意味でも、あっち!」

  ミトラは弓矢使いが倒れている廊下を指した。

(実は死んだふりで、突如、襲って来るかも)

とか思いながら、ぼくは用心して弓矢使いの横を通ったが、そんな事はなかった。


  弓矢使いは、か細い(うめ)き声を上げ、ミトラは、

「ごめんね。回復(ヒール)は出来ないし、回復薬は勿体無くて使えないけど、運が良ければ仲間が助けてくれるから」

  と言って、そのまま先に進んだ。

盾はずっと小さくした。

大きいままだと、案外、壁に当たって歩きにくかったからだ。


「あたしたち、こういうの苦手よねえ」

介抱(かいほう)かい? まあ、破壊専門だからなあ。仕方ないよ」


廊下を右に左に進み、気まぐれに廊下の扉を壊したりして、部屋の中に杖を持った緑浴衣(クローロンローブ)の男を発見した。


「わあ、お助け!」

  ソファの後ろに隠れていたローブ男が叫んだ。

「おっちゃん、ひょっとして僧侶?」

「はい、非戦闘員です。曲者(くせもの)様」


「あっちに怪我した弓矢使いと光弾使いが倒れてるから、治療してあげて」

  と、ミトラが教えた。


「あっち」という指示は大雑把(おおざっぱ)に思えたが、その僧侶は、

「おお、ガフンガとスラニョス。威張り散らした嫌な奴らだが、治療はぼくの仕事だ」

  と言って立ち上がった。

「行ってくるよ」

  そして走り去った。


その後は戦う敵もなく、やがて、吹き抜けのホールに出た。

「あら。ここ、玄関ホールじゃない?」

  高い天井を見上げるミトラ。

「玄関を出ちゃったら、マズいわよねえ」


「どこへ行ったものか」

と、玄関ホールにたたずんで思案していると、メイド、コック、そして執事(しつじ)(おぼ)しき十数名の一団が、(ホウキ)手桶(ておけ)(なべ)などを手に持ってやってきた。


「曲者っ!」

「不法侵入!」

「庭師を、警備隊を呼びに走らせたからねっ!」

  などと叫んで、襲って来た。



            次回「プラウン副市長」(前)に続く



次回、第百六十九話「プラウン副市長」前編は、明日の土曜日に投稿予定です。

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