「五神将ドラグザン」(前)
「ドラグザンの得意技って、なんだっけ?」
「部下の話から察するに、『ど根性』じゃろう」
「二丁拳銃じゃなかったっけ?」
魔族が全滅したので、寄せ集め隊全員が盾を消してゆく。
張っていると魔力が削られるからだ。
ミトラとフーコツのハズレな会話に、
「双鞭ですよ」
と、助け船を出す水球から生還した魔族。
「なんだ、パレルレにもあるヤツじゃん」
「それは頼もしい」
と、火炎地獄から生還した魔族。
「いえ、ほとんど使った事がないので、と言うか、使い方がよく分かっていないので……」
「何事も練習じゃ。使って覚えるのじゃ」
フーコツに励まされ、なんとなくその気になるぼくだった。
「相手は一人だ。取り囲んでボコろう」
と言う鼻髭のロウロイドさんに、
「ロウロイドさんは一回休みですよ。無理をすると肩の傷が開きます。回復値が下がらない内に、重ねて治療しましょう」
と、ジュテリアンが言った。
「はい。私と一緒に撤退です。魔族のお二人もね」
「くっそう、儂の未熟者め!」
自分を叱りながら、ジュテリアンと一緒に下がってゆくロウロイドさん。
魔族も上半身を縛られた姿で、大人しく付いて行った。
「あいつ、五神将の一人だから、強いんですよね」
接近してくる仮面の人物を睨むギュネーさん。
そう言えば、ギュネーさんは魔族の大幹部との戦いは、まだ経験がなかったっけ。
「部下を全滅させた我々に、一人で向かって来るのだ。強そうに見えてしまうのう」
フーコツがつぶやいた。
背丈は二メートルと言ったところか?
三メートルはあった爆炎のギューフや、二メートル半の雷のガシャスに比べると小さい。
オーガのゴルポンドさんよりも低いだろう。
フードを目深に被ったローブ姿だ。
何が仕込んであるか分からない。
フードの奥にあるのは、荒彫りの無表情な仮面。
表情は分からず、手には手袋。
この姿なら魔族と分からず、人の街も通れるだろう。
ただし怪しさ全開だ。警備隊が放っておかない。
「先生、『先手失笑』です。一発ブッ放しましょう」
ギュネーさんの語録の覚え間違いを聞き流し、
「まずは話し合いましょう。相手は一人だし、仲間の遺体は持って帰りたいでしょうから」
と、エルビーロさんが言った。
そして、オオールお婆さんを促して、ぼくたちから離れてゆく。
ゴルポンドさんも付いて行った。
エルビーロさんたちとは反対の方向に移動してゆくギュネーさんとフーコツ。
全体攻撃を考慮して、三方に別れたのだろう。
ミトラとぼくは、ドラグザンの正面に残った。
ドラグザンは十メートル以上の距離を置いて立ち止まり、
「ここは人型どもの勢力範囲。大所帯で動くのはマズいと思い、部下からそれなりの精鋭を選んできたのだが……」
と言った。
声の質感からして、男性と分かった。
そうだ。マヌケな事に、性別は聞いていなかった。
「こうも簡単に部下が倒されるとはな。汝等も『英雄の剣』を狙い群がって来た猛者どもと言ったところか?」
「まあ、そんなトコね」
魔族の正面に立つフルアーマーの小娘、ミトラ。
伝説の斧の斧刃は出していた。
「我が名はドラグザン。魔王スハイガーン軍五神将の一人である。お見知りおきを」
フードを外し、仮面を脱いだ。
茶色の肌。
長くはみ出した八重歯。
細面のドングリ眼。
うず高い鼻筋。
キリリとした眉。
男前か?!
「『英雄の剣』は頂く。仲間の仇も取らせてもらう」
その返答で、話し合いはなくなってしまった。
「盾!」
オオールお婆さんが叫んだ。
ぼくたちは直ちに最大枚数の盾を張った。
皆、盾同士を密着させ、場所を取らないようにしている。
作戦の内であった。
林立する樹木が邪魔なのだが、盾は大きめだ。
鞭は飛び道具と一緒だ。
ここは防御強化をしておくべきだろう。
そしてドラグザンが、手に持っていた仮面を投げ捨てた。
懐に入れないのはなぜだ?
単にカッコつけたのか?
ミトラがすかさず突っ込んだ。
「コジロ……エヘンエヘン、ドラグザン敗れたり!」
と、棒読みの大声を放つミトラ。
虚を突かれ、
「な、なんだとっ?!」
と、ミトラの薮から棒な言葉にキョドるドラグザン。
「勝つ身なれば何故、鞘……じゃなくて仮面を捨てた?!」
棒読みなまま失礼な言葉を続けるミトラ。
「えっ? これは後で拾えばよかろうかと」
キョドりを深めるドラグザン。
これは中国の兵法にあるヤツ。
もっと言えば、ぼくの前世界の、宮本武蔵という武芸者を描いた小説や映画にあるヤツ。
「お主は今、自らの天命を捨てたのだっ!」
地面に捨てられた仮面を指し、ミトラがことさらに大きな声を出した。
大勇者サブローが、戦いの兵法として人型たちに伝えたものだろう。
パクリではない、中国に昔からある戦術である。
「な、なんだこんなもの。拾えば問題なかろうが」
どっこいしょ、という感じで足元に捨てた仮面を拾うべく身体を屈めるドラグザン。
そこを狙って、発射されるギュネーさんの猛烈三連火球。
ミトラの紫の卍手裏剣と、フーコツの銀のスヴァスティカもドラグザンを襲う。
そこに巻き起こるオオールお婆さんのツムジ風。
猛烈火球がツムシ風に舞い、二つの卍が暴風によろめく。
ドラグザンは態勢を崩しながらも、白金の盾を前後左右、そして頭上の五方に張った。
盾を交差させ、隙間をなくしている。
「なに? あの白金の盾は? 初めて見るんだけど」
言われても、ぼくが知るはずもない。
「怪しき白金! 皆の衆、ご油断めさるな!」
オオールお婆さんが叫んでいた。
ツムジ風に雷が付与されていないのは、仲間を巻き添えにするからか?
オオールさん、アレドロロン村で敵側だった時は、敵味方お構いなしの雷撃攻撃をしていたのに。
(やはり、人間を取り戻したら弱くなるんだ)
ぼくは人型の弱点を見た気がした。
ギュネーさんの猛烈火球は、敵味方お構いなしだ。
(この娘は、強くなるぞ。良くも悪くも)
と、下衆な考えに浸るぼくだった。
かくて、フーコツは舞い散る火炎の消火に忙しかった。
次回「五神将ドラグザン」(後)に続く
次回、第百五十八話「五神将ドラグザン」後編は、明日の日曜日に投稿する予定です。




