「客引きの少女」(後)
「証拠を固めるんだったら、後は警備隊に任せれば良いじゃん。なんでわざわざ手を汚すのよ」
「敵は権力者で資産家です。権力仲間の忖度が働いて、島流し程度の罪になってしまう可能性が高い、との情報を、警備隊から得ているのです」
「あーー、なるほど! そんな奴、裏から手を回して、自分を『御赦免にするに決まってんじゃん」
ミトラが声を高くした。
「うん! 生かしておくのは良くない!」
「警備隊からの情報は、ベルベリイさんの魅力によるものかしら?」
と、ジュテリアン。
「なにはともあれ、成功を祈りますわ」
「何か手伝うことがあれば、声を掛けて下され。ユームアマングの償いをしよう」
そのフーコツの言葉に、
(あ。悪い事した、とか思ってるんだ)
という顔になるミトラ。
(反省? フーコツが反省してる?)
という表情のジュテリアン。
そんなに不思議か?!
(『失礼な』)と、サブブレイン。
「ありがとう御座います。では、ベルベリイ様やベポラムを見ても、知らんぷりでお願いします。ではこれで、失礼致します」
一礼して、オークスさんは部屋を出て行った。
「うーーん。無視したいのは山々なんだけど、ベホラムってどんな人だっけ?」
首を捻るミトラ。
「確か、大柄な大剣使いだったと思う。目立つし、分かりやすいので、無視もしやすいんじゃないかしら」
と、ジュテリアン。
「えーーっと、見つけて一斉に、つーーん! ってすると怪しいから、ちょっとずつ視線を逸らせよう」
と、作戦を立てるミトラ。
「うんうん」とうなずくジュテリアンとフーコツだった。
「あのこまっしゃくれた小娘のベルベリイとは一度、戦っておる。見ればわかる。問題ない」
と、フーコツ。
「ずっと人身売買組織を追って来たようじゃから、ここは聖女ベルベリイ一味の好きにさせよう。我らは門外漢じゃ」
「うん。あたしもあんまし面倒事は好きじゃない」
シラっと言うミトラ。
「どの口が言うか!」
すかさずミトラの頬をつねり上げるフーコツ。
「あだだだだだ!」
足をジタバタさせて悲鳴を上げるミトラ。
自業自得を絵に描いたような一場面だった。
宿の売店で、お茶と揚げ菓子を買い、部屋でダラダラ雑談していた蛮行の三人娘だったが、夕暮れ時、宿の異変に気がついた。
なんだか騒がしかったのだ。
廊下に出てウエイターを捕まえ、
「どうしたの?」
と、問うミトラ。
「い、いえ、お客様様、なななななんでもありません」
その明らかなキョドりを見て、
「私たちは勇者団です。何かのお役に立てるかも知れません」
と、ミトラに続いて外に出たジュテリアンが後押しした。
ぼくもフーコツも扉から顔を出している。
ジュテリアンの言葉に光明を見い出したのか、
「実はお嬢様がまだお戻りではないので、そのう、皆、心配しております」
と、白状した。
「お嬢様って、客引きしてた女の子よね?」
と、ミトラ。
「は、はい、今までお帰りがこんなに遅くなった事はありませんので……」
と、ウエイターさん。
まだ日暮れ前だったが、ギフィアちゃんは小さな女の子だ。
「神隠し!」
と宣言するミトラ。
「ひえっ、やややややっぱり?!」
頭を抱えて叫ぶ中年ウエイター。
「承知しました。我々も内密に調査しましょう。女将には内緒で。止められても困るので」
と、第二弾を宣言するミトラ。
「まだ警備隊に連絡していないのなら、連絡を入れて下さい!」
人身売買の話を聞いていたからだろう、ミトラは第三弾宣言もした。
「ギフィアちゃんは、ひょっこり帰って来るかも知れない。空騒ぎに終わるかも知れないけど、このまま放ってはおけませんわ」
ジュテリアンが追随した。
「じゃあ、外に出て探しましょう。行くわよ、皆んな!」
第四弾とも言うべきミトラの言葉で、ぼくたち「蛮行の雨」は宿を出た。
「最悪、人身売買組織が疑われるが、どうするのじゃ」
と、フーコツ。
「闇雲に探しても仕方あるまい」
「闇雲に寂しい所を探すのよ。何処かに閉じ込められて、泣いている声を聞くかも知れない」
と、雲を掴むような話をするミトラ。
「そしてベルベリイ一味を見つけたら、『ギフィアちゃん行方不明!』の話をすんのよ」
オークスさんには、
「邪魔しない。手出ししない」と約束したばかりだが、宿泊先の娘さんが絶体絶命! かも知れないのだ。
この関わりは仕方がないと思った。
ミトラ&ぼく、ジュテリアン&フーコツの二手に別れて、「蛮行の雨」は小闇に散った。
「おう、暗い暗い」
路地を進むミトラ。
「前照灯、点けるかい?」
と、ぼく。
「駄目よ。パレルレの明かり、強すぎるもの」
と、ミトラ。
「悪漢どもが驚いて隠れちゃうじゃないの」
まるで捕まるための徘徊のようだった。
しかし、人さらいはこんな甲冑小娘に興味を示すだろうか?
痛い系ののコスプレは、この時代にもあるのだろうか?
ミトラもそれなりに可愛いから、後は人さらいの趣向次第かも知れないが。
(『御意!』)と、サブブレイン。
ギフィアちゃんの行方不明が、人さらいの仕業としての話だったが。
(『御意、御意!』)と、またサブは同意した。
次回「スカーフ男、カプアーノ」(前)に続く
次回、第百六十七話「スカーフ男、カプアーノ」前編は、明日の土曜日に投稿予定です。




