「火炎使いのルバイVS場違い工芸品パレルレ」(前)
「えっ?!」
武器を手に持ち接近するミトラとジュテリアンを振り返る侵入者。
火炎使いのルバイさんだった。
野良着姿だ。
昨日から今朝に掛けての強行軍に付き合った一般人である。
今日は休日になったのだろう。
ミトラたちの形相と手の武器を見て、
「あっ、違う! 違うんですこれは!」
身体をひねり、両手を上げるルバイさん。
「ああ。ゆっくりじゃったのう」
腹這いになったまま、ベッドの上で物憂げにつぶやく浴衣姿のフーコツ。
「うん? この有様か? 確かにルバイ殿に伸し掛かられておったが」
ルバイさんが背中から離れたので、身体を起こすフーコツ。
「ほれ、ここの所、パレルレに施術をしてもらっておらなんだろう? そこで、訪ねて来たルバイ殿に揉みしだきを頼んだのじゃ」
「で、ルバイさん。何の御用でしょうか?」
と、やや警戒気味に言うジュテリアン。
「えっと、昨日、高級肉を頂きまして、妻が恐縮いたしまして、お礼がてら焼き菓子を作ったので、些少では御座いますが、持参した次第です」
「そこの袋にどっさり入っておる」
ベッドの枕元の小さなテーブルを指すフーコツ。
「先に頂いたが、絶品であった。ルバイ殿の揉みしだきも、狂おしいほどに快感であった」
「昔は『揉みしだき屋』で働いておりましたので、不束ながら、頑張らせて頂きました」
胡座を掻くフーコツの横で、正座になるルバイさん。
「くくくくくく狂おしいほどにカイカン?!」
フーコツの言葉に興奮するミトラ。
「んむ。今でも『揉みしだき屋』は務まると思う。パレルレとはまた違った胸の高鳴りがあった」
脱げかけた片方の肩に、ローブを引き上げるフーコツ。
「実は施術は、妻には喜ばれております」
やや自慢げにルバイさん。
「フーコツさんの全身疲労は中々のものでした。我が街のいざこざで、今朝まで強行軍に付き合って頂いたせいかと」
頭を下げ、
「申し訳ありませんでした。誠にありがとうございました」
と言った。
「良いって事よ」
斧刃を引っ込め、棍棒をホルスターに戻すミトラ。
「あたしたちが一緒で助かったでしよ?」
「全くもってその通りです」
さらに深く頭を下げ、ベッドから下りるルバイさん。
「なんとお礼を言えば良いのやら」
「別にお礼を言われるほどの事ではなかったですわ」
と言いながら、自分のベッド横に移動して、メイド服を脱ぎ始めるジュテリアン。
寝直す気が満々だった。
「そうそう。旅をしていると、よくある、いや……、たまにあるシチュエーションよ」
ミトラも自分のベッドまで移動して、鎧を脱いでゆく。
その二人の様子を見て、
「そ、それでは儂はこれで」
と、扉に向かうルバイさん。
そのルバイさんを追って肩を掴み、
「ルバイ殿。パレルレの施術は知るまい?」
と言うフーコツ。
「後学のために味わってゆくが良い」
「そうそう。後学、後学」
ミトラがローブに着替え、首のタブをチャラチャラと鳴らした。
「どうぞこちらへ」
ローブに着替え終えたジュテリアンが、部屋の隅に置いてあった背もたれ椅子を持って来た。
「なにも取って喰おうと言うのではない」
フーコツが肩を掴んだまま、ルバイさんの身体を誘導してゆく。
「その背もたれ椅子に座るが良い」
「ななななんでしょうか? ゴーレムさんの施術を受けて、今後の妻への揉みしだきの参考にせよと?」
「うむ、その通りじゃ。パレルレの施術は、お主の揉みしだきをさらに向上させ、夫婦円満を盤石のモノとするであろう」
フーコツにうながされ、観念したのか素直に椅子に座るルバイさん。
「では、早速」と、ぼく。
まだ日没前だったが、ぼくはルバイさんの野良着の上から揉みしだいた。
「ふがっ」
「ふんがっがっ」
「うがっ、うがっ」
呻き始めるルバイさん。
「ええい、繁殖期蜥蜴」
例によって、自分の唇でルバイさんの口を塞ぐフーコツ。
嬌声は消え、「んぐ、んぐっ」と言う切なそうな溜め息(?)に変わるルバイさん。
フーコツの背に回そうとする両腕を、ミトラとジュテリアンに取り押さえられた。
が、それがために二人のふくよかな胸の感触を腕に受け、さらにうら悲しき声で悶えるルバイさん。
不意に唇を外し、
「か、噛まれた」
と、眉を寄せ、口を押さえるフーコツ。
「えっ? 噛まれたの?!」
驚くミトラ。
「どこを?!」
「仇は私が取りましょう」
ルバイさんの腕から胸と手を離し、彼の唇に「もがあ!」とばかりに襲い掛かるジュテリアン。
ルバイさんの薄くなりつつある頭部をヒシと掻き抱き、目を閉じ眉を寄せて、「んんっ、んんんっ」と乱れた吐息をしとどに漏らすジュテリアン。
「仇討ち? 本当に仇討ち?!」
ミトラは、ジュテリアンとルバイさんの接合部をガン見しながら、つぶやいた。
次回「火炎使いルバイVS場違い工芸品パレルレ」(後)に続く
次回、第百五十話「火炎使いルバイVS場違い工芸品パレルレ」後編は、明日の火曜日に投稿予定です。
今週は、日曜日まで連投予定です。
明日はお盆でお寺さんが来られるので、投稿の準備なんかが、狂います。
とは言え、そんくらい、日々の予定はありませんかも。




