「パルウーガの遺跡の噂」(後)
「お主らの行き先はパルウーガの遺跡であったな?」
と言ったのは、魔法老婆オオールさんだ。
「吾らも、特に当てのない旅なので、村の訓練を終えたら追う事になろう」
「オイラたちも同じくですぜ」
と言うダブルモヒカンのカメラートさん。
「なあに、オレらも弾除けくらいにはなる。使ってくださいよ」
と、シングルモヒカンのザミールさんが笑った。
何の自信だ。弾除けって、死ぬだろ。
「蛮行の皆さんが行く『パルウーガの遺跡』って、古代超国家が非道の限りを尽くして建てたという大宮殿跡じゃないですか」
「え? ザミールさん、非道って? 『贅の限りじゃなくて?」
と、ぼく。
「当時、当たり前であった奴隷制度の下、人々の生命を湯水のように注ぎ込んで造られたそうですぜ」
と、カメラートさん。
「ま、まあ、遺跡を見に行く訳じゃないから」
言い訳のように喋るぼく。
「目的は伝説の武具だから」
くそう。パルウーガで古を偲ぶのもいいな、とかノンキな事を考えていたのだが……。
さすがは超古代国家、酷い事をする。
「時にパレルレさん。オオールさんがあなたの立ち小便を見たと言うのだが」
と、エルビーロさん。
「立ち小便?」
と、頓狂な声を出す蛮行の三人娘。
「ゴーレムは物を食わぬから、排泄もないと、オオールさんに言ったのですが」
と苦笑するエルビーロさん。
「たぶんそれは、廃油を捨てていたんだと思います」
白状するぼく。
「ぼく、油は飲むんです。身体に良いので、潤滑油とか」
「ほれみよ」
低い鼻を得意そうに掲げるオオールお婆さん。
「立ち小便ではないか」
「その通りです」
頭を下げるぼく。
そんな雑談をダラダラと垂れ流していたが、キリがないと見たのか、エルビーロさんが、
「儂らもそろそろ風呂に行くか」
と言いだし、お客は全員出て行った。
「もう客もあるまい」
と、三人娘はぼくの施術を受けた。
三人とも、「あっふん、あっふん!」と元気に悶えた。
体力が回復してきたのだ。なによりである。
ミトラたちは眠りにつき、眠らないぼくは若干の緊張感を覚えつつ、無防備な彼女らを見守った。
曲者が侵入してくる。なんて事があったら、身体を張って守る、それこそ命懸けで。
曲者に対するシュミレーションをしつつ、今夜もそれは無駄に終わった。これもまた、なによりである。
夜はしんしんと更け、そろそろと朝が来た。
ぼくたちは早朝に宿屋を出た。
薄明の内の旅立ちであったので、お隣さんたちには挨拶しなかった。
「どうせまた会うじゃろう(フーコツ談)」だし。
逆に、
「お世話になりました」と挨拶をした宿の皆さんには、二度と会う事はないだろう。と思う。
ようやく朝日の差してきた街道を歩きながら、
「次はなんて街?」
と誰にともなく聞くミトラ。
「なぜいつもミトラは地図を見ないの! あなたにも渡してあるでしょ」
怒りつつも懐から地図を取り出して広げるジュテリアン。
「えーーっと、ロゼアルナの街。少し大きな街ね。ほら」
と、ミトラに自分の地図を見せた。
「はーーん。なんかあると良いわね。ほら、人が多いと粗雑な奴らも多くて、そーーすっと、色々あるじゃん?!」
「ワシは揉め事は好かん。どうせパルウーガの遺跡でなんかあろう? それまではノンキに旅をしたい」
「そうね、パルウーガまでは。そしてパルウーガでも穏便に過ごしたいわね」
ぼくも平穏な道中を祈りつつ歩いた。
薄明の旅立ちに合わせて作ってもらった近所迷惑な御弁当を、そこらの池で釣ったザリガニをデザートに、野原で食べた。
ザリガニ釣りに苦戦した割りには、夕暮れ前にロゼアルナに着きそうだった。
そして街の手前で、何人もの宿の客引きに出会った。
偉そうな事を言うが、ぼくたちの武勇が知られておれば、もっと壮絶な客引きになったはずだ。
宿の宣伝になるからである。
いつもなら、
「自分たちで探しますので、」
と断るジュテリアンが、
「じゃあ、あなたのお宿に」
と、小さな女の子に手を伸ばした。
その子は呼び込みの中ではただ一人の子供で、小さな幟を持ち、少し震えていた。
「えっ? いいんですか、ウチなんかで」
と、笑顔になりつつ問い返す少女。
「いいのよ、気にしなくて。じゃあ、案内して頂戴」
同情の瞳をキラキラと輝かせながらジュテリアンが言った。
「こちらですう」
歩き出す少女。
木の靴がボロい。
服も少し、そのう、貧相かも。
何か言いたそうな他の客引きから離れて、ぼくたちは少女について行った。
検問所をなんなく通過し、ぼくたちは無事、日暮れ前にロゼアルナの街に入った。
次回「客引きの少女」(前)に続く
次回、第百六十六話「客引きの少女」前編は、来週の木曜日に投稿予定です。ほなまた。




