「魔狼、絶体絶命?!」(前)
何本かの浄化光が、魔狼に直撃した。
なおかつ、浄化光は魔狼を突き抜けなかった。
が、蒼白き魔狼は、全く無反応だった。
「ほう。平気なようじゃな」
「悪霊系じゃないのね。エナジー体というから、もしやと思ったんだけど」
「でも、あたしの盾で跳ね返せたし、実体だよね」
「おや、動かぬな。聞こえたはずじゃが」
「魔狼くん、私たちの盾で囲めば捕らえられるって言ったのよ」
「喋らないけど、視覚はあるよね。ずっと、こっちを見てるし」
ミトラは、棍棒にまだ斧刃を出さない。
不意打ちの作戦か?
「聴覚もあるはずじゃ。隠密活動をしているそうじゃからな。聞こえねば、傀儡としての意味がなかろう」
「これでギルドに内通者がいるのも、確定しちゃったんじゃないの?」
「こりゃ、ミトラ。敵にそれを教えてなんとする!」
「何がなんでも、今、あたしたちを皆殺しにしなきゃならなくなったんじゃないの?」
ミトラはそう言って舌をペロリと出した。
「つまり、逃げない、って事ね」
と、ジュテリアンが言った。
フーコツは突き出した短杖の先に、電光を見せた。
ぴくりと反応する魔狼。
「そうら。お主が身にまとっている光と同じじゃ。相殺して丸裸にしてやろうか?」
と言って、凶悪な笑顔を見せるフーコツ。
いや、あなたのは雷撃だろうが。
まさかこの狭い部屋で雷撃は撃つまいが、物騒な発言だった。
フーコツの挑発に乗って、素直に彼女に飛び掛かる魔狼。
だが、果たしてフーコツの銀色の盾に阻まれ、直撃は出来ない。
しかし魔狼の質量に押されてか、
「うお?!」と呻いて、盾ごとベッドに倒れるフーコツ。
盾に伸し掛かる魔狼。
苦しそうな顔を見せるフーコツ。
ぼくにあっさりと背中を見せたので、一挙に接近して四本の腕で魔狼を抱き上げた。
「手応えあり!」だった。
そのまま胸の辺りまで魔狼を持ち上げるぼく。
魔狼の電光が大きくなった。
だが、稲妻のようにほとばしる事はなかった。
「パレルレ!」
窓の前に移動して、逃げ道を塞いでいるミトラが叫んだ。
「大丈夫。こいつの電光は、発熱も衝撃もない。ただの脅しだ」
「ふむ。お優しい事じゃ」フーコツが苦笑した。
魔狼は、ぼくに胴体を掴まれ、手足と首を振ってもがくが、爪と牙はぼくのメタルボディを傷つけるほどではない。
「噛むか引っ掻くだけ、と聞いたが」
起き上がったフーコツが、床に降りながら言った。
「その通りのようじゃな」
「変形して逃げない?」
両手で回復剣の無法丸を持ち、構えているジュテリアン。
「身体にしっかりとした手応えがあるよ。そこまで器用ではないようだ。」
変身出来るのなら、とっとと変身してぼくから逃げているだろう。
(しかし、この程度の力でぼくたちを殺しに来たのか?)
(それとも今夜は、ただの様子見か?)
そんな事を考えているところへ、扉が強く連打された。
同時に、
「何事ですか? 真夜中に?!」
という女性の叫び声が聞こえて来た。
宿の客か、従業員か?!
「ミトラはそのまま窓の前に。パレルレは魔狼を抱いたまま、ミトラの前に。宿の者にソイツを見せる」
と、フーコツ。
「それ、危険じゃない?」
と、ジュテリアン。
「襲われた証人になってもらうのじゃ。そして、魔狼は罪もない一般市民は襲わん」
「市民も襲われたって言ってだじゃない、フーコツ!」
ミトラが叫んだ。
一般人を巻き込むのは危険だと思っているのだ。当然だ。
「それは、一般人に与える心的外傷を考えていなかったからじゃ。ワシらは、大した怪我でなくても心的外傷が残る事を教えた」
魔狼の向こうで聞いている者を聖女と定めたのだろう、フーコツはそう言った。
フーコツは扉の前に移動すると、優しい声色で、
「申し訳ありません。どうぞ」
と言って、扉を引き開けた。
浴衣姿の、険しい表情のおばさんが顔を見せたが、ぼくの抱える魔狼を見たのだろう、
「きゃあ!」
と叫んで扉を閉めてしまった。
「見て頂けたじゃろうか? 魔狼に襲われたのじゃ」
扉に話しかけるフーコツ。
「魔狼だと?!」
今度は男性の声がして、扉が開いた。
「魔狼って本当か?」
ローブ姿の中年男が顔を出した。
「こいつじゃ」
フーコツが扉をさらに引き開けて、ぼくの抱く魔狼を指さした。
青白き身体。放たれる電光。巻いた尻尾。
一角犬に似ているが、額には二本角。
「噂通りだ。間違いなさそうだな……」
ぼくの四本の腕に捉えられ、もがく巨獣を見て呻くように中年男が言った。
次回「魔狼、絶体絶命?!」(後)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
次回、第百三十五話「魔狼、絶体絶命?!」後編は、明日の金曜日に投稿予定です。
なろうのシステムに追加がありましたね。
ランキングを知らせる。
百位以内を知らせるみたいです。
「のほほん」「魔人ビキラ」の、その他系が百位以内なのが分かりました。なかなかの低位でしたw。
頑張れ、オレ! でありました。




