「パルウーガの遺跡の噂」(前)
黒騎士と一緒に入って来た黒装束の人物が、
「蛮行の皆さん、昨日ぶり」と、言った。
くノ一忍者、アヤメさんだ。
黒頭巾を脱いで、かわいい顔を見せた。
幻魔のディンディンも、透明な状態で入って来た。
熱感知眼には丸見えの生体熱を放射していたので、ぼくには見えていたが。
そして部屋の中で自分を可視化した。
「ディンディンもいらっしゃい!」
ミトラはそう言って、縦横一メートル、厚さ三十センチくらいの灰色の幻魔に抱きついた。
頭頂部をミトラになでなでされ、幻魔は一つ目を細めてゴロゴロと鳴いた。
「この度は大失態の遅刻」
と、フルアーマーの黒騎士は、ヘルメットを脱いだ。
太眉。ぐりぐり目玉。エラの張った顎。大きく厚い唇。野太い声。
全体にゴツい印象の人だ。
「討伐の様子はゴルポンド殿から聞いたぞ。拙者に代わって魔族を倒して頂き、恐縮至極。お礼の言葉もござらん」
そう言って下げるバンガウアさんの頭は、少し髪が伸びつつあった。
「何かお困りの折には、是非とも拙者のチカラを当てにして下され。何処へでも馳せ参じまする!」
と、黒騎士に恩を売るつもりが、先に言われてしまった。
「我らとて同じ思いじゃ。『蛮行の雨』を必要と思われた時は、いつでも連絡を下されい」
満足そうにうなずくフーコツ。
「クカタバーウネットワークでね」
と言い足すミトラ。実際、それしかないのだ。
「さて、拙者らは旅に出ますので、そろそろ失礼致しまする」
と言い出す黒騎士バンガウア。
「なんと? 今から旅立つじゃと?!」
「夜の街道を行くのですか?」
「寝ずの進軍?!」
驚く三人娘。
「『英雄の剣作戦』に参加し損ね、チカラが有り余っておりますからな、夜の街道に出没する野党のたぐいを退治して参ろうと思う」
バンガウアさんの言葉に、隣で黙ってうなずいているアヤメさん。
「バンガウアさんのチーム、回復役がいないから気をつけてね」
と、ミトラ。
「うむ。そこを案じて、ランランカ殿が部下のコタロー殿を貸し出して下さった」
と、バンガウアさんは顎をしごいた。
「今までは、手持ちの回復薬でなんとかなっていたが、確かに先行き不安ではあったので、助かった」
(あーー。自分が伝説の回復杖を手に入れたもんだから……)
(今までの回復役が要らなくなったんだ)
(余った回復役を、恩を売るのに使うとは。やりおるのうあの女神も)
と、視線で語り合う蛮行の三人娘。
「魔族の遺体はどうであった?」
と、フーコツ。
「うむ。残念な事に、魔獣が喰い散らかしておってな。惨たらしいので雑木林に墓を建て、懇ろに葬って来た」
と応じるバンガウア。
「無論。墓標代わりに刺した剣には、拙者が魔族を倒した事、英雄の剣を持ち去った事も刻んで来たぞ」
「かたじけない」
短く言い、頭を下げる蛮行の雨。
「もう、背負いついでだ。幾らでも厄介を持って来るが良い。みんなまとめて面倒をみてやろう」
バンガウアは愉快そうな笑い声を上げ、ヘルメットを被った。
ディンディンは、再び透明化し、アヤメさんは黒頭巾を被り、三人で部屋を出て行った。
黒騎士一行が去り、沈と静まり返った部屋に、第一声を発するジュテリアン。
「みんなまとめて背負うんだって」
頭を左右に振った。
「潔いと言うか馬鹿と言うか……」
「こちらの腹黒さが惨めになっちゃうじゃないの、全く」
ミトラが頭を垂れた。
「バンガウアが、どんどん理想の黒騎士に近づいてゆく気がする
「心配は無用じゃ。せいぜい利用させてもらうぞ」
と、フーコツ。
「ワシの黒騎士は、もう少しお金に貪欲であって欲しいがのう」
「そうね。もっと人間臭い部分が欲しいわね。バンガウアさんも黒騎士を演じてるわけだけど」
と、ジュテリアン。
「ユームダイムで、バンガウアさんは報奨金を欲しがったじゃないですか」
と、ぼく。
「そうじゃな。ああ言う点じゃ。今度 会うたら、物欲に塗れた人間臭さを指導してやろうぞ」
フーコツは、何かに目覚めた様子で言った。
バンガウアさんと入れ替わるように、今度はモヒカンコンビと「黄昏の砦」が、部屋にやって来た。
今後の「蛮行の雨」の予定を聞きに来たのだった。
ぼくの返答に、
「そうですか。明日には村を発たれる予定でしたか」
五節棍法師のエルビーロさんは残念そうに言った。
「拙僧らは、今しばらく警備隊を鍛える事になりました」
「近在の村の警備隊も、鍛練に参加する事になりましたでなあ」
と、オオールお婆さん。
「『引き潮の海』も残るそうです」
と、マークンドラおばさん。
「たぶん、『機動忍者部隊』の皆さんも。コタローさんは、黒騎士様のお供をするそうですが」
キドウニンジャブタイ。正式名称になったんだっけ!
ぼくは少し自信がなかった。
(『御歩』)
サブブレインの返事は、よく分からなかった。
次回「パルウーガの遺跡の噂」(後)に続く
次回、第百六十五話「パルウーガの遺跡の噂」後編は、明日の日曜日に投稿予定です。




