「聖女のいる修道院」(前)
「あのですね、青き魔狼に黒幕がいるらしい事は、警備隊も我が討伐ギルドも承知していて、ただ今、調査中なんです。蛮行の皆さんは、ただ大人しく見守っていて下さい」
他に人がいないからだろう、ギルドの所長だというエギャスさんは低姿勢になって言った。
ちなみにエギャス所長は双剣使いらしく、背中に二本の長剣をクロスさせていた。
「やはりワシらの事を知っておったか」
「そ、それはもう、素手で魔族の首を折るとか、魔獣の頭を蹴って遊んでいたとか、蛮行……あわわわ、勇猛果敢な冒険者であると伺っております」
「ううむ。一部、身に覚えがあって否定しにくいのう」
ぼくたちの事は、ギルドつながりであちこちから情報が入っているそうだった。
アギアの街からも、
「そちらに向かったぞ。気をつけろ」と、手紙を受け取ったと言う。
さすがは大きな街である。
そしてアギア、余計なお世話である。
アギアの手紙を見せてもらうと、
「良い連中だが、超暴力派だ。諸刃の剣と言ってよい」
「我がアギアの街でも、問題の無頼団を潰してくれたまでは良かったが、肝心の黒幕を二人とも殺してしまった」
「この手紙は見せろと言われたら、ここまで見せて良い」
事などが書いてあった。
「この手紙、途中だよね?」
と、ミトラ。
「い、いや、ここまでで勘弁してくれ。本来、見せてはいけないギルドのやり取りなのだが、あんた達は、クカタバーウ砦が魔族に占領された時、トンパチ突入をして活路を開いた勇者団だ」
一息で喋って額の汗をぬぐった。
「儂の独断でお見せした」
「あら、クカタバーウの事まで書いてあったの?」
と、ジュテリアン。
「い、いや、クカタバーウの解放は、昔に来た連絡を思い出したのだ。ひょっとして同じ一味……あわわわ、方々ではあるまいかと」
ああ、だから「怯え」を見せていたんだ。
厄介な暴力集団がやって来やがった、と。
「つまり、調査はあなたたちに任せて、黒幕逮捕の時には手伝ってくれ。って事かしら?」
「虫の良い話だが、そういう事なのだ」
「アギアの街の悪党退治を手伝って、このユームアマングの窮地を無視するのは、理屈に合わぬかなあ」
と、顎を撫でるフーコツ。
「ありがたい。恩にきる」
深々と頭を垂れるエギャス所長。
それから、魔狼の話になった。
「ただの魔狼ではない」
「強すぎる上に、神出鬼没なのだ」そうだ。
「青き魔狼に殺された市民は二人」
「強欲で知られる金貸しと、阿漕な商法で知られる商人」
「この二人は最初からの『標的』であったっ思う」
と、エギャス所長は言った。
「それを証拠に、魔狼を発見して戦った警備隊もギルド職員も、足を怪我させただけで見逃している」
「ほう。命を摘まれておらぬのか?」
「足の傷も、回復院に二、三日通うだけで全快している。儂もその一人だ」
「つまり、『標的』以外は殺す気はないという訳かのう」
「黒幕は義賊を気取っているのかも知れない」
「ふむ。厄介な相手だのう」
そしてその青き魔狼は、全長三ペート(三メートル)、背高一ペート半くらいらしい。
(虎じゃん、それ!)と、ぼくは心の内に叫んだ。
全身に電光を帯びており、青く淡く光っている、という。
「で、電光? 発光苔を身にまとった古狼ではないのか?」
と、フーコツ。
「魔狼似の何か別物よね、そいつ。デカすぎるし」
と、ミトラ。
「電光、ってところでもはや魔狼じゃないわね」
と、ジュテリアン。
「しかし、顔は一角犬と同じだし、額の角は二本だ」
と、魔狼の容姿を説明する所長。
「シッポはふさふさで、くるんと丸まっているし、魔狼の特徴そのままだろ?」
よく目撃されているようだ。
「そんな目立つ獣が、好きに往来しているというのか?」
「先ほども言ったように、神出鬼没!」
と両手を振り回し始める所長。
「茂みに飛び込んだと思ったら、もう姿が見えなくなるのだ」
ありがちだが、テレポーテーションか?
「現れる時もそう、不意に現れるのだ。街中の屋根に出没するが、登っている所を見た者は誰もいないのだ」
「姿が消せるとなると、幻魔か? 魔狼の幻魔化は聞いた事がないが」
顎を撫でるフーコツ。
「その逆もあるよ。変幻自在の幻魔が、魔狼に化けているのかもね」
光呪術師の逆張りをする闇呪術師ミトラ。
「ただの逆張りであろうが!」
「逆張りは時に真実を突くのよ!」
「いい加減な逆張りは、事象を混乱させるだけじゃ!」
「混乱の混乱は、ぐるっと回って真実に辿り着くもんね!」
まあ、真実は、青き魔狼を捕まえれば分かると思う。
次回「聖女のいる修道院」(後)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
次回、第百三十話「聖女のいる修道院」後編は、明日の日曜日に投稿予定です。
読んで下さった方も、読まなかった方も、また明日。




