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「エルビーロ隊長の覚悟」(後)

式典(セレモニー)のたぐいは、お嫌いとの事でしたので、今、ここでお渡しします」

  と言って手に下げていた(かばん)を持ち上げるツァーガ副市長。


「おお」

とが言いながら、テーブルの皿を寄せて、隙間を作るミトラとフーコツ。


テーブルに鞄を開き、

「持ち運びに便利なように、報奨金はほとんどの国で使える宮廷金貨で(そろ)えました」

と言って、さして大きくもない布の袋をうやうやしく取り出した。


ぼくはついウッカリ、「ほとんどの国?」とつぶやいてしまった。

「はい。獣人の国では、残念ながら(いま)だ通用致しません」

  律儀に答えてくれる副市長。

「同盟を結んでくれないものね」

  と、ミトラ。


「かたじけない」

  と言って立ち上がるフーコツに(なら)い、

「よっ」とか「コラしょ」とか言いながら起立するミトラ、ジュテリアン、そしてメリオーレスさん。


「報奨金は、彼に渡して下さい。彼が私たちのチームのリーダーです」

  ジュテリアンが、ぼくを指して言った。


「あっ。なるほど黒マント。失礼致しました」

リーダーと見たのか、フーコツに渡そうとした小袋を持って、ぼくに向き直る副市長。


「これで旅路も楽になります」

  と、言ってみせるフーコツ。

ぼくは(こうべ)を垂れ、上段の両手で丁寧(ていねい)に受け取った。


拍手するツァーガ副市長、エルビーロ隊長と、二人の若い警備隊員。

この若い二人も、何か役職を押し付けられたお人好しか?


何事ならん? と、食堂の隅のぼくたちを見る客や従業員たち。

  まだ昨日の捕り物は、伝わっていないらしい。

いや、無頼団壊滅の一報は伝わっているが、それとぼくたちがつながっていないのかも知れない。

  さいわいである。


「スパイを働いてくれたザミール殿とカメラート殿は、どうしました?」

  と、フーコツ。

「もちろん、あのお二人にも報奨金と感謝状はお渡し致しました」

  と、副市長。

「『役目は終わったので』と申されて、早くにこの街を()たれました」

  と、エルビーロ隊長。


「あら。先を越されちゃったわね」

  と、ジュテリアン。

「この(たび)の無頼集団の拡大は、一にも二にも警備隊の挙動の遅さにありましたからな、面目次第(めんぼくしだい)も御座いません」

  うなだれる警備隊隊長。


「いや、黒幕の用心棒どもが狡猾(こうかつ)だったのじゃ」

  そのフーコツの言葉に、

「隊長を失い、副隊長を失い、腕の立つ部下を何人も失い、自分はおめおめと生き残り……もう、出家したいくらいです」

  と、言ってさらにエルビーロ隊長はうなだれた。


(ああ。この人、出家しちゃうんだ)

  と、ぼくは思った。

(供養の旅、と言うのは昔からあったもんなあ)である。

  感謝状も、ぼくが下段の腕で受け取った。


受け取ったお金と感謝状は、収納庫を開けて、仕舞い込んだ。

その様子を、「あらま」という顔で見ている隊長や副市長たち。

  見た目には、珍しいかも。


そして、食事を終えた四人娘は急いで着替え、警備隊の三人と副市長と、メリオーレスさんに見送られて、ぼくたちはアギアの街を後にした。


  街道を歩みながら、

「フーコツ、昔の仲間をあの世に送っちゃって、なかなか動揺してたね」

  と、言い出すミトラ。

「なっ、(なぬ)を言うか。悪人の首をチョンパしたくらいで動揺などせんわい」

  反発するフーコツ。


「いんや。バチンコに動揺してたね」

  容赦なく追い打つミトラ。

「どどどどど動揺なぞしておらんかった!」

 「してた! してた! してた!」

  まあ、この二人はいつもこんな感じだ。


「あたしらが首を突っ込まなくても、向こうから厄介(やっかい)事が舞い込んで来るんだから、これはもう天罰よね」

阿呆(あほう)。それも言うなら天命じゃ」

  フーコツが即座に突っ込んだ。


そんな取り留めのない話をしながら街道を進んでいると、突如としてミトラが叫んだ。

「あっ、あの池、凄いっ! あんなにザリガニが!!」


  街道から下がった草原に、大きな池があった。

「おおう。水も透き通っておって、ザリガニが丸見えじゃ」

  満月型の水草が、幾つも浮いている。


「あれは、入れ食いよねえ」

引き寄せられるように池への斜面を下りてゆくジュテリアン。

  水の屈折を差し引いても、中々の大物揃(そろ)いに見えた。


「お昼ごはんのオツマミね」

  と、ジュテリアン。

例によって、宿でお弁当を作ってもらっていた。


此奴(こやつ)らのお(かげ)で、旅人の路銀が節約出来ておる。ありがたい生き物じゃて」

  と、池の(ふち)に立って言うフーコツ。

「どれ。貧乏を代表して喰ろうてやろう」

  報奨金を(もら)ったばかりの身で、ぬけぬけと吐くフーコツ。


「パレルレ、干し肉をこれへ。ちょびっとで良いぞ。勿体無(もったいな)いからのう」

釣り用の竿(さお)、吟味して拾った丈夫な枝に糸を付けたモノは常備していたのだった。


  うじゃうじゃ居た。おそらく入れ喰いであろう。

「よーーし、食うぞう!」

  ぼくから竿を受け取ってガッツポーズを取るミトラ。

「その前に、釣るのじゃ」

  フーコツが、すかさず突っ込んだ。



           次回「バンガウアの戦死?!」に続く



お読み下さった方、ありがとうございます。

次回、「バンガウアの戦死?!」前編は、明日の土曜日に投稿予定です。


心配性の小生は、「バンガウア、死ぬの?!」と思って、慌てて読みました。

えーーっと、そんな事はありませんでした。

タイトルで小生並みにハラハラした人(いないと思いますが)、大丈夫です。

と、ここに宣言しておきます。

        ではまた、明日。


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