「見参! プルプルンローブのフーコツ」(後)
「何者?!」
叫んで背後の短剣を抜くジュテリアン。
「貴様、いつからそこに居た?!」
背中の大剣を抜き、構えるゴルポンドさん。
「ひゃあ」
「ひぃ」
「うわ」
「あれぇ」
などと声を上げ、ゴルポンドさんの背に隠れるスブック親方とお付きの美女二人と、コラーニュさん。
「ああ、すまぬ。我が名はフーコツ。魔法使いだ?」
垂れ目、垂れ眉、豊乳の、ぼくの偏見で言えば癒やし系のお姐さん。
と言う人間似の何かな人だった。
「隠匿の呪いで身体を隠して近づいたと思うが良い」
黒と銀の斑の髪は、真紅のリボンで括られていた。
髪は腰まで伸びている。長い長いポニーテールだ。
背は、ジュテリアンより高い。
コラーニュさんよりは低い。
百七十五センチくらいか?
「仙人をめざす旅人。怪しい者ではありますまい?」
なんで疑問系で喋ってる?
人間の言葉を学んでいる途中なのか?
(『良好』)
良好ってなんだよ、サブブレイン。
お前が「人間似の何か」とか言うから、ぼくの腰が引けてんだろうが!
「充分怪しいでしょ?! なんで姿を消して近づくのよ」
短剣を構えたままで言うジュテリアン。
「いや、盗み聞きをしようと思ったら、姿を見せては駄目であろう」
「パレルレ、何してたの?!」
ぼくはミトラに叱られた。
「その人に声を掛けられるまで、見えなかった」
ぼくは頭を百八十度回転させ、大きな赤い電子眼を「人間似のその人」に向けた。
球体関節の四本の腕も、背後に向けた。
上半身は半回転させなかった。
このままの体勢の方が、背中のブースターで攻撃出来るからだ。
「ブースター!」
ミトラが鋭く叫んだ。
「いや、話を聞こうよ。この人、襲って来なかった訳だし」
サブも「ブースター!」の指示に対して、『御意』とは言わなかった。
きっと敵意がないんだ、この大きな荷物を背負った人間似
の女性? は。
「それで今の話だが、援軍が到着した頃には、魔族は目的を達成、撤退済み。と言う展開は俄然あり得よう」
その真紅の魔法使いは、真紅の唇をニタリと歪めた。
言葉通り、ずっと話を聞いていたようだ。
「故にワシも突入に加えてやるが良い」
「ワシさんが、魔族のスパイではない、と言う証拠はないぞ」
「言うのう、オーガの大剣使いよ」
プルプルンローブの女似の何かが笑った。
「ワシはコプス魔法学校の教師であった。が、ある魔法実験の失敗で、体育館を吹き飛ばしてしまい、失職したと思うが良い」
「しくじり教師じゃねぇか!」
「失職証明証なら持っておるぞ。旅人証明証もじゃ。魔族ではない証拠かも知れん」
(人間似の何かな人、味方?)
(『良好』)
(じゃあ、このまま様子見で行こうか?)
(『良好』)
ぼくとサブは「良好」で落ち着いた。
「ある魔法って何?」
「聞く必要があるのか? ドワーフの娘よ。爆裂魔法に決まっておろうが? そこで作戦じゃが、まず、そなた」
と、ぼくを指す人間似のフーコツさん。
「には、囮になってもらう」
「こら、魔法使い、勝手に話を進めるんじゃねえ」
「具体策があるなら言うてみよ、大剣使い」
フーコツさんが、片方の眉だけピクリと吊り上げて言った。
「ワシは空を飛ぶほどの風魔法は使えぬので、あの三十ケート(三十メートル)の石壁は無念にも越えられん。故に相談しておるのであろうよ」
「フーコツさん、水魔法は使える?」
と、ミトラ。
「うむ。爆炎、爆水、爆発は得意に見えよう?」
「姿が消せるんだったら、中の様子を見て来れば良いんじゃないか?」
ゴルポンドさんが、もっともな事を言った。
「隠匿の呪いは、三十年に一度しか使えぬ。しばし待たれよ」
「そ、そんな大切な術を、なんで盗み聞きで使っちまうんだよ!」
怒るゴルポンドさん。これも、もっともかも知れない。
「突入するなら、混ぜて欲しかったからのう。やる気ではおったが、やはり一人は不安じゃ」
「一応、この方、フーコツさんの話を聞いてみましょうよ」
ジュテリアンがそう言い、
『御意』と、サブブレインが同意した。
結局、人間似の何かかも知れない魔法使いフーコツさんの雑な突入案で行く事になった。
フーコツさんは、魔法学校に居た警備のメタルゴーレムで、だいたいの性能は見当がついたので、最初はぼくだけ、
「借り受けて突入する」積もりだったと白状した。
しかし、お互いを紹介し合い、ぼくに人の魂が宿っている事を知ると、
「むっ? 転生者の魂が? 如何なものか?! 壊れるだけに留まらず、死ぬと申すかっ」
と、狼狽を見せた。
「やんごとなき事態にあれば、其方の落命、しかと見届けよう!」
と、ぼくの頓死前提で語るフーコツさん。
「大丈夫っ、パレルレ頑丈だからっ!」
ただただその一点で、ぼくを励ますミトラだった。
フーコツさんは、背負っていた大リュックを地面に置き、額のゴーグルを目に装着し、ミトラはぼくの中に入れていたヘルメットとガントレットを装着してフルアーマーとなった。
「準備完了」
と言い出す女性陣。
「オレもいつでも行けるぞ」
と、ゴルポンドさん。
ぼくはマントをスブック親方に預け、そして突入作戦通り、ブースターを噴かせて跳び上がった。
囮&偵察である。
石壁の回廊に立つ魔族どもが、空中高く舞い上がったぼくを見上げ、驚いた顔をして牙のような八重歯を剥いた。
地上の群衆は、まだ何もしていないのに歓声を上げ、金青の兵士たちは怒鳴った。
「止めろ、馬鹿野郎!」
「誰だ、あのポンコツを飛ばした奴はっ?!」と。
「重罰ものだぞっ!」
とは鼻髭の、たぶんロウロイド氏だ。
次回「突入! クカタバーウ砦」(前)に続く
次回、第十七話「突入! クカタバーウ砦」
前編は、木曜日に。
後編は、金曜日に投稿します。
次次回、第十八話「奪還! クカタバーウ砦」
前編は、土曜日に。
後編は、日曜日に投稿します。
同時に、回文ショートショート童話「続・のほほん」を
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