「蛮行の雨と女相撲」(後)
「ユームアマングの聖女様事件は、『骨折り損のくたばり儲け』だったわねえ」
ミトラがつぶやき、
「まだ、くたばってはおらん!」
と、フーコツが突っ込んだ。
大勇者サブローの言い間違いか、ミトラの覚え間違いな語録であろう。
「オークスさんとベホラフさんは、聖女ベルベリイが魔王! かも知れない。って、知っているのかしらね?」
と、ジュテリアン。
「それは知るまい。ベルベリイにしても、悪党退治に人間を利用する以上、魔族である事は隠しておきたいじゃろう」
とは、フーコツ。
「聖女の正体が分かれば、信者は一瞬で離れると思うわ。人間なんて、そんなものよ」
宮廷で何百年も僧侶を勤めていたジュテリアンが言った。
「そうじゃな。今まで信頼していた人物が魔族と分かれば、一転して『騙された』だの『利用された』だのと、悪く悪く考え始めるのが人間であろう」
「なんか。人間のフリをした魔法杖に言われると、ちょっとムカつく」
「えーーっと、潰すのは簡単そうだから、ベルベリイさんにはこのまま悪党を退治して頂きましょう」
「そうすっと、聖女はこのまま信者を増やし続け、権力を膨らませるってわけだね?」
「なんでお主はそのような不吉をペラペラと喋るか?!」
フーコツは間髪を容れず、ミトラの頭を叩いた。
「利用する事が出来たら、彼女のバラされたくないその点をチラつかせて、言う事を聞かせましょう」
「やだ。このまま放置しとこうよ。魔王を利用しようなんて、コッチの命が危ないじゃん」
そんな訳で、義賊で聖女で魔王なベルベリイの対処は、「放置」という事で落ち着いた。
やれやれだ。
あとは何事もない事を祈るばかりである。
アギア事件感謝派の皆さんの手になる豪華な御弁当をお昼に美味しく頂き、また元気に徒歩で街道を進んだ。
日没前に、チャビムという街に辿り着いた。
地図で見るに、そこそこ大きな街だった。
検問所を越え、宿の呼び込みを躱し、自分らで宿を定めるべく、ぶらりと街の散策を始める蛮行の三人娘。
「ミトラよ、人集りがあっても、首を突っ込むでないぞ」
フーコツが念を押した。
「う、うん。分かった」
キョロキョロしながら答えるミトラ。
「まだ明るいのに、あちこちでカガリ火が焚かれてるね。なんかのお祭り?」
「太鼓の音が聞こえてくるわ」
と、ジュテリアン。
(タイコは万世界共通なんだなあ)
と、感慨深いぼく。
「またそうやって騒がしい方に流れて行く! こらミトラ! 聞いておるのか?!」
叱るフーコツ。
フラフラと、しかし確実に音のする方向に歩いてゆくミトラ。
「あの太鼓の音は、何かのお祭りですか?」
通行人を捕まえて問うジュテリアン。
「あ? ああ。豊穣の神事だよ」
ギョッ! とした顔で答える作業服のおじさん。
凛とした美人に声を掛けられて、緊張したのか胸を押さえている。
「えっ? ホージョーノシンジ?!」
先を歩いていたミトラが振り返った。
「お祭りだったら、行っても良いよね?!」
「そうじゃなあ、祭りは仕方がないかのう」
結局、ミトラに甘いフーコツだった。
声を掛けられたおじさんが、
「案内するよ」
と言うので、付いてゆく蛮行の三人娘。
「街の中央広場で、神事の女相撲をやってるよ」
とも、おじさんは言った。
「もう落陽も近いから、残り相撲になっているかも知れないが」
「残り相撲?」
と、ミトラ。
「ヨコヅナがお出ましになった後は、『残り相撲』って言うんだよ。まあ、余興だね」
「興を添えるのね? じゃあ、あたしたちみたいな素人の参加も大丈夫なの?」
「おお。飛び入りは、コムスビ、セキワケのレベルでもやっておるよ。まあ、余所者が勝った例はないがね」
「ええっと、スモウって、武器無し防具なし魔法なしで、ほぼ裸で取っ組むヤツだよね?!」
「そうそう。大勇者サブロー様が広められた格闘技だよ。近頃はめっきり廃れたがね、このチャビムの街じゃ、盛んなんだよ」
「でもおじさんは、不参加なの?」
ズバリと突っ込むミトラ。
「贔屓の女力士が、とっとと負けちゃったんでね」
スッパリ答えるおじさん。
「殴る蹴るもナシですか?」
と、ぼく。
「スモウだからね」
と、おじさん。
「噛みつきも、目潰しもナシだよ」
その後は、ミトラが積極的にルールを聞いた。
間違いなく「飛び入り」をする気だ。
そして「女相撲」は、ぼくの前の世界、というか日本の大相撲のルールを踏襲しているように思った。
次回「ミトラVSコムスビ」(前)に続く
次回、「ミトラVSコムスビ」前編は、来週の木曜日に投稿予定です。
今回は、ヤボ用で投稿が遅くなりましたが、木曜日はいつものように、午前10時13分前後に投稿したいと考えております。
話を削って短くしたので、投稿が遅い上に、中身が短いと言う、なかなかの結果になってしまいました。
ではまた、木曜日に。




