「続・蛮行の雨VS聖女ベルベリイ」(前)
V字盾三個は脆くも破壊され、そのまま虚空高く飛んでゆく青白き光弾。
V字盾に、光弾を止める強度はなかったのだ。
聖女が腕を伸ばし、拳を結ぶと、音もなく消えるエナジー弾。
空飛ぶV字盾に破壊力がないのはバレてしまった。
だが、何処で何を破壊するか分からないので、光弾を破壊してしまう聖女の心配りは、甘い。
これは、イケるんじゃないか? とぼくは思った。
ベルベリイは、今度はぼくに向かって光弾を撃った。
四層の盾を破壊したものの、直撃には至らずエナジー弾は消滅した。
衝突と破壊のショックで、揺れるぼくの金属体。しかし、それだけだ。
再びぼくにエナジー弾を撃つ聖女。
今度は三連発だった。
ブーストダッシュで跳んで逃げるぼく。
だが、光弾は湾曲し、残った六層の盾に衝突した。
残るすべての盾を破壊された。
光弾も二発消滅したが、残った一発がぼくを直撃した。
衝撃は大きく、ぼくの身体は宙に浮いた。
「パレルレ!」
三人娘の叫びが芝生の丘に響く。
四本足をバタバタさせながら盾を張り直し、倒れずに着地に成功するぼく。
(ぼくには当たりが強いような……)
(『メタルゴーレム』)と、サブブレイン。
(あっ、ゴーレムだから、命はないと思っているんだ!)
ヤバい。ぼくだけ死ぬかも知れない!
ぼくは左胸から電撃鞭を出し、芝生の丘をを打った。
途中で千切れていて、長さは五メートルほどしかないヤツだ。
だが、無視は出来まい。
空気は焦げ、丘の芝生も黒く焦げ、炎も上がった。
威嚇にはなっているはずだ。
それがぼくの目的だ。
三人娘たちへの攻撃が分散されればそれでいいのさ。
ベルベリイは、
「そんなものを持っていたのか?」という顔になった。
そして不思議にも思っただろう、
「なぜ離れた場所で見せてしまうのか?」と。
「交戦中に、突如出せば不意打ちになったではないか」と。
答えは簡素だ。怖くて接近できないからだよ!
フーコツが火球を連射した。
左右に礼拝堂と修道院があるのに!
ベルベリイは頭上、前後左右に盾を発現させ、火球を防いだ。
盾の表面で派手な音を立てて爆発し、消え去る火球たち。
しかし消えた炎は、盾の表面だけだ。
辺りには火球の残痕が小さな火の雨を降らせた。
そして聖女の盾は、虹盾だった。
「ふん。カウ・ヴォンか。さすがは聖女様じゃ」
「ランランカのより強い感じ?」
「たぶんね」とは、ジュテリアン。
しかし火球の攻撃は修道院の尼僧たちへの警告だろう。
この炎を見て逃げない者は、フーコツの言うところの、
「知った事ではない」のだ。
爆散し辺りに散らばった小さな炎を、水柱を射って消している聖女ベルベリイ。
そこは攻撃しない蛮行の三人娘。
「ち」と舌打ちし、紫泥煙「無能なる空気」を連射して消火を手伝うジュテリアン。
僧侶の魂を抑えられなかったか?
「あらあら。『知った事ではない』とか言ってなかったかしら?」
笑うベルベリイ。
「残念なから、私は『腐っても僧侶』だ」
笑い返すジュテリアン。
そんなベルベリイに再び火球を放つフーコツ。
が、やはり虹の盾に阻まれ、爆散し火の雨を降らせる。
「あんまり派手にやらないで。消火が追いつかないじゃないの」
「私が手伝ってあげるから」
「ワシも手伝おう。後でな」
修道院の窓が開き、こちらを見る尼僧が多数いた。
すぐに顔を引っ込める者、そのまま見続ける者。
早く逃げてくれ。戦いにくい。
炎雨はジュテリアンたちにも及ぶが、光の盾が防いでいる。
ぼくらの頭上の盾で、パチパチと音を立てて爆ぜる小さな炎たち。
まるで生きているようだった。
誰か殺してくれ、怖い。
エナジー弾の三連発を、今度はフーコツに撃った。
瞬時に反応し、火球で応戦した。
だが威力に負け、弾け飛ぶ火球。
さらに盾に直撃し、破壊には失敗するが、衝撃でフーコツを吹き飛ばすエナジー弾。
それまで地面に伏して様子を見ていたミトラが、聖女にダッシュした。
棍棒には斧刃が出ていた。
伝説の斧で何をしようというのか? 聖女が死んだらどうするんだ?!
迫り来るミトラに向きを変え、エナジー弾を一発撃った。
エナジー弾に対して、ミトラは紫の盾の内側から斧を振った。
破壊されるエナジー弾。
打撃のショックで蹌踉くミトラ。
ヨロメきながらもさらに斧を振り、カウ・ヴォンの盾に斧刃を刺した。
粉砕される虹の盾。
「うおっ?!」
低い声で驚いて、跳び下がりつつ左右の盾を全面に移動させるベルベリイ。
その背後にはジュテリアンが迫っていた。
気配を感じたのか、後ろを見ずにエナジー弾を撃つ聖女。器用な?!
エナジー弾は、ぼくがブーストダッシュしてヒートウィップで破壊した。
ぼくの鞭も破壊され、二メートルほど失った。
地面に落ち、火花を散らして跳ねる千切れた鞭。合掌。
そして跳び下がるぼくの前を走り抜けるジュテリアン。
虹の盾に構わずジュテリアンが振り下ろす伝説の杖を、身体を反転させ指揮棒のように細く小さな杖で受けるベルベリイ。
接触する杖と杖。
すると、ヴォォォン! と異様な音がして、二人は弾けるように宙に飛んだ。
お尻から地面に落ちるジュテリアン。
からくも四つん這いになって盾の上に着地する聖女。
「今のは何だ?」と、フーコツ。
「なんか、反発し合ったような感じだったよね?」
用心して聖女に近づくミトラ。
「変な杖だと思ったら、伝説か?」
立ち上がり、ニヤつく聖女ベルベリイ。
「しかも、眼前暗黒感が効かない。カウ・ヴォンも破壊された。あなたたち、かなりの曲者ね」
起きあがろうとするジュテリアンに、エナジー弾を撃つベルベリイ。
ジュテリアンは盾の内側から前蹴りを放ち、エナジー球が盾に届く前に蹴り返した。
盾が破壊されるのは分かっていたので、伝説のブーツに頼ったのだろう。
蹴りのショックで転ぶジュテリアン。
だが伝説のブーツに弾かれたエナジー弾は正確に聖女ベルベリイを襲った。
前面に張った二枚のカウ・ヴォンの内、一枚が破壊され、衝撃に倒れるベルベリイ。
即座に起き上がる聖女、復元される虹の盾。
「馬鹿な。なぜあたいのエナジー光弾を蹴り返せる?! お前は一体、何者だっ!!」
もっともな疑問だった。
「元宮廷僧侶のエルフよ。たぶん、あなたよりずっと長生きだと思うわ。鍛練が違うのよ」
「それだけでは説明がつかん。そもそもあたいは、五百歳だ。それに、これは」
と、自分の小さな杖を示すベルベリイ。
「伝説の杖だ」
どさくさまぎれの、衝撃の告白だった。
「あらあら。あなたも相当な曲者だったのね」
と、ジュテリアン。
「あたしたち以外にも伝説を持つ者が?!」
と、ミトラ。
「まあ、十分に考えられる事ではあったがな」
と、フーコツ。
「伝説同士で戦うと、反発し合うの? 知らなかったわ」
「おぬしのその伝説は、万能型じゃな? じゃから、浄化光を見ても分かるが、威力はさほどでもない」
「こっちは、特化型ばかりだから、勝てるよね!」
フーコツとミトラが自己暗示を掛けていた。
「大丈夫、あたしらが勝つんだ!」
ミトラが伝説の斧を振りかざして、再びベルベリイに迫った。
「ええい、しつこい!」
イラだった様子で光弾を放つ聖女ベルベリイ。
振り下ろされ、光弾を裂く伝説の斧。
続いて逆袈裟にカウ・ヴォンの盾も砕いた。
さらに踏み込んで斧刃を振ったが、聖女の身体には届かない。
最初から、傷つけるつもりはなかったと思うが、横っ飛びに逃げたベルベリイに異変が起こっていた。
青いワンピースの胸部に、血らしきモノが滲んでいたのだ。
しかし、服は裂けていない。
「かすりもしなかったのに、あなた、何で出血してんのよ?」
ミトラが言った。
ミトラの斬撃に勢いがあったからか?
いや、それでは、服が無事なのはおかしい。
そして、服に広がる血の色は紫色だった。
次回「続・蛮行の雨VS聖女ベルベリイ」(後)に続く
次回、第百三十七話「続・蛮行の雨VS聖女ベルベリイ」後編は、明日の金曜日に投稿予定です。
ベルベリイを見て、女優さんのハル・ベリィを連想した方もいらっしゃると思いますが、その通りです。
少しモジって使いました。
「Xメン」のストーム役、良かったですね。
しかも今度、アベンジャーズ絡みで復活するんだとか。
回文オチのショートショート「のほほん」「魔人ビキラ」なども書いております。
良かったら、読んでみてください。




