「立て! メタルオーパーツ」(前)
「独裁ムン帝国の金属人形は強かったそうだから、試す価値はあると思うわ」
少女は小手を振って、ぼくを招いた。
「ほら、メタルゴーレムのお団子頭と重なってちょうだい。今から幽体離脱の逆をやるんだから」
ぼくは、地面から斜めに生えている、そのゴーレムだかオーパーツだかの楕円形頭に自分の身体を重ねた。
ぼくの身体は斜めに出来なかったので、ゴーレムの楕円頭は、ぼくの霊体の中間あたりにあった。
人間を触ろうとした時と同じく、ぼくのモヤっとした身体は反発もなくやすやすとゴーレムの頭を突き抜けている。
「じゃあ、かなり痛いらしいけど、死ぬ訳じゃないから」
と言って少女はぼくの最上部を両手で掴んだ。
(うお。霊体? を掴めるんだ)
(いやその前に、話が違って来てないか?)
(痛くないんじゃなかったのか?)
「えやあっ!」
一閃するドワーフ娘の声。
ガントレットで鷲掴みにされたぼくの煙頭が、ゴーレムのラグビー頭に押し込まれた。突き抜けなかった。
しかしその衝撃はかなり痛かった。
「ぐぎゃあっ!!」
あまりの痛さにワンテンポ遅れて叫び声を上げ、ぼくは地面を割って半身を起こした。
そのぼくの反応を見て、
「おお、珍しく成功した?!」
と両手を打つドワーフの娘。
「大丈夫、モヤっとした霊体はみんな金属身体に吸い込まれたわよ」
「ありがとうございます」
激痛に目眩を覚えながら、地面を押し除け、起き上がった。
がっつり埋まって、身体には結構な量の土や石が被さっていたが、さしたる労力もなく立ち上がれた。
これが場違い工芸品のパワーか?!
ずんぐりとした胴体。
太い筒状の上腕部。
ゴツゴツの前腕部。
そして四本腕だった。
大きな手に、丸っこい指がそれぞれ四本ずつ。
計十六本。
太い筒状の大腿部、ゴツゴツの下腿部。
そして四本脚だ。
足は十字型だった。
十字に伸びているのは、指か?
十字指は自在に曲がって、器用に物を掴んだ。
身体の上には、楕円形頭が乗っかっていた。
ガニ股状態だが、背丈はある。
ぼくはドワーフの娘より頭みっつ分は高かった。
いや、向こうが低いのか。
そしてこの身体は、太陽光をエナジーにしているのが分かった。
野晒しだったので、光を吸収し、可動に充分なエナジーを蓄えていたのだ。
魂が侵入した事で気力がメタルボディに拡散してゆく。
腕と脚は動いた。
しかし十六本の指に感覚はなく、動かなかった。
土の付いた黒っぽい身体を、古戦場の隅にある井戸の水で洗ってもらった。
埃と土の下から、金属光沢の黒色迷彩が出て来た。
なんだか危険な色合いに思えたが、
(戦争兵器だから仕方ないか)と考え直した。
自動車で言うと、前照灯。
制御灯。
方向指示器などが、身体の下部に付いていた。
照明器具なのは間違いないだろう。
ヘッドライトのある方(たぶん、こっちが前)の頭部に、大きな縦長の楕円形の電子眼がふたつ、付いていた。
色は赤。
そしてそのデカいのとは別に、真ん丸で赤くて小さい目が後頭部にもふたつ、さらに肩に左右ひとつずつなど、電子眼は合計九つあった。
これだけあれば、便利かも知れない。
使い熟せれば、だけど。
「じゃあ、最後の仕上げをするね」
と、ドワーフの娘。
「今のままだと、不十分だから。何かの弾みで身体から魂が剥がれちゃう心配があるから」
「弾みってなんですか?」
「突風とか、殴られたハズミよ。じゃあ、じっとしててね」
ぼくよりずっと背が低いドワーフの娘は、メタルボディの脇腹の辺りに手を当てて、なにやら唱え始めた。
「大地の闇精霊よ、
天の闇精霊よ!
我が煩悩に答えよ。
忌わしき古の場違い工芸品に、
この異世界より来たりし哀れな転生者を、
迷える魂を定着させたまえ!」
詠唱ってヤツか?
張りのある声で、さらに続けるドワーフの娘。
「今、汝に愛しき名を与えん! 目覚めよ、パレルレ!!」
「パレルレ」
と言われた途端に、五体に衝撃が走った。
「ぐは!」
呻いてのけ反るぼく。
しかし、動がなかった指の先まで、神経繊維のように魂が染み透ってゆくのが分かった。
(こっ、これが覚醒感かっ?!)
ぼくは未知の感覚に酔った。
次回「立て! メタルオーパーツ」(後)に続く
「召しませ!(中略)ですか?!」第二話前編です。
後編は、遅くとも、今日の夕方5時頃までには投稿する予定です。
回文妖術師と古書の物語「魔人ビキラ」
回文ショートショート童話「のほほん」
の、第一部完結済み作品があります。
よかったら、のぞいてみて下さい。
「続・のほほん」は、とにかく連載中。