「聖女のいる修道院」(後)
「それで、魔狼を操っている黒幕については、調査は進んでいるんですか?」
と、ジュテリアン。
「それはまあ、多少は……」
と、曖昧に言った後、
「クカタバーウ解放の勇者団と見て、お話しする」
と、なにやら腹をくくった様子のエギャス所長。
腹の探り合いもいいが、それでは話が進まないので居直ったのだろう。
「実は、街の女子修道院に聖女様が逗留しておられて……」
「聖女様?」と、ハモる三人娘。
「元・宮廷魔法使いだそうで、野に下り、街々に寄付をして回っているそうなのだ」
「教会や修道会の炊き出しを助ける、とか?」
と、ジュテリアン。
「そうそう。井戸を掘るとか、街のゴロツキを退治するとか」
「寄付の財源は?」
と、フーコツ。
「宮廷の退職金と、討伐の報奨金。だそうだ。教会などへの寄付は、慈善活動にそのまま活かせる。ありがたい事だ」
「うん。あたし、食べ物に困った時は、教会で施しを受けてたよ」
と、ミトラ。
「そ、そうなのだ。やはり金は大切。市民も旅人も助かる」
と言って、所長はうつむいた。
「そんな聖女様が街に現れると同時に、青き魔狼が出没し始めたのだ」
「分かりやすいわね。聖女様が魔狼使い?」
と、ジュテリアン。
「しかし、その聖女様に疑いの目を向けるために、魔狼使いがタイミングを合わせた可能性もあるのう」
とは、フーコツ。
「そ、そう。黒幕が別だと、それで良いのだ」
と、エギャス所長。
「よし。修道院に様子を見に行こう。聖女様の顔も見てこよう」
と言い出すミトラ。
「大人しくしてくれと言っただろう!」
慌てる所長。
「大丈夫だよ、寄付に行くだけだから。ねえ、良いでしょ、フーコツ」
「そうじゃな。アギアの無頼団を潰して多額の報奨金をもらっておる。これをそのまま寄付しよう」
「げっ?! そのまま? 全額ってこと?!」
言い出しっぺのミトラが喚いた。
「その寄付の時に、『聖女様にひとめお目にかかりたい』と言えば、修道院も断れないでしょう」
と、ジュテリアンが付け足した。
「ああ、その方が説得力があるのう」
フーコツが笑って言った。
「説得力ですか?」
と、エギャス所長。
「うむ。ワシらは討伐、つまり殺生を生業にしておるから、『この寄付で少しでも殺生が帳消しになれば』という浅ましい考えが見え隠れしておろう?」
「えっ? そ、そうなの? 寄付は浅ましいの?」
驚いた顔を見せるミトラ。
「寄付が多ければ多いほど、『あっ、コイツら地獄が怖いんだ。ビビってやんの』と、軽く見られようが」
「そ、そうか。金額が多いほど、こちらを見下して相手の油断も大きくなるって事ね」
納得するミトラ。
敵にはなるべく油断をして欲しい。
戦いの常道ではある。
「金額が多いから、お金の出どころを聞かれたらしめたもの。アギアでの話をすれば良いのじゃ」
「うん。怪しんで確認してくれたらしめたもの、正義の活動が分かるもんね!」
「この、寄付ついでの偵察は、やっても良かろう、エギャス殿」
「そ、そうですね。しかしくれぐれもお手柔らかに」
クカタバーウやアギアの蛮行を知ってしまったので、心配なのだろう。
ぼくだって、立場が逆ならそうだ。
自分たちの今までの努力がチャブ台返しされはしまいかと、心配で仕方がなくなる。
修道院に寄付に行く事は、ギルドの職員たちにも説明した。
室内鍛練場を出たら、沢山の職員がそこに居たのだ。
心配で、外でヤキモキしていたらしい。
そこで、エギャス所長は室内での話をしたのだった。
そんな中、
「噂に高いクカタバーウのトンパチ突入隊の皆さんに、こうして会えたのも古よりの縁」
「是非とも一手御指南頂きたい」
と言い出す斧使いさん、大剣使いさん。
さては、そういう意図もあっての室内鍛練場だったのか?
まあ、噂のチームの腕前を知りたいと言うのは普通だと思う。
腕に自信があれば、なおさらだろう。
「では、もう一度、鍛練場に」
と、扉を開けるエギャス所長。
「鍛練場とて、木製武器のたぐいは沢山あります。光の盾はなし。魔法なし、の制約ではどうでしょう?」
所長はスラスラと言った。
(これは最初からの予定だったのか?)
(図られた!)
という顔になる蛮行の三人娘。
「お断りします」
鍛練場に入らず、キッパリと言うジュテリアン。
「私たちは、流れの討伐団。手の内は、成るだけ明かしたくありません。死活問題になりかねせんので」
などと、今まで何度も挑まれて相手をしてきたのに、今回はつれない返事をした。
単に面倒臭かっただけだと思うが。
「そこをなんとか」
と喰い下がり迫る斧使い、大剣使いの二人。
そして二人そろって、力無く床に倒れた。
「ああっ、どうしたオークス?!」
「しっかりしろ、ベホラフ!」
膝をついて、倒れた斧使い、大剣使いを揺する職員仲間。
たぶん、これはジュテリアンの眼前暗黒感。
「これはそのう、挨拶代わりの体術」
と、嘘を吐き、倒れた二人に頭を下げるジュテリアン。
試合前だから、魔法は使って良い、という理屈か?
「くっ。目にも止まらぬ早業?!」
「お見事! さすがは噂の勇者団!」
感心しきりの職員たち。
ひょっとすると、『これだけの腕を持った者が嘘など吐くまい』とか、考えているのかも知れない。
そうしてぼくたちは、ギルドを出て修道院に向かった。
「とか言いながら、『立ち眩み』は見せちゃうんだ」
と、笑うミトラ。
「面倒は嫌いだ」
と、ジュテリアン。
「クカタバーウやラファームでは、試し合いで上手くいったけど、いつボロが出るか分からないじゃないの」
「まあ、何も見せぬのも悪いしのう」
と、フーコツ。
「眼前暗黒感は、一見、不可思議に見えるし、良い技じゃて、ジュテリアン」
ギルドで書いてもらった地図を見ながら、トボトボと進むぼくたち。
道がよく分からないからだ。
もしも聖女が魔狼使いで、雇い主が女子修道院であった場合、ギルド職員に道案内をされている所を見られるのはヨロシクないと、不案内ながら、ぼくたちだけで歩いているのだった。
「しかし、ワシらの妄想通り、修道院が黒幕の雇い主だとしたら、一大事よのう」
と、フーコツ。
「聖女が魔狼使いだった場合も、一大事じゃん!」
と、ミトラ。
「世の中の悪を成敗して回る、って燃えているのかも知れない。純粋で一途そうじゃないの、『聖女』なんて、名称からして」
と、ジュテリアン。
「悪を討つ正義に仇なす悪者じゃな、今回のワシらは」
フーコツはなんだか嬉しそうだった。
「女神信仰の修道院だそうだけど、女神教会の信用問題になっちゃうわね」
と、ジュテリアン。
「あたしらの妄想が当たってたらね」
と、ミトラ。
「まあ、教会の不祥事なんか、今さらだけど」
と、苦笑も見せた。
(ああ。そうゆうの、ぼくの居た世界と変わらないんだ)
ぼくは妙に納得した。
次回「オーロレラ副院長」(前)に続く
お読み下さった方、ありがとうございます。
次回、第百三十一話「オーロレラ副院長」前編は、来週の木曜日に投稿予定です。
そして、木曜日〜日曜日に連続投稿するのは、今まで通りです。
ではまた来週、「蛮行の雨」で。




