「ショシャナ村の出会い」(後)
お風呂が広いかどうかは未確認のまま、ぼくたちはカメラートさんが泊まっている宿屋に宿泊する事になった。
レンガ造り二階建ての、普通な宿だった?
玄関の隅の、案外広い空間で秘伝のぬるま湯に浸かり、履き物の泥を落とす三人娘。
ぼくは四本足だしゴーレムなので、「面倒な奴」と言う表情が従業員の顔に出ていたが、仕方がない。
ゴーレムは心が無い、と思われているんだから。
そして二階の部屋を取った。
「兄貴に会って下せい。兄貴もきっと大喜びでさあ!」
と言うカメラートさん。
兄貴とは、カメラートさんよりはマトモそうなシングルモヒカンのザミールさんの事だ。
ぼくたちは、自分たちの部屋も確かめず、カメラートさんの部屋にそのまま流れて行った。
ノックもせずに扉を開けるカメラートさん。
ザミールさんは椅子に座って本を読んでいたが、半泣きの顔になり、
「蛮行の皆さん! ききききききっと来て下さると思っていましたよっ!!」
と、叫んだ。
「きっと来て下さると思ってました!」
は、無頼団事件のアギアの街でも言われた気がする。
「言っておくが、この村に来たのは、たまたまじゃ」
「そうそう、とある強行軍で皆んなバテちゃって」
「えっ?」
と言って顔を見合わせるモヒカンコンビ。
「クカタバーウからの連絡を、見てないんですかい?!」
と、カメラートさん。
「この顔は、クカタバーウと連絡を取ってない顔だ!」
看破してしまうザミールさん。
「いかにも!」
居直って言うフーコツ。
そして知らされる、スパイ軍師ムンヌルさんの、『魔族スハイガーン軍討伐作戦』。
なんでも、
『名も無い「名剣」で釣って、魔族がノコノコ現れたところを退治してみよう』と言う話であった。
またスハイガーンだ。
ムンヌルさんがスハイガーン軍に潜り混んでいるので、お試し作戦となるとスハイガーンになるのだろう。
甚だ戦力を減らしたと言うのに、スハイガーン軍が釣られるのだろうか? と言う心配はある。
「はい? 『英雄の剣・カープトパス』ですって?」
と、ジュテリアン。
「『英雄の剣』って、聞いた事ないんだけど」
と、ミトラ。
「ムンヌルという方の創作剣です」
すらりと答えるザミールさん。
「『伝説シリーズより昔からあった古代神の武具なるぞ』と言う設定だそうです」
「それはともかく、ザミール殿。お主、何の本を読んでおった?」
と、話題を変えるフーコツ。
確かにぼくも気にはなっていたけども。
「なっ、何を言い出すんですか、フーコツさん。話を逸らさないで下さいよ」
少し怒って見せるザミールさん。
「ムンヌルと言う方は、魔族に潜り込んで内側から魔王軍を崩壊させようと、命懸けで暗躍している偉人なんですよ。ちゃんと聞いて下さい」
「いや、そもそもムンヌルさんを魔王軍に潜り込ませたの、フーコツだから」
注釈を入れるミトラ。
げげげっ?! と言う顔をして、
「げげっ!」と叫ぶモヒカンコンビ。
「あのカバーは『妖魔大全』と見たが、いかに?」
「ああそうですよ。児童書ですよ。愛読書なんですよ。それが何か?」
居直るザミールさん。
「『妖魔大全』なら私、パレルレに預けてるわ」
と、ジュテリアン。
「おお、パレルレさん、痛恨の友よ!」
ぼくの手を握るザミールさん。
「違います。預かっているだけです」
ザミールさんの勘違いを訂正するぼく。
「ワシもパレルレに『妖魔大全』正、続、新の三部作を預けておるぞ」
「おおっ、ここにも魂の友がっ!」
「ザミールの兄貴、あのう、ムンヌルさんのスハイガーン軍討伐作戦の話を」
「おお、そうだった。それでですね、スハイガーン軍は早くも『英雄の剣』の引っこ抜きに動き出しているそうなんです」
「ところが、コチラがまだ揃っていないんでさあ」
「コチラとは何じゃ?」
「えっと、オレら二人と『黄昏の砦』と『引き潮の海』は、もうこの村に到着しておりやす」
と、カメラートさん。
「おう。引き潮とな。ゴルポンド殿のチームも作戦メンバーか。それは頼もしい」
「頼もしい! で、他は?」
と、ミトラ。
「蛮行の雨の皆さんが今、到着しましたので、残るはランランカとおっしゃる白色の麗人と、偽黒騎士様たちです」
と、ザミールさん。
「ランランカさんには、崖から落ちそうになっている所を助けて頂きました」
「うお。ランランカも加わっているんだ」
「ああ、本当に『世のため人のため』の活動を始めたのね」
「災い転じて福となす、か? 彼奴は攻撃魔法も、そして今や超絶回復魔法も操る。組めば頼もしい味方となろう」
三人娘がそれぞれに、元転生官ランランカさんを評した。
「お、お知り合いで?」
と、カメラートさん。
「さすがは蛮行の皆さん。ランランカさんは俺たちの命の恩人ですよ!」
ザミールさんは嬉しそうに言った。
「六人の忍者を配下に従えた、凶行の麗人でさあ」
うん。ランランカが汚れ仕事を嫌っても、六人の下僕がやってくれるだろう。
「で、ニセ黒騎士とは、バンガウア殿であろうな?」
やや前方に身体を傾けるフーコツ。
「ユームダイムで雷のガシャスを退治したニセ者様ですよ」
と、ザミールさん。
「蛮行の皆さんとの共闘作戦であったと聞いておりますが」
「おおう。バンガウア殿が到着すれば、万人力じゃ。問題は無くなるぞ」
頼る深さを口に出してしまうフーコツ。
「じゃあ、アヤメさんやディンディンちゃんも来るんだ!」
嬉しそうに言うミトラ。
「ムンヌルさんが言うには、ニセ黒騎士ありきの作戦なのだそうで」
と、ザミールさん。
「して、バンガウア殿は今、どの辺りにおられるのか?」
「そ、それがどうも……、『引き潮の海』の皆さんも、女街ラファームの護符屋で別れたきりとの話でして……」
「コチラに向かっているのは確かか?」
「はいっ、それはもう!」
元気になるザミールさん。
「『そちらに向かっている』と言う一報は、クカタバーウからありやしたんで」
と、カメラートさん。
「ふむ。今は連絡が途絶えておるのか?」
「はい、左様でして……」
またしても不安そうな目になるザミールさん。
「道に迷った年寄りを助けて一緒に迷っておるのかも知れんな」
と、フーコツ。
「ありそう!」と、ミトラ。
「崖から落ちた幌馬車隊を助け上げているのかも知れませんね」
「それもありそう!」と、ミトラ。ついでに、
「魔獣の群れに囲まれた国軍の砦を助けているのかも」
と、言った。
「そこまで馬鹿ではあるまいが、まあ、待つしかあるまい」
フーコツは話をむすんだ。
「んで、『タソガレの砦』って人たちは?」
そのミトラの問いに、壁を指して、
「隣の部屋にいらっしゃいます」
と答えるザミールさん。
「大丈夫なんじゃろうな、その人物たちは?」
警戒の色を見せるフーコツ。
「残念ながら初対面じゃないですよ、蛮行の皆さんは」
そう言って、ザミールさんはニヤリと笑った。
「オイラたちも、蛮行の皆さんも、リーダーとはすでに見知った顔でさあ」
やはりニヤニヤしながらカメラートさんが応じた。
「行きましょうぜ、お隣に」
そうしてぼくたちは、今度はお隣さんに突入した。
次回、「黄昏の砦」に続く
次回、第百五十三話「黄昏の砦」前編は、来週の木曜日に投稿予定です。
お盆の終了。連投の終了。在庫、頑張らなければ。




