「突入! クカタバーウ砦」(前)
砦の石壁よりも高く跳び上がったので、石壁の回廊と中の街の様子が良く分かった。
砦中央の広場付近に居た三匹の火吹き大蜥蜴が、こちらを見上げ、大顎を開いた。
サウラーの近くの魔族が、上空のぼくを指さして何か叫んでいる。
おそらく魔獣使いだ。
「火球が来るぞ!」
ぼくは拡声器を使って、大音響で警告した。
砦を遠巻きにしていた北の街道の群衆が、慌ててさらに後方に避難してゆく。
砦を追い出された警備隊員や、旅の冒険者たちが、頭上に光の盾を展開した。
一枚物から三枚物まで、さまざまだった。
盾の色も青や、緑や、赤や、黄や、茶などカラフルだった。
三匹のフーヌイサウラーは果たして、火球をそれぞれ口から射出した。
が、サウラーにさほど反動を受けた様子はない。
わずかに頭部を反らした程度だ。
これがこの世界の魔法か?
反動を気にせず大容量、大質量のエナジーを射てるのか?
うへーー?! である。
三つの火球が空中で合体して大火球となった。
絡み合いながら、上昇してくる。
魔族は当然の事ながら、砦の投石器を使ってぼくに石を投げて来た。
回廊に立つ魔族も、火矢を射ってくる。
狙いが正確で助かった。
ハズれると、砦の外の群衆に落ちる可能性が高かったからだ。
ぼくは青の盾を張った。
サブブレインが、
『笑止』と言って盾を突き抜け、火矢、投石を四本の腕でほぼ叩き落とす。
たまに火矢が曲線を描いて盾を貫き、身体に当たった。
たぶん、魔力で飛翔補正が掛かっていたのだろう。
(技術が高いな。ヤバいかも、此奴ら)
と思った。
ぼくが魔族どもの気を引きている間に、他の突入隊は、立ち入り禁止エリアに跳び出している。
と同時にフーコツさんが、指揮棒のような短い攻撃杖を振って水球を出現させ、射ち出していた。
最初は小さかった水球は上昇するに従って、みるみる膨らんでいった。
質量の増大である。大大水球である。
砦から飛んで来た大火球に衝突する大大水球。
大火球と大大水球は衝突した瞬間に、高熱と水圧によって大爆発を起こした。
大量の水滴とともに、火の雨も砦の内部や石壁に降りそそぐ。
群衆からの、
「火事だ火事だーー!」
の声にかまわず、石壁の回廊で盾を頭上にも展開させて逃げ惑う魔族に対して、フーコツさんは高速水球を連射した。
わずかに身を揺らしたばかりである。
やはり反動は、余り生まれ無いのかも知れない。
どこに逃してるんだ?! と思わないでもなかったが、世界が違うのだから、そんなもんか、とも考えた。
光の盾を貫かれ、次々と姿を消す回廊の魔族たち。
水球の勢いに負けて砦の内側に落ちたのだ。
群衆からは、またも地鳴りのような歓声が起きた。
高速水球を見て、打ち合わせ通り、ただちに降下するぼく。
フーコツさんだけでなく、ミトラ、ジュテリアン、ゴルポンドさんが、立ち入り禁止エリアの一ヶ所に集まっている。
突入部隊だ。
「無茶は止めろ!」
と叫ぶ金青鎧の鼻髭男。
すみません。
勝手してます、ロウロイドさん。
『消火! 消火!』
と喚くサブブレイン。うるさい。
水も大量に砦内に落ちて行ったし、消火に役立っているのではないだろうか?
地上に降り、突入隊四人を抱えて、再び大ジャンプするぼく。
「こんな時だろ、『当たって砕けろ!』って」
と、ゴルポンドさん。
「あっ。大勇者サブロー語録」
と、喜ぶミトラ。
いやそれ、ぼくの世界からの転用だから。
しかし、やってるな、サブローさん。
間違いない。
大勇者サブローは、この世界の過去に時空転移した、ぼくの世界の現代人だ。
重量はかなり増加したが、ブースターの火力は強く、軽やかに石壁を越えた。
ぼくの周りに、金色、銀色、紫色、緑色、そしてぼくの青色盾が発生した。
金色、銀色、紫色など、三層になっていた。
ぼくも気張れば、ニ層に出来る。
心労が大きいから、やらないけど。
砦の広場を見ると、魔獣使いらしき魔族は、指示どころではないのだろう、燃える地面を走り回っている。
そして当のヌイサウラーたちは、ぼくらを見上げて再び火球を吐いた。
「サウラー、身体が燃えているのに攻撃してきたわ!」
と驚くジュテリアン。
「学習能力がないのか?!」
苦笑して、盾のない足下に杖先を突き出し、再び大水球を打つけるフーコツさん。
上から下に向かっての放出である。
火球と大水球は、またしても激突と同時に大爆発を起こした。
頭上の盾を足下に回す皆さん。
盾に守られたぼくにも爆発の衝撃が伝わり身体を揺らし、突入隊に悲鳴を上げさせた。
「離さないでよ、パレルレ!(ミトラ談)」
「信じてるわよ、パレルレ!(ジュテリアン談)」
「ワシは信じたぞ、今!(フーコツさん談)」
フーサウラーや近くに居る魔族の頭上に「火の雨」が雪崩落ちて行った。
石壁が邪魔で見えていないはずだが、
「ああもう、骨は拾ってやる! 頑張って来い!」
と叫ぶ鼻髭男さんの声が聞こえた。
またも、
『消火! 消火! 消火!』
むやみに叫ぶサブブレイン。
こいつ、大魔王大戦がフラッシュバックしてパニクってんじゃないのか?
(『御意ーーっ!』)
やっぱりか。
「高度を維持しろ! 消火してやろう」
と、フーコツさん。
足元の盾を側面に回す皆さん。
「もはや空中停止は限界です。下降速度の減速が精一杯です」
バッテリーのエナジーを足の裏のブースターに回して噴かせ、降下を遅らせるぼく。
フーコツさんは、その指揮棒のように短い杖を振り、
「吹雪け! 無能なる空気!」
と詠唱した。
もはや地上まで三十メートルくらいか?
杖先から白い泡が広範囲に拡散し、たちまちの内に火が消えた。
酸素遮断の魔法か?!
「凄え」息を呑むゴルポンドさん。
「二十 分ほどで消えてしまうポンコツ消化液だがな」
と、苦く笑うフーコツ。
「炎はワシが鎮火させる。お主らはフーサウラーと魔族を倒すのじゃ!」
「パレルレ、フーサウラーを倒す。奴の上に落として」
と、ミトラ。
「オレも頼むぜ」
と、ゴルポンドさん。
求めに応じて、降下しながらミトラ、ゴルポンドさんを投げ捨てた。
フーサウラーは泡まみれになり、火が吹けずに踠いている。
白い泡のせいで、視覚も遮られているんじゃないか?
その頭上に落下して、ミトラは一撃で火吹き大トカゲの大きな頭を砕き、ゴルポンドさんは、隣の大トカゲの右腕を大剣で斬り落とした。
次回「突入! クカタバーウ砦」(後)に続く
読んで下さった方々、ありがとうございます。
次回「突入! クカタバーウ砦」後編、は明日に投稿します。
「続・のほほん」も、懲りずに投稿します!
また明日!




