表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
284/367

「ミトラVSセキワケ」(後)

「どうしたの? 怪我でもしたの?」

  さすがに心配そうに聞くジュテリアン。


「無理な踏ん張りを繰り返したので、(ツメ)()がれちゃった」

土俵から降りて来るミトラの足を見れば、両足とも流血していた。


「うわ、大変!」

叫んでジュテリアンは、抱えていた伝説の杖でミトラの足先を指すように持った。

  そのまま、

回復(ヒール)!」と詠唱する。


果たして八方に散る黄金色の回復光。

  (どよ)めき、身を倒す観客たち。

しかし、杖の先のミトラの足にも、間近(まじか)なので集中して当たった。

「上達したのう」と、フーコツ。


「その回復光? あんた、噂の聖女様かいっ?!」

  ドーンコさんが身を()らして叫んだ。

「そんな大それた者じゃありませんよ」

  早くも光を止めるジュテリアン。

「そうそう。光のコントロールが下手な僧侶じゃ」

  フーコツは両手をジュテリアンの肩に置いて言った。


「ああ。えらい言われようだな、あんた」

  少し(あき)れるドーンコさん。

「しかし名のある僧侶に違いあるまい」


「ジュテリアン、セキワケさんも治療してあげて」

  ミトラが、完治を確かめるようにジャンプした。

確かに、セキワケさんは席に戻るのにフラついていた。


「差しでがましくない? 僧侶然とした人が二人、付いたわよ」

  土俵の向こうを見て、ジュテリアンが言った。

「伝……、ムニャムニャの杖は、回復パワーが違うから」

  と、ミトラ。

「あたしはもう大丈夫だよ。ありがとう」


「分かった。行って来る」

  土俵をぐるりと回って、近づいてゆくジュテリアン。


ジュテリアンの回復放射を見ていたからだろう、彼女が近づくと、セキワケさんの方から頭を下げて、

「頼むよ、お嬢さん」と、首と足下(あしもと)を差した。

  足下の方は、(ふく)(はぎ)だろう。


「うんうん。思い切り蹴ったもんねえ」

素人(しろうと)相手にする事ではないぞ、ミトラ」

「相撲のプロじゃん。仕方ないわよ」


  土俵の向こうで再び辺り構わず放射される回復光。

叫び声やら念仏らしきモノが広場に響いた。


ミトラとセキワケさんの治療を終えて、いよいよオオゼキさんとミトラの対戦である。


のそりと土俵に上がったオオゼキさんは、オーガのゴルポンドさん級と言うか、二メートルをゆうに超えていた。

  対峙(たいじ)するミトラは、いかにも小さい。

確かに大相撲って、無差別級競技だけど。


行司さんの、「見合って!」の声が掛かり、ミトラとオオゼキさんがファイティングポーズを取って構える。

  そこに、

「わははははははははははは!」

  と言う、やや甲高(かんだか)い笑い声が響いた。

天から降って来るような、地から湧き上がるような、出所(でどころ)不明の声だった。


「ヨコヅナ様!」

  「お出ましだっ!」

    「豊穣の女神様!」

「待ってました!」

  などの声がそこここで上がり、沸き立つ広場。

太鼓の音が高鳴り、拍手が起こる。


  が、

「ん? 何処(どこ)におるのじゃ?」

  と、土俵下で辺りを見渡すフーコツ。

土俵の上でも、ミトラがキョロキョロしている。


  そのミトラに頭を下げ、

是非(ぜひ)もない。これにて御免(ごめん)

  と言って土俵を下りてゆくオオゼキさん。


  と、

土俵上の空間が(ゆが)み、オオゼキさんが立っていた辺りに、何やら巨大な物体が(にじ)み出て来た。


「いよっ、待ってました!」

          「ヲンナヨコヅナ!」

  「世界一!」

持て(はや)す声が、改めて広場に起こった。


身の丈三メートル。

  爆炎のギューフ級の巨人が出現した。

頭部も、腕も、足も、胴体も、全体に丸い。

  そして肌はピンク色だ。

人の良さそうなオバさんの笑顔を見せている。

  唇が耳まで裂けていたが。


(あか)いブラ。

紅いビキニショーツ。

そして紅い腰巻き。


「背丈はギューフ級だが、質量はギューフの倍以上ありそうじゃな」

  息を呑むフーコツ。

「待ってよ。その前にアイツ、幻魔じゃないの?」

  息を吐くばかりのジュテリアン。


「神事に現れ、相撲を取った後は、この街の豊穣を約束してくれるのです」

  ドーンコさんは両手を合わせて言った。

「幻魔だろうが、妖魔だろうが、関係ないのです。ありがたやありがたや」


(ああ。この人はヲンナヨコヅナの正体を知っているのだ)

(だから神事だと言うのに、贔屓(ひいき)の力士が、負けただのなんだのと言って……)

(そこらを、ほっつき歩いていたのだ! たぶん)


「その豊穣の約束は確かなのですか?」

  ジュテリアンは果敢(かかん)に突っ込んだ。


「左様。麦がそうでもない時には、野菜が豊かに実り、果実がそうでもない時には、魚が大量に川を(さかのぼ)って来たりしましたな」

  そう言って自分の頬を()でるドーンコさん。

「物心がついてから、凶作というのは記憶にありませんな」


「はるかな昔から結果オーライで来ておるのか」

  フーコツはそう言って、自分の(あご)を撫でた。

「ワシらと一緒じゃな、ドーンコ殿。しあわせな事じゃて」


  フーコツは楽しそうに笑った。



       次回「ミトラVSヲンナヨコヅナ」(前)に続く  



次回、第百四十三話「ミトラVSヲンナヨコヅナ」前編は、明日の月曜日(海の日)に投稿予定です。


オオゼキとの対決があるかと思ったら、ありませんでしたなw。

前回、読み返さずに後書きを書いたので、ウソを書いてしまいました。申し訳ありません。

まあ、いつも読み返さずに後書きを書くのですが。


「覚えていないのか?!」

と、思われる方もおられるかと思いますが、

「時々覚えている」

と答えるに留めたい。ほぼ覚えていない。

      そんな「蛮行の雨」は、また明日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ