「英雄の剣作戦」(前)
あたふたと逃げていて、後頭部の電子眼が爆発を見た。
異様な振動を見せていた白金の盾が、爆発したのだ。
おそらく盾が破られた時、自爆するように仕掛けがしてあったのだろう。
大爆発であった。
巨大な圧力波にあおられ、ぼくのメタルボディが宙に舞った。
ミトラが、フーコツが、ゴルポンドさんが、ギュネーさんが、エルビーロさんが、ええっと言い落としはないかな?
な仲間が軽々と、ヘシ折れた樹木に紛れてフッ飛んでいる。
しかし、皆んなの盾は役に立っているように思えた。
それにしても白金の盾、爆発とはナニ事だ。
バクダンオオアリか?!
ドラグザンの反撃はなかった。
爆発に巻き込まれて儚くも絶命していたのだ。さもあらん。
白金の盾を破るような敵は、仲間もろとも殺してしまおう。
と言うスハイガーンの考えであったかも知れない。
薙ぎ倒され燃える雑木林跡に、盛大に大水球を射っているフーコツ。不死身か?
ジュテリアンも紫紺の煙、「無能なる空気」を射出して、あちこちに散見される炎の消火に努めていた。
ぼくは爆発した白金の盾に近かったため、あちこち傷つき凹んでいたが、今は大きな十字型の鉄靴で、くすぶる地面や炎を踏み鎮火に勤しんでいる。
メタルボディだし、血は流れていないし、こんなの相手に戦っていた大魔王デスラモゴラは、さぞかし大変だったろうと思う。
負けて当然だったかも知れない。
消火仲間には、いち早く撤退して無傷のザミール、カメラートのモヒカンコンビが居た。
革靴に濡れた布を巻いて、炎を踏んでいる。
「オイラたちの戦いで、大きな雑木林が死んじまいましたねえ、兄貴」
と、カメラートさん。
「なあに。復活するさ。植物はシブトイんだぜ」
と、兄貴分、ザミールさん。
「俺ら人間が死に絶えた後は、虫と植物の世界になるそうだぞ」
「へえ、たくましいんですねい」
半信半疑の顔で応じるカメラートさん。
しかし虫と植物の世界は本当だろうと、ぼくは思った。
コラーニュ、マークンドラの回復役の治療を受けているゴルポンドさんら戦士団。
もう、起き上がっているミトラやエルビーロさん。
大事がないようで、良かった。
「消せ、消せ! 火を消すのじゃ!」
と、ぼくらにハッパを掛けるフーコツ。
この人間でないナニかなお嬢さん、実は攻撃杖は、おおむね人間以外に優しい。
雑木林の中に倒れていた魔族の遺体は、キレイに吹き飛んでいたが、それは警備隊に探してもらう事にした。
そこまですると、中々の重労働になるからだ。
「あっ、コレはゴルポンドさんの大剣じゃないですかい?」
と地面に屈み込むカメラートさん。
そこは、爆発した雑木林から少し離れていた。
「おう、間違いない。牙烈丸十三世だ」
折れた木に刺さっている大剣を見て言う、ザミールさん。
「折れてねえ。ヒビも入ってねえ。さすがゴルポンドさんの名刀!」
ゴルポンドさんの大剣の名前、初めて聞いた気がした。
そして、「英雄の剣」は、岩に刺さった状態で地面に転がっているのが見つかった。
折れてない。ヒビもない。
「さすが、オララ工房の逸品!」
と、喜ぶミトラ。
ミトラの伝説の斧もツンと澄まして、かなり遠くに落ちていた。
さいわい、雑木林の外で待機していたマークンドラさんが、爆発に吹き飛ぶ斧を見ていたのだ。
「呼べば手に戻ってくる」と言う話であったが、その戻る軌道上に人がいた場合、斧でカチ割る事になる。
見当がついていたので、ミトラは地道に探したのである。
ゴルポンドさんの大剣も、英雄の剣も、そしてミトラの伝説の斧も爆発に吹き飛ばされたわけだが、誰かに当たるとかなくて良かった。
あと、エルビーロさんの六角棒も、落ちていた。
五つに分かれていたが、鎖でひとつにつながっていた。
「これ、五節棍じゃないの」
拾い上げるミトラ。
「ああ、これはかたじけない」
エルビーロさんはミトラの手から引ったくるようにして、チャキチャキと一本の六角棒に戻した。
「五節棍使い!」
とエルビーロさんを指すミトラ。
「あなたも斧使いではありませんかい!」
エルビーロさんも負けずにミトラを指し返した。
そしてふたりは、カラカラと笑い合った。
「初見殺しの仕込みなれば、何卒、ご内密に」
と、頭を下げるエルビーロさん。
「同じく。あたしの斧は皆んな知ってるけど」
と、ミトラも頭を下げた。
コラーニュさんもそう言えば、眼前暗黒感が使える事を黙ってたっけ。
やはり無頼の徒は、秘め事を作ってナンボなのか?
(そう言えば、メリオーレスさんの得意技ってなんだっけ?)
と、ふと思うぼく。
(『無力化』)と、サブブレイン。
サブブレイン、何処で仕入れた?!
(『内緒』)
麻痺かい?
(『そうそう』)
そんな技を持ってるのに、女街のアマゾネスとの戦いでなんで負けたの?
(『魔法禁止』)
ああ。そんな戦いだっけ。
(『そうそう』)
くっそう。ぼくに内緒でいつの間にメリオーレスさんの技を……。
いや、そんな訳はないな。
ぼくが忘れちゃったんだ、きっと。
「で、爆発したのは白金の盾で間違いないんだよね」
と、ミトラ。
「彼の残骸を見たけど、ドラグザンは盾の爆発に巻き込まれてグチャグチャ、えへんえへん、絶命したに間違いないよ」
と、ぼく。
「ふうん。あたしらの卍も爆発するし、変化しなくても爆発する盾もあるのか」
ミトラが少し思案顔になった。
「誰も道連れに出来ずに、哀れな自爆だったね」
そう言えば、卍で随分な敵を倒して来た。
白金の盾に飛翔能力がなかったのはさいわいだった。
「白金盾が卍みたいに飛ばせたら、ゴルポンドさんやエルビーロさんあたりをあの世に連れて行けたかもね」
と、物騒な事をぼくが言うと、
「ふん。その時はオレも死んだかもね」
と、近づいて来たギュネーさんが言った。
「宿へ帰ったら、皆んなの無事を祝って一杯やりましょう」
シングルモヒカンのザミールさんが大きな声を出した。
懸命な音頭取りだろう。
「牙烈丸十三世、よくぞ無事で」
ザミールさんから大剣を受け取って喜ぶゴルポンドさん。
「十二世が折れた時は泣いていた」
とコラーニュさんにこっそり教えられるぼく。
「大剣なんぞ、折れてナンボだと言うのに、よくぞ頑張った」
十三世に頬ずりをするゴルポンドさん。
(こりゃ、折れたら泣くわ)
とぼくは思った。
ミトラは、自分の甲冑と、ぼくの傷などは、
「所有する無機物を直す呪い」で直した。
もともと、食器類の欠損を直すための「呪い」である。
ぼくは「魂」だけでこの世界に来てしまった。
その魂を、ミトラは古戦場に転がっていた場違い工芸品に転魂してくれたのである。
「パレルレ」という名も「付けて」もらった。
そのため、ぼくはミトラの所有物になったのであった。
炎との戦いは、時間的にも内容的にも魔族より苦戦した。
ジュテリアンの紫紺の煙も、今は時間限界がきて、消えている。
「炎は鎮火できたようね。帰りましょうか」
回復に消火に頑張ったジュテリアンが、両肩をだらりと下げて言った。
疲労困憊しているに違いない。
さて、おんぶして帰るか。
それともお姫様抱っこかなあ。
「だいたい、『英雄の剣』を確認したら、とっとと帰る予定であった」
フーコツの目の下には隈が出来ていた。
次回「英雄の剣」(後)に続く
次回、第百六十話「英雄の剣作戦」後編は、明日の日曜日に投稿予定です。
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