「ランランカ、参上!」(後)
彼女は腹部にポーチの付いた真紅のベルトを腰に巻いていた。
ポーチの中には、指輪、腕輪、耳飾りなどの強化装飾品が入っているのだろう。
両方の肩から、それぞれ斜め掛けされた帯もプルプルンだった。
胸の辺りでクロスし、腰のベルトに固定されている。
そして右肩からは水色の杖のヘッド、左肩から灰色の杖のヘッドが見えていた。
ランランカさんは、アレドロロン村で伝説の杖を手に入れた事により、超回復杖と、攻撃杖の二杖使いになったのだろう。
さすがは元転生官、大した反則機能だ。
「黒騎士様が参加するミッションだと連絡を受けて、大急ぎで来たんだけど」
と言いながら近づいて来るランランカさん。
「屯所で聞いたのだけど、黒騎士様もわたしも間に合わなかったようね」
元転生官ランランカさんは、ぼくの転生のやり直しを二度失敗し、今は、
「世の平穏に尽くす」ように上司に下知され、巷を徘徊しているところ。のはずだ。
「ランランカさん、キョロキョロしてたけど、誰かを探してたんじゃないの?」
と、ジュテリアン。
「ああ。貴方たちを探していたのよ」
そう言って、串焼きの肉をひとつ頬張るランランカさん。
「ハンゾーが、この筋に蛮行の三人娘が現れたって、知らせに来てくれたから」
「ああ、壁隠れのハンゾーさん。そう言えば、レンガ壁がスルッと移動するのが見えました」
と、ぼく。
「パレルレ、そういう事は、サッサと知らせてよね」
「いや、一瞬だったし。電子眼の錯覚かなと」
「六人の忍者とは、今も一緒なんじゃな?」
「当たり前でしょ、仲間なんだから。今は村に散らばって、そのう、観光名所を探索中よ」
「あーー。来てはみたものの、すでに魔族は倒されており、黒騎士は戦いの後片付けに出掛けてて、不在。する事がないわけね」
「ドワーフの娘よ。そこまで言わなくても良いから」
ランランカさんは悔しそうに残り二つの串肉を食べた。
ランランカさんのその言葉で、近くに転がっていた岩から「ふふっ」と言うふくみ笑いが漏れた。
岩隠れのコタローさんだ。
前に見た岩と違う。見事に村の道に溶け込んでいた。
「貴方たちこそ何? ミッションが終わったのに、なんでまだいるのよ」
「魔族との戦いで疲れたから、旅立つ前にもう少し英気を養っておく事にしたのじゃ」
「夕方には黒騎士さんが、帰って来るそうだし」
「ああ、そうそう。魔族の遺体が喰い荒らされていたら、埋めてお墓を建てて帰る、って言ってたそうよ」
と、教えてくれるランランカさん。
「へえ、そうなんだ」
「そうね。残骸を持って帰ってもねえ」
「うむ。墓に、黒騎士が倒した事、英雄の剣は持ち去られた事が書かれておれば、問題はあるまい」
「あるまい!」と念を押すミトラ。
「強魔獣なんかが、魔族の屍に釣られて出て来てたらどうするのよ。危ないじゃない、黒騎士様」
「我らが束になっても敵わぬ彼の実力を信じよ」
「ま、まあ貴方たちがそう言うなら」
「迂闊に後を追って、入れ違いになってもイカンからのう。後を追うでないぞ」
「戦場になったって言う雑木林の場所、知らないし、行かないわよ」
「えーーっとね、あっちだっけ?」
と、指をさすミトラ。
「こらっ、大雑把に教えるでない。だいたい、こっちの方であったろう?」
フーコツは負けずに違う方向をさした。
「わ、分かったわ。この村で黒騎士様が帰って来るのを待つわ」
「黒騎士にはくノ一零号あらため、アヤメ殿が付いておる。心配はいらんぞ」
「えっ? 零号が?!」
と、なんの変哲もない岩が呻いた。
「ううっ、うらやましい!」
ランランカさんは両手に握りコブシを作って震わせた。
「コタローよ、我らもつかず離れず黒騎士様をお守りする術もある」
「ははっ!」
岩はかなり大きく上下に揺れた。
うなずいたのだろう。
「魔族と戦った他のメンバーは、警備隊の鍛錬場で隊員に稽古をつけているはずだから、向かっているところよ」
ミトラが教えた。
ランランカは、
「じゃあ、付いて行く」
と答えた。やはりヒマなのだろう。
皆んなでゾロゾロと鍛練場に向かった。
岩隠れ。影隠れ。その他、屋根に隠れたり、樹木になったりして、忍者たちが一緒に移動しているのが分かった。
途中から壁隠れのハンゾーさんも加わった。
鍛練場に近づくと、元気な悲鳴や金属の打つかり合う快音が聞こえてきた。
「おう。今日は実戦的な訓練か?」
フーコツが眉をひそめ、心配そうな声を出した。
次回、「浄化回復!」(前)に続く
次回、第百六十三話「浄化回復!」前編は、明日の土曜日に投稿予定です。




