「見参! プルプルンローブのフーコツ」(前)
クカタバーウは、南北に走る街道を塞ぐ砦だった。
つまり、関所だ。
関所で、小さな街だ。
東側の石壁は森に食い込み、西側の石壁はゆるやかに流れる大河の河原に刺さっている。
「蛮行の雨」と、大剣使いゴルポンド、見物人僧侶コラーニュ、さらに商隊の親方スブックとお付きの美女二人の、七人と一台で、東の森をほんの少し入った所で突入の相談をする事になった。
「魔族は、この東の森から出現したそうですな」
と、スブック親方。
「たった二十人ほどだったそうですが、巨大な火吹き蜥蜴を三匹連れておって、それで砦側はあっさりとパニックになってしまったようですね」
「そうそう、二足歩行のフーサウラー。凶暴で有名な黒種」
と、紫のアイシャドーのお付き美女。
「よくそんなの操れたもんだわ」
「魔族は、灰色のベストと褌で統一されているから、どこかの魔王軍の手の者だろうって言う人が居たけど」
と、もう一人の、緑のアイシャドーの美女。
うん。魔王ロピュコロス軍だ。
「一人だけ、紫色の肌をした、とびきり背の高い斧使いが居たって話です」
『爆炎のギューフ』と、サブブレイン。
「あっ、ジュテリアンの居た勇者団のリーダーを殺した奴」
ポンと手を打つミトラ。
「おお、仇討ちか!」
ゴルポンドさんが握り拳を作った。
「馬鹿言わないで。私は僧侶よ。そんな大それたこと考えていません!」
キッパリと否定するジュテリアン。
「見つけたら皆さんでブッ殺して下さい。私は、ギューフが殺される所を見て、せせら笑う役をします」
「フーサウラー三匹は砦の中に健在。火柱じゃなくて火球を吐くそうよ」
と、ビオレータシャドーの美女。
「うむ。第一次奪還作戦は失敗。投石、火矢、火球などはかなり正確らしいぞ」
と、スブック親方。
「空中を飛んで特攻した魔法使いは、すべて射ち落とされたんだそうだ」
「光の盾は役に立たず? ヤバいじゃん」
と、ミトラ。
「魔族は火炎を操る一団ですね。爆炎のギューフの手下なんですから」
ジュテリアンがそう言うと、
「威力の問題だな」
と、ゴルポンドが応じた。
「森の火災を消すには、森より巨大な水球が必要だろう」
「それだと森が破壊されてしまうでしょうが」
ミトラがゴルポンドの思考に怒った。
「なに、考えてんの!」
「なに考えてんの、と言えば魔族ども、何を考えてそんな少数で奇襲して来たんでしょうかね?」
長い回復杖で額をしごきながら、僧侶コラーニュさんが言った。
「二十人ばかりで、長く実効支配を続けるなんて、無理じゃないですか」
「そうか、何かの目的があってやって来て、ちょっと駐屯しているだけなんだ」
再び、ポン! と手を打つミトラ。
「じゃあ、ただ今、目的実行中よね、魔族ども」
「とすると、やはりワウフダンの援軍を待たずに突入すべきだな」
ゴルポンドさんは背中に背負った大剣の柄を叩いた。
「人質、いないんだったよね?」
と、ミトラ。
「うん、そうらしいわ」
と、クローロンシャドーの美女。
「でも、それって変よね」
腕を組むジュテリアン。
「人間側の動きを封じるためにも、人質は必須じゃない?」
「指揮者の趣味なんじゃないか?」
ゴルポンドさんも腕を組んだ。
「そうだ。一次特攻を失敗した後、地面に倒れて呻く戦士や遺体の回収は、魔族たちの方から休戦を申し入れて来たので実行出来た、と聞いたぞ」
と言ったのはスブック親方だ。
「ほら、そういう趣味の指揮者なんだよ」
「えーー、礼儀をわきまえてる訳? やりにくいなあ、爆炎のギューフ。でも殺すけど」
と、ミトラ。
「勇者の仇討ちなんだから」
そんな事を、こそこそと話し合っていると、
「お主たち、『勝手に突入!』とか考えておるのか?!」
と、背後で声がした。
後頭部の電子眼が、真紅のローブを着た女性が空間に滲み出て来るのを確認した。
たった今だ。
太い黒革のベルトをしていた。
下半身には長いスリットが入っていて、健康そうな太股が見え隠れしている。
ホルスターには、短杖を差している。
額には色付きのゴーグルがあった。
瞳は金色。
そして髪の毛は銀と黒の斑だった。
ぎゅっと絞ってある感じだ。
たぶん、後ろで束ねてあるのだろう。
「うわ、びっくりした!」
と、キョドるミトラ。
ぼくも姿が消えていた事に驚いた。
幻魔かよ?!
(『否』)
サブブレインが即答した。
(『人間似の何か』)
なに言っってんの、サブ。
幻魔より問題じゃないか、それ?!
次回「見参! プルプルンローブのフーコツ」(後)に続く
次回、
第十五話「見参! メラーローブのフーコツ」後編。
は、今日の午後に投稿します。
来週、第十六話「突入! クカタバーウ砦」
前編は、木曜日に投稿予定です。
後編は、金曜日に投稿予定です。
第十七話「奪還! クカタバーウ砦」
前編は、土曜日に投稿予定どす。
後編は、日曜日に投稿予定どすえ。




