「ドラグザンの右腕」(後)
「ワシを連れて行きたくば、倒すのが筋であろう」
正面から喧嘩を売るフーコツ。
「気の強い女だなあ」
「ゾクゾクしますね、チング様」
チングの取り巻きどもが嬉しそうな声を上げた。
「では、妖艶女に身のほどを教えてやろう」
そう言ってチングは手を上げ、
「翼!」と唱えた。
小さな銀の盾が五つ、出現した。
雑木林の中なので、盾が大きいと木に打つかって、動作に差し障るからだ。普通である。
大きな盾を当たり前に出すミトラたちがオカシイのだ。
他の魔族も、三つから五つ、緑や赤の盾を発現させた。
発現させたが、盾は小さいので、隙間だらけだ。
飛び道具で狙われたらやはり巨大化させ、防御するしかないのではないだろうか?
火炎や熱風は障害物に当たっても、相手が小さければ回り込むからだ。
そして盾に魔力を取られるのは、魔族も一緒だ。
さほど悩むところではないハズだ。
斧使いの魔族が二人、左に。
そして右には、長剣使いが二人、走った。
中央には三人残っている。
この広がる陣形が「翼」なのか?
「オオールさん、行くぞ」
つぶやいて斧使いコンビに向かう、棒術使いのお坊さん、エルビーロ。
「お任せあれ」
坊さんの後を追う魔法使いオオールお婆さん。
「先生、援護を!」
そう言って右の長剣使いに走るアマゾネス・ギュネー。
「任せよ」
応じて走る人間似のナニかなフーコツ。
盾は前方に広げると木に打つかるので、体の側面に展開させている。
走る仲間たちは、あんがい無防備な態勢だ。
「うあ。絶対火力が二人とも出ていっちゃった」
ヘルメットを抱えて、フーコツたちを見送るミトラ。
その絶対火力、ギュネーさんが、
「猛烈な三連大火球!」を唱えた。
いつかの野試合でぼくに射ったヤツだ。
三ツの火球が絡み合い、樹々をヘシ折りながら高速飛行した。
速攻で魔族の一人を捕らえた。
炎を煽る「ぶおわっ!」という絶叫を残して倒れる魔族。
互いに絡み合う三連火球は、盾を破壊し爆散したのだ。
爆発で飛散した炎も、すでに燃え上がっている魔族に反転して襲う。
三連火球は、この「勝手に反転攻撃」が猛烈なのだ。
そしてフーコツは、火球の飛行で燃えた樹木、地上に落ちて下草を燃やす炎に対して水球を射ち続け、消火していた。
援護って、そういう事だったんだ。
もう一人の魔族は剣を振り、槍状のエナジー弾を連射した。
「お、魔法剣士じゃ。彼奴もそうだったのかのう」
フーコツが、地面に倒れて香ばしくなった魔族を消火しながら言った。
「そうだっ!」
生き残った方の魔法剣士魔族はリキんだ。
ちなみに、エナジー弾は、フーコツ、ギュネーさんの盾を貫けずに消滅していた。
やがてフーコツが、
「大水球!」を射った。
その巨大な水球は木を折りエナジー弾を弾き、盾ごと魔族を飲み込んだ。
水球の中で踠く魔族。
踠きに合わせて水球の表面が盛り上がるが、破壊するまでには至らない。
「うわ。苦しい死に方」
ミトラがヘルメットを抱えた。
「いや、失神させて捕える気でしょう」
と、ロウロイドさん。
一方、斧使いを追ったエルビーロ&オオールコンビの戦いも、始まっていた。
オオールお婆さんがつむじ風を幾つか起こし、斧使いの放つ球体エナジー弾の軌道を狂わせていた。
エルビーロさんたちには当たらなかったが、エナジー弾は辺りの樹木をヘシ折っている。
流れ弾はこちらにも飛んで来たが、ジュテリアンが金色盾で受け、破壊していた。
ついにツムジ風が魔族の一人を捕らえ、盾ごと巻き上げる。
「あーーれーー!」
悲鳴を上げる魔族。
エルビーロさんは盾を脇に添えて、巻き上がった魔族に走り寄り六角棒を振った。
その剛棒は、魔族の尻を打った。
(さすがはお坊さん、殺生は避けるんだ)
と、ぼくが感心したその刹那、
ツムジ風の強風に敵がクルリと上下を入れ替え、エルビーロさんはその下になった魔族の頭を強かに打ち据えた。
頭をカチ割られ、血飛沫と共に舞う魔族。
「ひゃあ。お尻に当たってたら、割れ目が三つに増えてたじゃん」
「野蛮なお坊さんねえ」
ミトラとジュテリアンが騒いでいた。
「野蛮も何も、ありゃ、おっ死んだろう」
と、ゴルポンドさん。
残る一人の魔族は、雑木林を出ようと急いでいるモヒカンコンビたちに迫っていた。
オオールさんのツムジ風が、追いつけそうで追いつけないでいる。
疾走が自慢の魔族であったらしい。
「まずい。ありゃ、やられるぞ」
飛び道具を持たないロウロイドさんが焦った声を出した。
モヒカンコンビ、ザミールさんとカメラートさんが逃げるのを止め、向きを変えて抜刀する。
「そちらのお嬢さんを置いていけば、無体はせん」
魔族も足を止めて言った。
お嬢さんとは、マークンドラさんの事らしい。
「断る。仲間を魔族には渡さん」
魔族を前に長剣を構え、ザミールさんが言い放った。
「そうだそうだ。だいたいお前、後方不注意だぞ」
カメラートさんが律儀に忠告した。
「下手な誘いだな。後ろがどうした」
魔族が笑った。
その魔族の背に、ジュテリアンが射っていた卍手裏剣が盾を破壊して刺さった。
魔族が立ち止まったので、間に合ったのだ。
が、卍は魔族の胴を貫くほどではない。
そんな事をすれば、仲間を巻き込む心配があったからだろう。
「がっ!」と叫んで仰け反った魔族に剣を振るうモヒカンコンビ。
X字に紫紺の血が吹き出た。
背中に卍を刺したまま、頭から、どう! と倒れる魔族。
背中の卍は、円盤型の盾に戻り、消滅した。
爆発はしなかった。
それ以上の雑木林の破壊を避けたのだろう。
魔族を追っていたオオールさんのツムジ風も消えた。
また雑木林の外に走ってゆくモヒカンコンビ。
「回復が間に合うかも知れない。行って来る」
と言って、ジュテリアンは、フーコツたちに走った。
「魔族を助けるのか?」
と、ゴルポンドさん。
「殺す気はなかったような攻撃だものね」
とミトラ。
「あ、あの凄まじい火球攻撃がか?」
ロウロイドさんは大いに驚いたようだった。
次回「魔族VS寄せ集め部隊」(前)へ続く
次回、第百五十七話「魔族VS寄せ集め部隊」前編は、来週の木曜日に投稿予定です。
清書の際に付け足した台詞が、その場にいないハズの人物だったので、慌てて書き直した。
危ない! すでに手遅れ気味だけど。




