「黄昏の砦」(後)
「カメラートさんとザミールさんは、黄昏の皆さんとどうやって知り合ったの?」
考える前に好奇心でモノを言うミトラ。
「あたしたちは、エルビーロ隊長とはアギアの無頼団退治で知り合ったわけだけど」
「モヒカンさんたちとは、エルビーロさんとは全く違っていまして……」
「そうそう。野盗団とモメている所に出会ったのぢゃ」
と、話し出すマークンドラさんとオオールさん。
「全く同じじゃん」
と、突っ込むミトラ。
「いえ、モヒカンさんたちを野盗だと思って、野盗団に加勢したんですよ」
「拙僧はすぐに止めましたぞ。アギアの仲間ですからな」
「はい、笑いを堪えながら、止めてくれやした」
「そこで彼らに今回の『魔族討伐作戦』を聞かされましてな、参加を決意した次第です」
エルビーロさんが言った。
「我ら黄昏の新リーダーの、エルビーロさんのお知り合い、しかもアギアと言う街の無頼団の撲滅に活躍された方々と聞いて、私もオオールさんも参戦に否やはありませんでしたわ」
「それではゴルポンドさんたちの宿屋に行きますぞえ」
「引き潮の皆さんも、大喜びですぜ」
カメラートさんが嬉しそうに笑った。
との事で、宿を出てぞろぞろとゴルポンドさんたちの宿屋へと移動するぼくら。
さして大きくもない村なのに、宿屋が幾つもあるのだ。
どれもみな村営なのだそうだ。
通りで客引きでモメなかったはずだ。
「あたしたち、なんだか責任重大になってない?」
「なっておるぞ、ミトラよ。たかが荒くれの冒険団に、過度の期待は困るのう」
「特にこういう巻き込まれ系は苦手だわ、あたし」
「心の準備が出来ぬまま、話が進んで行くからのう」
こそこそと話し合うミトラとフーコツだった。
この二人は基本、自由で気ままな旅がしたいのかも知れない。
ゴルポンドさんたちの宿は、ぼくたちの宿と同じようなレンガ造りの二階建てだった。
「お邪魔しますよ。引き潮の仲間を連れてきました」
勝手知ったる感じて、受け付けを顔パスで通るモヒカンコンビ。
二階の部屋に居たのは『引き潮の海』の新入り、アマゾネスのギュネーさんだった。
ブワッとしたボリュームのある銀髪、鮮やかな真紅のワンピース。
ワンピースがミニでワンショルダーなのも以前のままだ。
下着の金色も。
ノックをしたら、
「どうぞ。鍵は掛かっていません」
という返事だったので、扉を開けたら、彼女が柔軟体操みたいな事をやっていたので、バッチリ、下着の金色を見たのだった。
逆立ちのまま、扉から入るぼくたちを見て、
「先生!」
と叫ぶアマゾネス。
「ギュネー、息災であったか?」
両手を広げるフーコツ。
即刻、交わされるフーコツとギュネーさんの熱き抱擁と接吻。
若干、引いている「黄昏の砦」とモヒカンコンビ。
「男どもは、警備隊の屯所に鍛練に行きました」
「鍛練に? 気合いが入っておるな」
「普段から、『もっと強くならないと、世の中の役に立てない』とか、暑苦しい事を言っていますから。特にゴルポンド」
「熱血漢じゃのう」
「あ、そうそう。護符ですけど、主人のセネクト婆さんが、黒の盾を発現させた黒騎士様に痛く感激しちゃって、格安で売ってくれました、先生!」
「おう。目論見通りになったのう」
と、フーコツ。
「本物の黒騎士は黒盾を張る」とハッタリをカマしていたのが、本当になってしまったのだ。
と言うか、バンガウアさんは本物級の偽黒騎士だ。
「お陰様で、皆さんに頂いたお金が余って、武器も強化出来ました」
と、攻撃杖を見せるギュネーさん。
が、残念ながら、その灰色の杖と、以前の杖の外見の差が、ぼくには分からなかった。
内緒だが。
「引き潮の海」は全員、五層の白銀の盾を張れるようになりました、先生」
「おう。アルギュロスは物理攻撃に強い良い盾だ。古典的なワシの盾は、物理には若干、弱いからのう」
「ラファームの護符屋さんには、アヤメさんも一緒だったんでしょ? 彼女の盾は?」
と、心配になったのか、ミトラがたずねた。
「アヤメさんは本人の希望で、紫色の五層の盾になりましたよ」
「見る目があるじゃん!」
ビオレータ仲間が出来て喜ぶミトラ。
「黒騎士様は黒のままですが、八層まで発現出来るようになられました。というのも、『人型に味方する魔族専用』という護符を、セネクト婆さんの旦那様が作っていたから」
だそうだ。
「えーー。彼奴だけレベルが違ってんじゃん」
驚くミトラ。
声こそ出さなかったものの、ジュテリアンもフーコツも驚いた顔を見せていた。
ぼくも人間体だったら、同じ顔をしたと思う。
「魔王ロピュコロス軍が魔王スハイガーン軍の強襲を受けた時、バンガウア殿は、護符屋の強化を受けた身体で敵の四天王と戦ったのであろう?」
「そうです」
即答するギュネーさん。
「そうか。スハイガーンの四天王も災難であったのう」
「バンガウアさんは虚偽の死亡を経て、晴れて自由の黒騎士様となられました。めでたい事です」
「うむ。その辺の事も連絡は受けておる。実に慶賀の至りじゃ」
「どれ、ゴルポンドさんたちの鍛練を冷やかしに参りましょうぞ」
オオールさんのその声で、新たにギュネーさんを加えたぼくたちは宿を出た。
またぞろぞろと、今度は村の屯所の鍛練場へと移動した。
次回「じゃあ、また後で」(前)に続く
次回、第百五十四話「じゃあ、また後で」前編は、明日の土曜日に投稿します。




