「森にひそむ魔族VSフーコツ」(前)
小高い「荒野の戦場」が下り坂になった頃、荒野大大大サウラーに旗を立てに行ったタブルクさんが戻って来た。
「チャビム警備隊の獲物なので、手を触れぬよう、ひとこと書き添えて来ました」
と報告するタブルク隊員。
「勝手ながら、[蛮行の雨に退治を協力してもらった』と、書き足しました」
「協力じゃないだろう。全部、蛮行の皆さんの所業じゃないか」
頭を押さえるナズバンス隊長。
「ははっ、申し訳ありません。消してきます」
走り出そうとするタブルクさんに、
「あっ、そのままで良いです。皆さんと一緒にここまで来たからこそ、出来た駆逐ですから」
と気を使うジュテリアン。
人付き合いって、なんだか複雑怪奇で面倒だ。
荒野の遥かに、大森林が見えた。
「あの森が、守り神の棲家じゃな?」
指を差すフーコツ。
「はい。魔族ダイファの言葉に偽りがなければ、あれが守り神のお住い、ムハムハンの大森林です」
と、ナズバンス隊長。
「神獣様も、真っ直ぐムハムハンに向かわれますな。まず間違いありますまい」
と、タブルク隊員。
そして大森林の縁にポッカリと暗い大穴がある。
守り神の出て来た跡だろう。
それから、小魔獣の姿は見たが戦いになる事はなく、つつがなくぼくたちは進行した。
が、森までもう少しという所で、森林蜥蜴が立ち止まった。
「ピュルンピュルン」と、鼻を鳴らしている。
警戒音か?
「街の建物を壊した後、あたしたちを見て立ち止まった時も、ピュルンピュルン、言ってたよね」
と、ミトラ。
するとやはり、警戒音だ。
「うん? どうしたんだ。家までもう少しなのに」
と、ナズバンス隊長。
「森に魔族が居るので警戒しているのでしょう」
と、火炎使いのルバイさん。
「そうだった。しかし、このまま近づいても魔族には逃げられてしまうなあ」
そう。距離がまだありすぎるのだ。
今さらに頭を掻くナズバンス隊長。
魔族は四人、こちらは四倍以上の数だ。
警備隊と森林蜥蜴が一緒にいるのを見たのだ。
作戦の失敗を悟っているだろう。
逃げるのが常識、というか賢明であろう。
「パレルレ、森の探索を頼む。それから、ワシに望遠鏡を」
と、フーコツが言い、ゴーグルを装着した。
言われてぼくは収納庫から、ユームダイムの魔族事件の時にメリオーレスさんに貰った望遠鏡を取り出し、フーコツに渡した。
同時に、熱感知と暗視に望遠機能をプラスして、森の縁をガン見した。
「ああ、四つの熱反応が、木の陰から出たり入ったりしている」
「うむ。守り神が魔獣使いのダイファではなく、警備隊を連れて帰って来たので慌てておるようじゃのう」
ゴーグルの上から望遠鏡を見ていたフーコツは、
「よし。四人ともロックしたぞ」
と言ってミトラに渡した。
一方、警備隊の方も、小荷物係のリュックから何本もの望遠鏡を取り出して、代わるがわるに森を覗いていた。
「森の守り神様と魔獣使いを待っていた連中、我々の姿を見ても逃げませんねえ」
望遠鏡を覗いて、そう言ったのはタブルクさんだ。
「作戦は失敗、守り神が兵器として役に立たなかった事を今、知ったと思うのだが」
と、ナズバンス隊長。
「ひょっとして、あの魔獣使いのダイファが、この部隊のリーダーだったのかのう」
と、フーコツ。
「なるほど。隊長の姿がないので心配しているわけね」
と、ジュテリアン。
「しかしこの失敗を、魔族軍に持って帰ってもらわねばならん。のう、ナズバンス殿!」
フーコツの圧の強い物言いに負けたのか、
「そ、それはそうですね」
と成り行きで答えてしまうナズバンスさん。
「このまま接近しても距離があるので、逃げられてしまう。ここから卍を射って、三人を殺す」
ナズバンスさんを見て妖艶に笑うフーコツ。
「残りの一人は、報告のために『命からがら逃げ延び』てもらう。それでよろしいかな?」
「こ、この距離で倒せるのですか? 確かに卍は遠距離攻撃魔術と聞いておりますが」
「そのためにロックした」
と、ゴーグルを叩くフーコツ。
「外しはせん。一人にはほどほどの怪我をしてもらう。では、ゆくぞ」
銀色の盾を四枚、発現させ、フーコツは空中にXの形に手印を切った。
二本の指を立てた手を突き出し、
「卍!」と詠唱した。
今回はそれなりの発動演出が入ったが、毎回モーションが違うのが気になった。
気分でやっているから、仕方がないのだが。
円盤型の盾から変化した卍は、虚空高く舞い上がった。
「どっ、何処へ?!」
と、空を見上げるルバイさん。
「無念だが、森の樹々を切断してしまうじゃろう。樹を避けるようには念じてみるが」
自信なげに答えるフーコツ。
この際、森の木を切り倒すくらい気にしなくて良いと思うが、これは人間の自己中なのだろう。
卍は森の上空まで飛んだ。
森の中に居る魔族からは、見え難かったのではないだろうか?
それから急降下をして、広大な繁みに突入した。
位置的に、魔族の背後だ。
背後から襲おうというのだろう。
そしてほどもなく、ぼくたちの方向に飛び出して来る四枚の卍。
かと思ったら空中高く舞い上がり、円盤型の盾に戻って消滅した。
「パレルレ、どうであった?」
フーコツに聞かれ、
「絶叫がふたり、驚愕の声がひとり。その後、叫びながら逃げ去ったのは、驚愕の声の人物。と思う」
と答えるぼく。
「ん? 声がひとり足りんな。ロックの手応えはあったのじゃが、しくじったのかも知れん」
フーコツは無念そうに首をひねった。
「ともかく、魔族が片付いたんなら進みましょう」
と、ジュテリアン。
「魔族の声がひとり足りないんでしょう?」
と、ルバイさん。
「一応、四人倒れましたよ。起き上がって逃げたのはひとりだけです」
と、ぼく。
「あっ、守り神が進み始めた。やっぱり魔族がいるからイヤだったんだ」
と、ミトラ。
「やはり魔族は倒されたんだ。行こう」
ナズバンス隊長は、警備隊に前進を指示した。
森の守り神は無事に、目の前の森の大穴に入った。
後ろをつけるぼくたちに構わず、ヴァルトサウラーは奥深くにずんずん入ってゆく。
ムハムハンを通り抜けるのでなければ良いが。
ぼくたちは、恐る恐る森に踏み入った。
人間たちは冷んやりとした空気に包まれたはずだ。
もう、守り神の後は追わず、森の入り口でうろうろし始める警備隊と蛮行の三人娘。
絶叫がひとつ足りなかった理由はすぐに分かった。
ひとりは、首を掻き切られていたのだ。
「これでは、叫ぶ余裕はなかっただろう」
首に大きな傷のある死体を見下ろして、ナズバンス隊長がつぶやいた。
「魔族を倒した証拠を持って帰らねばならん。マントを脱がせろ。武器も持って帰るぞ」
「護符のたぐいは、褌の中ですかね?」
と言ったのは鼻髭のタブルクさんだ。
「そうだろう。護符も持って帰るぞ」
「フンドシはどうします?」
「武士の情けだ。そのまま履かせておけ」
残りのふたりは、身体をほぼふたつに裂かれていた。
「三人とも即死か。観念通りじゃ」
と、フーコツが安心したようにつぶやいた。
「紫色の血が続いているわ」
ジュテリアンが地面を指して言った。
そして、血の跡を追ってゆく。
次回「森にひそむ魔族VSフーコツ」(後)に続く
次回、第百四十八話「森にひそむ魔族VSフーコツ」後編は、明日の金曜日に投稿予定です。
週末に、いわゆる「お盆休み」に入るようですので、
「蛮行の雨」は、七日(木曜日)から十七日(日曜日)まて連投する予定です。
在庫が間に合うと良いなあ。




