「魔族VS寄せ集め部隊」(後)
射程距離に入ったのだろう、剣を大上段に振りかぶるオーガの大剣使いゴルポンド。
地面を滑るように魔族に迫った。
光弾は盾が弾く。が、盾も消滅してゆく。
「オーガ如きが。させるかっ!」
振り下ろされたゴルポンドさんの大剣を払うべく、自分の大剣を逆袈裟に斬り上げる魔族。
真っ向に振り下ろされたゴルポンドさんの大剣は、魔族の盾を砕き、大剣を砕き、その頭部を裂いた。
魔族、なんで正面から受けに入ったのか。
やはり「魔族」と言う自負が、パワーを見誤らせたのか?
すでに絶命したはずだから、反省の弁は聞けない。
「ゴルポンドさん、殺意全開だったねえ」
と、ぼく。
『御意』
あまりに早い決着に、サブブレインは残念そうに言った。
最後に残ったのは、首領らしいチング。
しかしすでにクロスボウの矢は撃ち尽くしていた。
最後まで、ミトラの鎧は射抜けなかった。
斧刃は出さずに棍棒を振り回してチングを追い回し始めるミトラ。
「あたしの一撃、見事受けて見せるか、おち◯ち◯ぐりぐり!」
時々、球体光弾を撃ちながら、右に左に逃げ回るチング。
「わたしはチングだ。変に名前を長くするな!」
「貴様の猥雑な名前は人界に広まっておるぞ!」
「な、なんだって? チングが猥雑?!」
(人間どもが騒ついていたのは、その為かっ?!)
と気がついたようだ。
チングの顔が瞬く間に赤く染まった。
魔族にも、赤面はあったのだ。
心理的な隙を突き、ついに魔族の目前に迫って棍棒を振り下ろすミトラ。
手に持った小さなクロスボウで受けるチング。
「おち◯ち◯ぐりぐり」を口にして、思わずリキんでしまったその一撃は、盾とクロスボウとチングの脳天をカチ割った。
「ああっ、しまった。つい力が入っちゃった!」
舌と目を飛び出させ、仰向けに倒れるチング。
地面に倒れたチングの上半身を抱き起こし揺するミトラ。
「し、しっかり! お◯ん◯んぐりぐり!」
しかしチングは、目玉と舌をブラブラさせるばかりであった。
「ご、御免。屠っちゃった」
ヘルメットのまま、仲間を振り返るミトラ。
「どんまい。儂も魔族を青の閃光で捕らえたと思ったら、捕縛が強すぎて息の根を止めてたよ」
肩の怪我をジュテリアンに治してもらい、加勢すべくミトラに接近していたロウロイドさんが伝えた。
ぼくもミトラに近づいて行った。
結局、何もできなかったが。
「ええ、拙僧はそのう、うっかり殴り殺してしまいました」
と、魔族が全滅したので帰って来た破戒僧エルビーロさん。
オオールお婆さんも一緒に戻って来た。
「ふん。ワシは大水球で魔族を傷なく捕らえたぞ」
結果オーライな話を自慢するフーコツ。
「私がいなかったら、溺死してたから」
と、ジュテリアン。
「オレの敵も、焼き殺したと思ったら、息を吹き返したので驚いた」
とは、ギュネーさん。
「一応、礼は言う」
とハモる焼かれ死に損ねた魔族と、溺れ死に損ねた魔族。
「負けたのに、なんだか心がすっきりした気分だ」
「オレは、スハイガーンへの心酔が、嘘のように消えてしまったように思う」
「んむ? そのせいか、この晴れやかな気分は」
不思議そうにつぶやいている二人の魔族。
そう言えば女相撲の街で、ダイファという魔族が死にそうな目に合って、スハイガーンの魅了から解放されてたっけ。
アレがまた、起きたのか?
ダイファの場合は、たまたまだとフーコツが言っていたが。
「溺死させるんじゃなくて、実は失神させるつもりだったんでしょ? フーコツ」
容赦なく突っ込むジュテリアン。
「う、うむ。水球であんなに早く溺れて死にかけるとは思わなんだ。水が入ってはならん臓器に流れ込んだのかのう」
正直にコクるジュテリアン。
「他人の生き死にに思い込みはいけませんよ、先生。オレは、最初からケシズミにしてやるつもりでした」
爆炎娘ギュネーさんに、反省の弁はなかった。
「相手は魔族。オレらの天敵ですからね」
「スハイガーンの手下ども、変な教育をされておるのう。危なくなっても逃げんとか」
フーコツがボヤくように言った。
「クカタバーウ砦を占拠した魔族も、劣勢になっても抵抗を続けたよ」
と、クカタバーウ砦の元隊長ロウロイドさんが言った。
「あの時は、ロピュコロスの手下だったわけだが、野良魔族と違って、教育が行き届いていると言うべきか」
「厄介な事だ」
ゴルポンドさんがボヤいた。
「軟弱そうなのが二人、生き残っただけだね」
と、ミトラ。
「軟弱なんじゃありません。スハイガーンの魅了が解けただけです」
元気な焼死未遂魔族が言った。
「野良に戻っただけですよう」
ノンキな溺死未遂魔族が言った。
「まだ一人、残っていますよ」
と、ぼくは報告した。
「ただの御者だと思っていたんですけど、逃げずに残っているんですよ。ちょっと変ですよね」
「奴か」
ゴーグルを額に上げていたフーコツが、目まで下げた。
「馬車から降りて、雑木林に入ろうとしておるのう」
「儂ら全員を相手にすると言うのか?」
と、ロウロイドさん。
「仲間のヤラレっぷりは見ただろうに。面白い奴」
と、ゴルポンドさん。
「五神将のひとり、ドラグザンですからね。自信過剰なイカレた奴ですよ」
「俺らはあいつに誘われて、スハイガーンの魅了に囚われたんだ」
「まあ、衣食住の保証をすると言う甘言に負けたんですけどね」
「さっきまで命は惜しくなかったもんなあ、魅了って恐ろしいよなあ」
運良く生き残ったコンビが、のんびりと話し合っていた。
「雑木林を歩いて来るけど、『死体を返して来れ』って言う交渉じゃないの?」
と、ジュテリアン。
「それはないよ、お嬢さん」
「三度の死より戦いが好きな奴だから」
「じゃ、俺たちはこれで失礼するよ」
「巻き添えを食って死にたくないんでね」
ヘラヘラと、幸運な生き残りコンビが言った。
「さっきまで我々を殺そうとした者が、調子の良い事を言うな」
ロウロイドさんが叱った。
「最後まで居てもらうぞ。色々と聞きたい事もあるからな」
魔族は残念そうな顔になったが、黙ってうなずいた。
「もし、遺体返還要求なら、武具、護符をすべて剥いてから返してやろう」
顎を撫でながらフーコツが言った。
「そんな屈辱的な条件、魔族が承知するわけないじゃん」
ミトラが断言した。
「先生、炎の池で攻めますか? それとも炎の河にしますか?」
と、ギュネーさん。
「それではワシら以外が全員死んでしまうぞ。この雑木林もな」
と応じるフーコツ。
「この雑木林はもうダメですよ。人型が生き残れれば、それで良いんじゃないですか、先生」
「うん? ギュネーよ、『引き潮』の男性どもと一緒に暮らしていて、変な価値観が伝染したか?」
「うーーん。そうかもしれません、先生」
人間なら、人間主義で良いのだろうが、フーコツは人間似のナニかだから、樹々や下草も気になるのかも知れない。
次回「五神将ドラグザン」(前)に続く
次回、第百五十八話「五神将ドラグザン」前編は、明日の土曜日に投稿予定です。




