表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
325/370

「浄化回復!」(前)

果たして、鍛錬場の物置き小屋にもたれたり、地面に寝転んだりしている隊員が、(さく)の外から見えた。

  (みな)金属鎧(メタルアーマー)を着ていた。

手には小手(ガントレット)

  足には鉄靴(サバトン)

    頭にはフルフェイスのヘルメット。

やはりかなり実戦的な鍛練か?


地面に横たわっている中には、革鎧(レザーアーマー)姿のザミール&カメラートのモヒカンコンビも居た。

マークンドラ&コラーニュの両僧侶が、回復光を放っている。


ぼくたちが柵の扉を開けて鍛錬場に入ると、稽古をつけていたらしいゴルポンドさん、ギュネーさん、それから地面に倒れているエルビーロさん、ロウロイドさん、オオールお婆さんの顔が(けわ)しくなるのが分かった。


(えっ? 何? ぼくら道場破りみたいに見られてる? 違うよ!)

  ぼくは心の内に叫んだ。


  草地に恐る恐る足を踏み入れると、

「うわっ、負けた」

  と言う声が起こった。

ゴルポンドさんと対峙(たいじ)していた隊員が小手を打ち込み、オーガの戦士は長剣を落としたのだ。

ゴルポンドさんもガントレットを装着しているので、小事はあっても大事はないと思うが。


目の前のオーガの剣を叩き落とした隊員がヘルメットを脱ぎ、剣とヘルメットをぶら下げたまま呆然としている。

  おそらく初めて勝ったのだろう。

ゴルポンドさん、そこまでぼくたちに気を取られなくていいのに。


  六人の忍者たちは、柵の外で待機を決めたらしい。

岩や壁や屋根や樹木が、柵に寄り集まっていた。


ぼくたちは先頭に立ったランランカさんに引っ張られる形で、物置き小屋周辺の負傷者の群れに向かった。

ランランカさんの水色の杖は伝説の回復杖だから、当然の行為だったかも知れない。


ちなみに、背中のもう一本の杖は、攻撃魔法強化のために買った増幅器だそうだ。


「作戦に間に合わず、申し訳ありませんでした」

ランランカさんは回復光を受けている隊員たちに向かって頭を下げた。

魔族の到着が早かったため、『英雄の剣作戦』に参加した警備隊員は、一人もいなかったのだが。


「ランランカと申します。ただ今到着いたしました」

その名は知らされていたのだろう、寝そべっていたモヒカンコンビや隊員たちが顔を上げ、

「おお!」と言った。

  慌ててヘルメットを脱ぎ、頭を下げる隊員たち。


「僧侶のお二人は魔族との戦いで、回復魔力を使われてお疲れでしょう。後はわたしがやりましょう」

そう言って、背負っていた大振りな水色の杖を抜くランランカ。

  灰色に塗り替えたはずだが、ほとんど水色に戻っていた。


  そして、負傷者たちに杖のヘッド向け、

浄化回復(ライニグングヒール)!」と(とな)えた。

  ヘッドから金色(アウルム)の帯が何十本も放射された。


物置き小屋に当たったり、空に飛んでゆく光線もあったが、ほぼ、前方の負傷者たちに正確に当たる回復光。


  「うお!」

             「ぐわわっ!」

      「ひい!」

         「うがっ!」

   「おう!」

さまざまな(うめ)き声を上げ、身を(よじ)る負傷兵。


マークンドラさんやコラーニュさん、そしてぼくたちにも金色の光は当たった。


「ぐう。なんか、心が清清(すがすが)しい。あたしの闇の呪術力、ちょっぴり浄化されちゃったんじゃないでしょうね?!」

「ワシの光呪術に、要らぬ清浄痕(せいじょうこん)が入ったような……」

  各各(おのおの)(わめ)くミトラとフーコツ。


「だいたい前に飛んでる。凄い!」

と言ったのは、同じ伝説の回復杖を持つジュテリアンだ。


「オイラ、生まれ変われた気がする」

「痛みも疲れも汚れも、フッ飛んじまった」

などと言って立ち上がるカメラートとザミールのモヒカンコンビ。


「浄化と回復の混合のせいか、面白い反応ね」

  と、ジュテリアン。


「ボクは、魔獣に出会うかもと思うと恐ろしくて、仮病を使って、黒騎士様に付いて行きませんでした。申し訳ありません!」

  若い隊員が立ち上がり、叫んだ。

「後でプッペン隊長に罰して頂きます!」


浄化光の賜物(たまもの)か、はたまた自己暗示のなせる技か?

  ともあれ、

「えっ? 何? 浄化効果?!」

  と、ミトラを大いに逃げ腰にさせた。

「怖いわね。あたし、大丈夫でしょうね?」


「ランランカさん、かなり正確に回復光を射たれてたけど、どんな鍛練をされてるの?」

  と、ジュテリアン。

「私、まだまだ光線が散乱しちゃって……」


「よろしい。お教えいたしましょう」

  杖を背中の(さや)に戻すランランカさん。

「実は回復院でアルバイトをしてるのよ。患者さんたちには喜ばれるし、お金はもらえるし、腕も上達するわよ」


「か、回復院?!」

  驚くジュテリアン。

「そんな所で働いたら、辞めにくくないですか?」


「う、うん。滅茶(めっちゃ)、辞めにくいわよ。毎回、院長に『我らをお見捨てなさるのか?!』みたいなことを言われるわね」

「や、やっぱり。伝説の回復杖だものねえ」


「でも、わたしらの目的は悪党退治でしょ? だからお金が貯まったら、心を鬼にして旅を続けるのよ」

「そうよねえ。ひとところの回復院に(こも)っているわけにはいかないわよねえ」

「そうなのよ。もう、エライ物を持っちゃったわよ」


ジュテリアンとランランカさんは抱き合って、身に過ぎた果報を(なげ)き? 合った。



              次回「浄化回復(ライニグングヒール)!」(後)に続く



次回、第百六十三話「浄化回復(ライニグングヒール)!」後編は、来週の火曜日に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ