「聖女ベルベリイ」(前)
「運が良かったですね、皆さん。聖女様は今、修道院に御出ですよ」
と、微笑む副院長。
「クチュロさん、ベルベリイ様に御足労を願って下さい。号外にあった、アギアの無頼団を駆除した勇者団の皆さんが、お目もじしたいと申されていると伝えるのですよ」
「はい!」
と言って、笑顔で急ぐクチュロさん。
「ありがとうございます、オーレロラ副院長様」
と言いながら立ち上がるジュテリアン。
倣って立ち上がるフーコツとミトラ。
「号外では、『蛮行の雨』というチーム名だけで、構成や容姿までは分かりませんでしたので、失礼いたしました」
と、頭を下げる副院長。
「いえ、アギアには、チームの事は伝えないように頼んでおいたので、『蛮行の雨』が伝搬されているのもビックリです」
と、笑うジュテリアン。
「まあ。善行をなさったのに、隠すのですか?」
と、うら若き尼僧、チェンガ。
「はい。悪党に名前や容姿が知られると、正義の執行に不都合が出て参リますので」
凛とした圧を振りまくジュテリアン。
「なるほど!」
目を剥いて、小さく叫ぶオーレロラ副院長。
修道院の行動は、公にするのが慣わしなのだろう。
「この度の伝搬は、わたくしどもからも、アギアに強く抗議しておきましょう」
怒ったような顔になった。
いや、電光石火、本当に怒ったのだろう。
正義の瞬間湯沸かし器か?! 恐ろしい。
それからぼくたちは、モヒカンコンビのザミールさんとカメラートさんの話をした。
見た目から、誤解されやすい二人組だからだ。
「街の人々が、無頼団にスパイを潜入させていたので、お陰でスムーズに悪党どもを退治できたのです」
と伝えると、いたく感激した様子で副院長は、
「おお。スパイの潜入?! 街の方々も悪を倒そうと必死だったのですね」と言った。
「なんて素晴らしい!」
と、若き尼僧。
「ええっと、モヒカン頭とダブルモヒカン頭の見るからに無頼漢然とした大柄な二人組……。見かけたら、丁重におもてなし致しますわ」
「あの、それはもはや手遅れかと……」
と、うなだれるチェンガさん。
「どういう事ですか、チェンガさん。今からでも修道院に通達すれば大丈夫でしょう?」
「その風体の二人組、『寄付に来た』と申されたのですが、礼拝堂が汚れると思い、追い返しまして御座います」
がっ! と頭を下げ腰を折り、
「誠に申し訳ありませんっ!」
などと叫んだ。もはや悲鳴であった。
「あっ、いや、それが普通かと……」
ジュテリアンはチェンガさんを擁護した。
「私たちも最初、手助けがしたいと言う二人を、無頼漢の戯言と思い、信じませんでした」
それらしい話をして安心させようとしている。
「あたしたちよりも早くアギアの街を発ったから、修道院では拒否されたかも知れないけど、あいつらの事だから、今も何処かで密かに悪党に探りを入れているかも知れない」
ミトラも盛大にモヒカンコンビを擁護した。
そんな話で時間をつぶしていると、奥の扉からクチュロさんと一緒に「聖女様」が入って来た。
青い髪に青い瞳。
水色のワンピースを着た、見た目は普通のお嬢さんだ。
「聖女様?」
胸の前で組もうとした両手を止めるジュテリアン。
「うっ。圧がやはり普通じゃないわね」
とささやくミトラ。
「いや、あの者、人間ではあろまいよ」
フーコツはナニヤラ怪しげな人語をあやつった。
人間ではないフーコツが言うので、本当かも知れない。
それにしても、蛮行の三人娘もぼくも、圧にビビっているのだが、この尼僧たちは平気そうだ。
日頃の修練の差か? 無念だ。
聖女様の衣服には大小の白い花が咲き乱れている。
肩がふんわりと膨らんだ、半袖のワンピースである。
武器は携帯しているように見えなかった。
杖すら持っていない。
前髪のあるナチュラルボブの若い女性だ。
しかし、トンガリ耳だ。
エルフか?
そうなると、実際は幾つなのだろうか。
ジュテリアンが、「二十歳と少しか?」と見えて五百歳だからなあ。
いや、四百歳だっけ? うーーん、忘れた。
「ベルベリイ様、お客様の前で欠伸は失礼で御座いますよ」
「あっ、お昼寝してたもんだから、つい……」
「言い訳は見苦しゅう御座います」
なかなか手厳しい副院長さん。
「ご、御免なさい」
圧を撒き散らしながら頭を下げる水色ワンピースの乙女。
「そう、謝罪! 悪いと思ったら、素直に謝罪する! これに尽きますっ」
胸の前で拳を作るオーレロラ副院長。怖え。
「それでそのう、アギアの無頼団を駆除した勇者団の皆さん、あたい……むにゃむにゃ、わたしに何の御用でしょうか?」
眠そうに言う聖女様。
「はい。ご休息の所、申し訳ありません。あのう、その………、そう! 『お清め』をして頂きたく……」
今、思いついたらしい願いを口ごもりながら言うジュテリアン。
「はい! アギアで殺生をなさったようですから、『浄化』が良いと、わたくしも思います!」
オーレロラ副院長が力強く言い放った。
「御寄付も大層頂きました」
お金の入った袋を胸に抱き、身体を揺すった。
「分かりました。だいたい、寄付如きで罪は消えません。わたしが腕にヨリを掛けて浄化をぶっ放しましょう」
聖女ベルベリイは、スカートをまくり上げ、太股のベルトに差した白く短い棒を抜いた。
フーコツの本体のような短杖だ。
そう、例えて言えば指揮棒のような。
次回「聖女ベルベリイ」(後)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
次回、第百三十二話「聖女ベルベリイ」後編は、明日の日曜日に投稿予定です。
ではまた明日?




