表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
318/369

「続・五神将ドラグザン」(後)

「むう。ナマクラ大剣か」

盾の前まで持って来た大剣を見下ろして、ドラグザンがつぶやいた。

  おそらく盾の中には入れられない。

自分の武器ではないからだ。


「そのナマクラな剣に鞭を封じられたのは誰だ」

  ぼくの背後に隠れ、憎まれ口を叩くゴルポンドさん。

「日頃の鍛錬が足りないんじゃないか?」


「失礼だよ、ゴルポンド。名を()せた五神将に」

  魔族に同情するミトラ。

「事実を言えば何でも許されるわけじゃないよ」


ドラグザンは左腕を縦に振り、鞭を波打たせて(から)みついていた大剣を跳ね飛ばした。

  明後日の方向に飛んでゆく大剣。

「ああ、オレのナマクラが」

  と、ほんの少し残念がるゴルポンドさん。


「卍を射ってみよう」

と、ミトラが言い、円盤盾をひとつ、卍手裏剣(スヴァスティカ)に変化させた。

「うむ」

  短く応じ、フーコツも卍をひとつ作った。


詠唱もなく、手印もなく発せられた卍は、静かに素早くドラグザンの盾に迫り、爆発した。


圧力波を受け、盾ごとすっ転ぶ人型(ヒューマンダ)たち。

  ぼくはかろうじて踏ん張った。

「無茶をするな!」

  叫び、起き上がるゴルポンドさん。


「むう。爆発は念じておらんぞ」

「あたしもよ。盾に刺してやろうと思ってたもん」

「白金の仕業(しわざ)か? なかなか曲者(くせもの)な盾じゃな」


  盾の中のドラグザンにダメージはないようだった。


「じゃあ、あたしとパレルレで行くね。どっちも丈夫が取り()だから!」

  ミトラは棍棒を下げて走り出した。速い!

『緊急時に疾走する呪い』だ。

  そして棍棒の斧刃(ふじん)はまだ出さない。

直進に邪魔にならないように、身体の側面に盾を並べるミトラ。


ぼくはマントを脱ぎ捨て、足裏と背中のブースターを噴かせて一挙に飛んだ。

盾が邪魔にならないように、ぼくも側面にそろえたが、小回りが効かず、樹木をへし折りながら飛んだ。

「ひゃっほーーー!」

  という叫びは、ぼくを見たミトラだ。


  さすがに赤光の鞭が一本、ぼくに飛んできた。

スライドさせて前面にそろえたが、たちまち破壊されてゆく十層の盾。

  ぼくは左胸の電撃鞭と右胸の高熱鞭を同時に射出した。


電光と火花を散らし、赤光を跳ね返すぼくの鞭。

  先がちょっと潰れただけで済んだ。

盾がドラグザンの鞭の勢いを殺していたのだ。


とは言え、火花を散らす鞭をべろんと出したまま落下するぼく。

煙を吹きながら、するするとドラグザンに戻ってゆく赤光の鞭。


「いただき!」

  と叫んで棍棒に斧刃(ふじん)を出すミトラ。

そこに今度は二本の赤光が飛んだ。

  右腕の鞭は回復し、攻撃のチャンスを狙っていたのだ。

ミトラも瞬時にビオレータの盾を前面に集めた。  


  破壊されてゆくミトラの盾。

勢いを止められ、衝撃で下がるミトラ。

  が、ミトラは斧を振るい、赤光を打った。

千切れ飛ぶドラグザンの二本の鞭。

  ミトラが斧を振るたびに、赤光は散ってゆく。

さすがと言うべきか、伝説の斧は。


ぼくは落下から立ち直り、再び背後のブースターを噴かせ、ミトラの邪魔にならないように回り込む。

  ドラグザンの盾に体当たりをするためだ。

(固定されていないはずだから、ぼくの質量は効く!)

  と思ったのだ。


  ガッ! 

と当たってみれば、やはり白金の盾は揺れて後退した。

  ドラグザンの(うめ)きが聞こえた。

当たって砕けろ! が成功したのだ。


  しかし思わぬ衝撃がぼくを襲った。

反撃振動が白金に付与されていたのだ。

  ぼくはバランスを崩して地面に倒れた。

卍が爆発したのも、反撃振動(コイツ)のせいだろう。


ぼくは無防備な姿を(さら)したが、さいわい赤光はミトラの相手に忙しい。

ドラグザンは紫紺のエナジー弾を吐いてきたが、メタルボディを焦がすにとどめた。

  冷却水を循環させれば何でもない。

起き上がったぼくは、今度は胸の二本の鞭を振るった。


白金の盾は破壊出来ず、再び反撃振動に身体を激しく揺さぶられ、倒れるぼく。

  そして、知らせた。

「ミトラ! 自動反撃機能がある!」


「承知!」

ミトラは叫んで、持っていた斧をドラグザンの盾に投げた。

  よし。反撃されても、本人にダメージはない。

得物を失ったミトラに、赤光の鞭が襲い掛かるが、最後の一枚の盾を突破出来ない。

  破壊エナジーを吸って、強化された盾だからだ。


  そして斧は、見事に白金の盾に深く刺さった。

盾を突破出来ないでいたが、ビオレータの電光を放っている。

「馬鹿な!」

  と(うめ)くドラグザン。


  立ち上がるぼく。

しかし、電撃、高熱の二つの鞭が通用しない今、ぼく自身にはもう攻撃方法がなかった。  


 ぼくは盾に刺さった伝説の斧に手を掛け、抜いた。

クカタバーウで、斧を岩の塊から引っこ抜いたのは、ぼくなのだ。

  ぼくも伝説の斧の所有権を持っているのである。

ミトラと連携プレイで、斧を引っ抜いたのだから。


跳び下がり、今度はぼくが斧を投げた。

  やはり白金の盾に深々と刺さる。

驚いた事に、先ほどのミトラの一投よりも深い。

  盾の機能が弱まりつつあるのかも知れない。


繰り返せば、盾を破壊出来るかも知れない。


「伝説の斧か?!」

  ドラグザンが見破った。


考えられる事はひとつ。

「この白金を破壊出来るのは、伝説武器しかない」

  とか、聞かされていたのだろう。


と、ドラグザンが、

「ぎゃっ!」と叫んだ。

  ぼくの後頭部の電子眼が、ミトラの攻撃を見た時だ。


ミトラは円盤盾を卍に変化させ、高速回転でドラグザンの赤光の鞭を削っていたのである。


  スルスルとドラグザンの元に帰ってくる赤光。

前腕部とつながっているあの赤光の鞭は、ドラグザンの身体(からだ)の一部のようなものなのかも知れない。


だから、ダメージを受けると、また使えるようになるのに時間がかかるのだ。


(イケる!)

と思い、走り寄り再び白金の盾から斧を抜いて、力任せに振り下ろすぼく。

白金の中で片膝(かたひざ)をついているドラグザンが見える。

(チャーーンス!)だと思ったのだ。


斧はついに白金を打ち抜き、ぼくは反撃振動で盛大に跳ね飛ばされた。

  しかし見よ、白金の盾が異常に振動し始めたではないか。

地面が揺れ、土煙を上げている。

  舞い上がる辺りの枝葉。


  ぼくは不吉な予感に駆られて、

「逃げろ!」と叫んだ。

『危険! 危険!』

  と、サブブレインもスピーカーを使って怒鳴った。


ぼくとサブの切迫した声に、皆んなは素直に逃げ出した。

再び加勢に来てくれたジュテリアンも、慌てて周れ右をして走り去る。


白金の盾の振動がどんどん早くなり、異様な(うな)りを発している。

  ヤバい。ぼくも早く逃げなければ。



             次回「英雄の剣作戦」(前)に続く



次回、第百六十話「英雄の剣作戦」前編は、明日の土曜日に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ