「突入! クカタバーウ砦」(後)
ゴルポンドさんは着地ざま、大剣を逆袈裟に振って右脚を斬り裂こうとした。
が、その巨大な太股に大剣が刺さって抜けなくなる。
「しまった!」
思わず呻いているゴルポンドさん。
ミトラが加勢に入って左脚の膝を砕き、大トカゲを地面に倒す事に成功した。
太股の大剣も跳ねて外れた。
心を持たないという魔獣のたぐいには、光の盾が発動しない。
強くても、大きな弱点だ。
光盾は、非力な人型を助ける大切なアイテムなのだ。
地上に降りたぼくから離れ、フーコツさんは白い泡で、ジュテリアンは紫色の濃い煙で火を消してゆく。
倒れたフーサウラーの首に、ゴルポンドさんが何度も大剣を振り下ろし、ついに斬り落とした。
ぼくはそれらの所業を、各部の電子眼で見ながら、北の門の閂を抜いた。
門を開け、ぼくは、
「武器を扱える者だけ突入しろ!」
と叫んだが、群衆からは大歓声が起こり、素手で突っ込んで来る者多数。
「やっぱりな」
な反応であった。
高揚になった人間は止め難い。
ちなみに、突っ込んで来る人々の先頭は、鼻髭男ロウロイド氏だった。
手に持った長剣が青く発光している。
噂に聞く魔法剣か?!
ぼくは南門も開けるべく、盾を前面に出し、ブースターを噴かせてスーパーダッシュした。
瞬く間に街を横切り、南門に迫った。
それを見て、南側の回廊に立つ魔族たちが当然、ぼくに火矢を射ってくる。
青の盾を貫いて、正確に金属身体に当たった。
ダメージはなかったが、魔力補正、すげえ。
「馬鹿め。砦の外に居るのは木偶ではないぞ」
遠くでフーコツさんが笑って言った。
そのフーコツさんの言葉通り、南の回廊の魔人たちは、外からの攻撃を背中に受けて、砦の中に落ちた。
三十メートルの高さである。
下の建物の屋根に落ち、バウンドして地面に転がる。
誰も起き上がってこなかった。
砦内に降りて来たぼくたちに驚いて、
「砦の外の敵に背を向ける」という愚行を犯し、火矢や火球を背に受けたのだ。
南門も無事に開けたぼくは、同じように素手の突入を戒めて呼び込んだが、門が開いて興奮している群衆たちは、全く従ってくれなかった。
「死にたいのか馬鹿者ども! 武器を持たぬ者は魔族に近づくでないわ!」
と叫んでいるのは、フーコツさんだ。
案外、面倒見の良い人なんだと、ぼくは感心した。
「武器を持たん者は消火に当たれ!」
「建物の中にはまだ魔族がいるぞ!」
「最低でも五人ひと組で調査に当たれ!」
などなど叫んでいるのは、鼻髭男ロウロイド氏だった。
一般人に死者が出たら、責任問題に発展するかも知れない。いや、発展するだろう。
大変だ、責任者は。
ジュテリアンが、短剣に偽装した回復杖から噴出させている紫色の煙も、地面にどろりと広がって火を消している。
壁にも、べったりと張り付いて、やはり火を消している。
「泥みたいな煙だな」
と、ぼく。
『無能なる空気』
と、サブブレイン。
フーコツさんと同じ消火魔法だ。
酸素遮断の窒息魔法でもあるのだろう。
ジュテリアンは僧侶だから、回復魔法しか使えないはず。
酸素吸入の逆の、身体に悪い過大回復魔法ではあるまいか?
火吹き大蜥蜴が、まだ一匹残っていたが、火は吐かず、ウロウロと歩き回っていた。
相手をしたのは、フーコツさんだ。
今は、フーコツさんの飛ばした水球に頭部を覆われ、踠いていた。
盾を出せない魔獣の悲しさか、モロに喰らっていた。
前脚で水球を掻くが、相手は水である。
手応えがない。
やがてフーサウラーは水を飲み始めた。
良い作戦に思えたが、途中で力尽きたらしく、一気に吐き出した。
逆に巨大になってしまう水球。
今日の食事だろうか、混ざり物が多く濁っている。
グロい。
頭をすっぽりと汚濁水球に包まれたまま、フーサウラーはついに地面に倒れた。
まだ手足を震わせているが、トドメは遅れて来た戦士たちが刺してくれるだろう。
倒れているフーサウラーに驚きつつも、抱き合って喜んでいる金青の戦士たち。
南北に分かれていた砦の隊員たちだろう。
それを見て、もらい泣きをしているモヒカン頭が二人。
見た目、無頼漢。純情か?!
黒衣の僧侶コラーニュさんがぼくの所にやって来て、
「ミトラさんとゴルポンドさんは?」
と、たずねた。
「あっちの建物に」
と指をさすぼく。
「入ったきり、まだ出てこない」
大丈夫だと思うが。
「石壁に沿った建物群は、ちょっとした迷路ですよね」
と、躊躇するコラーニュさん。
「はい。コラーニュさんは非戦闘員だから、行かない方が良いと思います」
と、ぼくが言うと、そういう返事を待っていたのか、
「うん。そうするよ」
と、コラーニュさんは素直にうなずいた。
金青鎧の鼻髭男氏と、フーコツさんが言い合っていた。
「なんて無茶をするんだ!」
「魔族に蹂躙されるよりマシであろう? だいたい、魔族の目的は砦の占領ではないのだぞ」
「な、なんだって?!」
「魔族どもは何人で攻めて来たのかな? 少数すぎるのではないか? 占領は目的を達成するまでの一時的なものであろうよ」
「そう言われれば、そんな気がっ。くそっ、何が目的で来やがったんだ、奴らっ!!」
「まあそれは、捕虜の尋問で明らかになろうが」
建物群を見渡してフーコツさんは、
「まだ何処かで何かをしている奴らがおるかも知れんな」
と不穏な発言をした。
炎の見える窓があった。
「炎だ?! 大丈夫だろうか?」
と言う鼻髭氏に、ジュテリアンが近づいて来て、
「魔族の反撃でしょ。爆炎のギューフの手下たちだもの、炎はお手のものでしょう」
と言った。
「ばっ、爆炎のギューフ?! なんで知ってる?!」
「なんで知らないのよ。紫色の肌で、三ケートくらいの大斧使いが居たでしょうが」
ジュテリアンは、鼻髭男の反応に呆れた様子だった。
「気がつかなかったの? ギューフって、そんな小物?! くそっ、ウチの勇者は、そんな奴に殺されたって言うのっ!!」
短剣を握りしめて叫ぶジュテリアン。
仇討ち必至な展開に思えて、ぼくは早々に尻込みした。
次回「奪還! クカタバーウ砦」(前)に続く
次回、第十七話「奪還! クカタバーウ砦」
前編は、明日の土曜日に投稿します。
後編は、明後日の日曜日に投稿します。
これでも、序盤の佳境でございます。
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同時連載中の、「続・のほほん」も、よかったら読んでみて下さい。
回文をオチとした、読み切りショートショートです。




