「続・五神将ドラグザン」(後)
「むう。ナマクラ大剣か」
盾の前まで持って来た大剣を見下ろして、ドラグザンがつぶやいた。
おそらく盾の中には入れられない。
自分の武器ではないからだ。
「そのナマクラな剣に鞭を封じられたのは誰だ」
ぼくの背後に隠れ、憎まれ口を叩くゴルポンドさん。
「日頃の鍛錬が足りないんじゃないか?」
「失礼だよ、ゴルポンド。名を馳せた五神将に」
魔族に同情するミトラ。
「事実を言えば何でも許されるわけじゃないよ」
ドラグザンは左腕を縦に振り、鞭を波打たせて絡みついていた大剣を跳ね飛ばした。
明後日の方向に飛んでゆく大剣。
「ああ、オレのナマクラが」
と、ほんの少し残念がるゴルポンドさん。
「卍を射ってみよう」
と、ミトラが言い、円盤盾をひとつ、卍手裏剣に変化させた。
「うむ」
短く応じ、フーコツも卍をひとつ作った。
詠唱もなく、手印もなく発せられた卍は、静かに素早くドラグザンの盾に迫り、爆発した。
圧力波を受け、盾ごとすっ転ぶ人型たち。
ぼくはかろうじて踏ん張った。
「無茶をするな!」
叫び、起き上がるゴルポンドさん。
「むう。爆発は念じておらんぞ」
「あたしもよ。盾に刺してやろうと思ってたもん」
「白金の仕業か? なかなか曲者な盾じゃな」
盾の中のドラグザンにダメージはないようだった。
「じゃあ、あたしとパレルレで行くね。どっちも丈夫が取り柄だから!」
ミトラは棍棒を下げて走り出した。速い!
『緊急時に疾走する呪い』だ。
そして棍棒の斧刃はまだ出さない。
直進に邪魔にならないように、身体の側面に盾を並べるミトラ。
ぼくはマントを脱ぎ捨て、足裏と背中のブースターを噴かせて一挙に飛んだ。
盾が邪魔にならないように、ぼくも側面にそろえたが、小回りが効かず、樹木をへし折りながら飛んだ。
「ひゃっほーーー!」
という叫びは、ぼくを見たミトラだ。
さすがに赤光の鞭が一本、ぼくに飛んできた。
スライドさせて前面にそろえたが、たちまち破壊されてゆく十層の盾。
ぼくは左胸の電撃鞭と右胸の高熱鞭を同時に射出した。
電光と火花を散らし、赤光を跳ね返すぼくの鞭。
先がちょっと潰れただけで済んだ。
盾がドラグザンの鞭の勢いを殺していたのだ。
とは言え、火花を散らす鞭をべろんと出したまま落下するぼく。
煙を吹きながら、するするとドラグザンに戻ってゆく赤光の鞭。
「いただき!」
と叫んで棍棒に斧刃を出すミトラ。
そこに今度は二本の赤光が飛んだ。
右腕の鞭は回復し、攻撃のチャンスを狙っていたのだ。
ミトラも瞬時にビオレータの盾を前面に集めた。
破壊されてゆくミトラの盾。
勢いを止められ、衝撃で下がるミトラ。
が、ミトラは斧を振るい、赤光を打った。
千切れ飛ぶドラグザンの二本の鞭。
ミトラが斧を振るたびに、赤光は散ってゆく。
さすがと言うべきか、伝説の斧は。
ぼくは落下から立ち直り、再び背後のブースターを噴かせ、ミトラの邪魔にならないように回り込む。
ドラグザンの盾に体当たりをするためだ。
(固定されていないはずだから、ぼくの質量は効く!)
と思ったのだ。
ガッ!
と当たってみれば、やはり白金の盾は揺れて後退した。
ドラグザンの呻きが聞こえた。
当たって砕けろ! が成功したのだ。
しかし思わぬ衝撃がぼくを襲った。
反撃振動が白金に付与されていたのだ。
ぼくはバランスを崩して地面に倒れた。
卍が爆発したのも、反撃振動のせいだろう。
ぼくは無防備な姿を晒したが、さいわい赤光はミトラの相手に忙しい。
ドラグザンは紫紺のエナジー弾を吐いてきたが、メタルボディを焦がすにとどめた。
冷却水を循環させれば何でもない。
起き上がったぼくは、今度は胸の二本の鞭を振るった。
白金の盾は破壊出来ず、再び反撃振動に身体を激しく揺さぶられ、倒れるぼく。
そして、知らせた。
「ミトラ! 自動反撃機能がある!」
「承知!」
ミトラは叫んで、持っていた斧をドラグザンの盾に投げた。
よし。反撃されても、本人にダメージはない。
得物を失ったミトラに、赤光の鞭が襲い掛かるが、最後の一枚の盾を突破出来ない。
破壊エナジーを吸って、強化された盾だからだ。
そして斧は、見事に白金の盾に深く刺さった。
盾を突破出来ないでいたが、ビオレータの電光を放っている。
「馬鹿な!」
と呻くドラグザン。
立ち上がるぼく。
しかし、電撃、高熱の二つの鞭が通用しない今、ぼく自身にはもう攻撃方法がなかった。
ぼくは盾に刺さった伝説の斧に手を掛け、抜いた。
クカタバーウで、斧を岩の塊から引っこ抜いたのは、ぼくなのだ。
ぼくも伝説の斧の所有権を持っているのである。
ミトラと連携プレイで、斧を引っ抜いたのだから。
跳び下がり、今度はぼくが斧を投げた。
やはり白金の盾に深々と刺さる。
驚いた事に、先ほどのミトラの一投よりも深い。
盾の機能が弱まりつつあるのかも知れない。
繰り返せば、盾を破壊出来るかも知れない。
「伝説の斧か?!」
ドラグザンが見破った。
考えられる事はひとつ。
「この白金を破壊出来るのは、伝説武器しかない」
とか、聞かされていたのだろう。
と、ドラグザンが、
「ぎゃっ!」と叫んだ。
ぼくの後頭部の電子眼が、ミトラの攻撃を見た時だ。
ミトラは円盤盾を卍に変化させ、高速回転でドラグザンの赤光の鞭を削っていたのである。
スルスルとドラグザンの元に帰ってくる赤光。
前腕部とつながっているあの赤光の鞭は、ドラグザンの身体の一部のようなものなのかも知れない。
だから、ダメージを受けると、また使えるようになるのに時間がかかるのだ。
(イケる!)
と思い、走り寄り再び白金の盾から斧を抜いて、力任せに振り下ろすぼく。
白金の中で片膝をついているドラグザンが見える。
(チャーーンス!)だと思ったのだ。
斧はついに白金を打ち抜き、ぼくは反撃振動で盛大に跳ね飛ばされた。
しかし見よ、白金の盾が異常に振動し始めたではないか。
地面が揺れ、土煙を上げている。
舞い上がる辺りの枝葉。
ぼくは不吉な予感に駆られて、
「逃げろ!」と叫んだ。
『危険! 危険!』
と、サブブレインもスピーカーを使って怒鳴った。
ぼくとサブの切迫した声に、皆んなは素直に逃げ出した。
再び加勢に来てくれたジュテリアンも、慌てて周れ右をして走り去る。
白金の盾の振動がどんどん早くなり、異様な唸りを発している。
ヤバい。ぼくも早く逃げなければ。
次回「英雄の剣作戦」(前)に続く
次回、第百六十話「英雄の剣作戦」前編は、明日の土曜日に投稿予定です。




